今のパーティがきっと最高!

 ユミナも加わったことだから、軽くザワザワ森を探索していきたい。

 流石に新メンバーが加わったばかりでボスに挑もうとするほどバカじゃないからな。

 どんな動きをするか慣らしていって、まずはそこからだ。

 俺が居ればどうとでもできるとはいえ、ソル達の成長だって必要だものな。

 パーティである以上、ひとりよがりな行動をするつもりはない。


「ユミナさんは僧侶なんですよね。なら、回復はお手の物ですか?」


「そうですね~。HPでも、状態異常でも、必ず治してみせますよ~」


 なるほど。基本的な回復は抑えていると。それなら、最低限の役割は果たしてもらえるな。

 仮に火力役ができたとしても、回復に専念してもらったほうが良いかもしれない。

 まあ、本人のやりたいことだってあるから、無理に押し付ける訳にはいかないが。

 それでも、言動からするに回復役をこなす感じの性格だろうな。


 だとすると、今の俺達にとってとても必要な存在になる。

 ザワザワ森の環境、つまり状態異常の問題を考えても。

 もうひとつ、不意打ちなどによってソル達のHPが減りやすいことを考えても。

 俺のサクリファイスヒールやポートコンディションも使えるが、手が多くて困ることはない。


「じゃあ、頼りにしてますね。ボクも壁に専念できたら楽なので」


「でしたら、わたしがクリスさんを癒やすのはどうですか~?」


「いえ、必要ありません。ダメージを受けていたところで、問題はないので」


 むしろHPが減っている方が都合がいいんだよな。

 まあ、説明して分かってもらえるかは怪しいが。自分からHPを減らしたいなんて言ったらマゾか何かと思われてしまう。

 別に嫌われはしないと思うが、変な目で見られるくらいはあるだろう。

 その辺を考えると、積極的にHPを削るつもりだとは言えないよな。


「なら、無理にとは言いませんが~。回復してほしい時は、すぐに言ってくださいね」


「ありがとうございます、助かります。ソルさんとセッテさんは、すぐに回復してあげてください」


「分かりました~。では、行きましょう~」


「クリス、本当に無理はするなよ。いつでも頼ってくれていいからな」


「そうだね。クリスくんよりは弱いけど、私達だって力になりたいんだ」


「心配しなくても、へっちゃらです。ボクは強いので。本当に行きましょう」


 それからザワザワ森に向かい、パーティとしての動きを確認していく。

 とはいっても、俺が守るべき相手が増えたくらいのものだ。

 ユミナの役割は回復役だから、そこまで動きに影響しない。

 HPが減った時にどう動くかは変わってくるとはいえ、まだ考えることじゃないよな。

 とりあえず慎重に動くだけで十分だろう。


 毒沼やイバラの影響で、徐々にみんなのHPが減っていく。

 それをユミナが回復していって、俺はだいぶ考えることが減った。

 みんなのHPを考慮に入れて使うスキルを変更する必要があったからな。

 でも、いまは盾役に専念しているだけでいい。簡単なものだ。

 とはいえ、実際の戦闘でユミナがどこまで動けるかだよな。


「みなさん、敵が見えました。戦いにいきましょう」


 前回も戦った、大きくて青い蝶だ。今回も俺が攻撃に参加していくつもりだ。

 ユミナはどこまで動けるだろうな。それによって俺の動きが変わる。


「いきます。アピールタイム。そして、カースウェポン」


 俺が火力役を担うおかげで、ヘイト管理は全く考えなくて良い。そこも楽なところだ。

 最悪の場合、回復役のユミナが狙われていくからな。避けた方が良い事態だよな。


「アタシだって! ハイスラッシュ!」


「私も行くよ。ハイファイア」


 ソルが切りつけ、セッテが炎を飛ばす。お互いに声かけしなくても、だいたい何がしたいか分かるんだよな。

 スキルは発声が必要だから声を出しているだけで、何も言わなくても連携できると思う。

 まあ、だからといって声かけの重要性を軽んじるべきではないよな。

 特に、今は新入りのユミナがいるのだから。ちゃんと役割を理解してもらわないと。


 今回もすぐに敵を倒せず、鱗粉をまき散らされる。ソルとセッテ、ユミナが毒を受けていく。


「キュアポイズン。もういちど、キュアポイズン~」


「ポートコンディション」


 ユミナが1人ずつ癒やしていくが、ちょうど俺の手が空いていたのでユミナを回復する。

 なるほどな。全体回復を持っていなかったか。出会った時にもソロだったし、まあおかしくはない。

 とはいえ、大したものだ。ザワザワ森で回復役がソロで探索するなんてな。

 まあ、それはいい。つまり、俺にも回復を担当する瞬間があるということだ。

 1人ずつ回復していては、もっと強い敵では手が回らないからな。今のうちから慣らしておくべき。


 何度か同じ事を繰り返していくうちに、今度はみんなのHPが減り始めた。

 なので、またユミナと手分けしてみんなを回復していく。


「ヒール。もう一回、ヒール~」


「サクリファイスヒール」


 同様の手順を繰り返していき、やがて敵のHPが倒れるところまで減る。

 そして、ソルが敵にとどめを刺していく。


「ハイスラッシュ! これで終わりだ」


「やりましたね。これなら、パーティとして最低限はやっていけそうです」


「そうだね。でも、まだまだ先は長い。しっかりと訓練していかないとね」


「わたしもですね~。もっと強くならないと~」


「ありがとうございます、ユミナさん。あなたが加わってくれて良かった」


「そうだね。おかげで、私たちももっと強くなれそうだよ」


「だな。アタシからも、感謝させてくれ」


 それからも何度か敵を倒していき、今日の冒険は終わった。

 うん、良いパーティになってくれそうだ。ユミナと出会えたのは、本当にいい出来事だったな!

 占ってくれたエリカにも、しっかり感謝しておかないとな! これからの冒険は、もっと楽しくなるぞ!



――――――



 ユミナはクリスたちのパーティに加わって、クリスの負担を減らすことを考えていた。

 回復役として周りの人間を癒やしていくことで、彼の役割が減るようにと。

 だというのに、ユミナの回復の手が回らないばかりに、クリスに回復役を担わせてしまう。

 ずっと僧侶として人を癒やしてきたユミナだから、簡単に分かったことがある。

 クリスの回復は、常にクリス自身のダメージと引き換えなのだと。


 つまり、自分が僧侶として未熟だから、クリスを余計に傷つけてしまったということ。

 考えるだけで胸が張り裂けそうで、でも彼の前で弱音を吐く訳にはいかなくて。

 ソルやセッテにも、何よりクリスにも感謝されてはいる。

 でも、まるで言葉が胸の奥に届いてこない。自分がこのパーティに居る意味は何なのだろう。真剣に思い悩んでいた。


 心がぐちゃぐちゃになりそうな気分を味わいながら、ユミナは地面に強く引っ張られるかのような錯覚を起こしていた。


「なんでしょう。体が重い~? クリスさんの方が傷ついているのに、わたしはなんて……」


 情けなさと苦しさと、いくつかの思いが。ユミナの心をむしばんでいった。

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