冒険者の憧れ、トリの街!

 第三の街、トリへとやってきた。

 町の入口に大きな門があって、とても気になる。

 『セブンクエスト』では街の外なんて描写されていなかったから、入り口にここまで大きいものがあるとは知らなかった。

 フィールドが無いというより、マップ間に継ぎ目がない感じだったんだよな。


「大きい門ですね。なにか理由があってここまで大きいんですか?」


「モンスターが入り込まないようにだよ。トリの周辺は強いやつばかりだからね」


 なるほどな。いちおう街の間にもモンスターはいたが、町の住人の脅威になるほどなのか。

 それはそうか。誰もが戦えるわけではないもんな。トリあたりからは強いモンスターも多いし、住民にとっては怖いよな。

 俺だって、ただの民衆として生きていたなら、モンスターに怯えていただろう。


「なるほど。知りませんでしたね。モンスターも街を襲うんですね」


「そうだな。だから、念のために警戒しておけよ?」


 ソルの言うことはよく分かる。ダンジョンでないから安心だと思うなということだろう。

 実際には何も無いのが一番だし、ゲームシステム的には何も起きない。

 とはいえ、万が一の事態が起こりうると考えろと。命がかかっているのだから、当たり前だよな。


「分かりました。しっかり気をつけますね」


「ああ。クリスは強いけど、不死身ではないんだからな」


「そうだね。最悪の場合に備えるのは大事だよ」


「ですね。ダンジョンと同じですからね」


「うんうん。十分だね。じゃあ、行こっか?」


「それにしても、アタシがトリに行ける冒険者になれるなんてな」


 まあ、第三の街は『セブンクエスト』ではそこそこ進行度が高いからな。

 そうなれば、上級者が行く街という考えでもおかしくはないか。

 なるほどな。ゲームバランス的な感覚が現実にも適用されるとこうなるのか。


 そのまま街へ入っていくと、かなり賑わっていた。

 モンスターに襲われる可能性があったとしても、人が多いものなのだな。


「大勢の人がいますね。危険な割には意外です」


「まあ、ここの冒険は報酬が多いからな。駆け出しでは来れない街なこともあって、冒険者の憧れなんだ」


「それに、冒険者が多いから、その人たち相手の商売人もいるんだよ」


 武器とか防具とか、アイテムとか食料とか。いくらでも売れそうなものはあるからな。

 それは、金が回る街になるだろうさ。いいな。文化を知るのは本当に楽しい。


「いろいろなものを売れますからね。納得です」


「例えば、この街では武器と防具が有名なんだよ。見ていかない?」


「そうだな。アタシもこの街の武器防具には憧れてたんだ」


 そうか。人が多いのならば、優秀な鍛冶屋も集まりたくなるか。

 この街の冒険者は実力があることがハッキリしているのだし、やりがいもあるだろう。

 俺の武器防具は最強だから、ソルとセッテだけが気にすればいい話ではあるが。


「なら、見に行きますか。ボクも興味があります」


 セッテに案内されるがままに着いていき、武器防具屋に入っていく。

 剣や盾、槍に杖、鎧や兜、本当に色々ある。

 見ているだけで楽しいが、俺は欲しいとは思わないな。特にコレクターというわけではないし。

 というか、かさばるだけだろう。それが悪いとは思わないが、俺の趣味ではない。


「ソルさん達は、なにか買うんですか?」


「だな。アタシは剣を新調したい。防具も良いものがあれば、だな」


「私は杖を買いたいかな」


 まあ、定番だよな。自分の武器防具を上位のものに変えるのは。俺だってゲーム中で何回も繰り返した。

 せっかくの機会なんだから、ソル達にはゆっくりと選んでもらおう。

 より強い装備を買った方が、二人が納得できる活躍ができるはずだ。


「じゃあ、じっくりと見ていってくださいね。ボクはもう満足しました」


「何も買わなくて良いのか?」


「はい。ボクの武器も防具も、どれも最強なので」


 実際、とてもこだわり抜いた装備だからな。『肉壁三号』なら、今以上の組み合わせなど存在しないと確信できる。

 だから、ソルとセッテが満足行く装備を買ってくれれば十分なんだ。


「なら、アタシはこの剣でいいかな」


 ソルが選んだ剣は、白く輝く刃が印象的なロングソード。

 見るからに美しいが、それだけではないな。しっかりと性能を感じる。

 なんとなくとはいえ、分かるものなのだな。意外だった。それとも、ただの思い込みだろうか。

 実戦の前に試し切りくらいするだろうし、ある程度は判断できるだろうが。


「防具は良いんですか?」


「ああ、総合的には、今のままで問題ないと思う」


 ソルの判断だし、そこまで疑う必要はないか。

 実際、この店には重そうな防具が多い。だから、動きやすさを重視するのは悪いことではないはず。


「そうですか。セッテさんはどうですか?」


「私も決めたよ。杖を買うことにする」


 セッテが持っている杖は、光を飲み込んでいるような黒。

 木でできたような見た目で、魔女っぽいセッテの格好によく似合っている。

 それに、今の杖からも性能を感じる。だから、きっと大丈夫。


「じゃあ、次からの冒険で装備が活躍してくれそうですね」


「うん、期待してくれていいよ」


「だな。ブザマな姿は見せないからな」


 防具の購入を終えて、俺達は今回の宿を確保していった。

 さあ、また新しい冒険が続いていく。今後も楽しみだ!



――――――



 ソルもセッテも、クリスの武器防具が最強という言葉にとても苦しんでいた。

 わざわざ拘束衣のような姿で最強の装備を作る。

 クリスを『肉壁三号』と名付けた者たちは、どれほど悪趣味だったのだろうか。

 想像するだけで胸が締め付けられるようで、二人ともがとても苦しんでいた。


 絶対に、クリスの過去には自分たちの知らない苦しみがまだまだある。

 彼の言動の節々から感じ取れて、ソルは歯を食いしばり、セッテは裾を強く握った。


「ねえ、ソルさん。クリスくんが過去を忘れられるように、ミリアさん達とも協力して頑張ろうね」


「そうだな。アタシ達がクリスの希望になってみせるんだ。そうじゃなきゃ、やってられないよ」


「だよね。クリスくんが笑顔になれないのなら、どれだけモンスターを倒したって意味がないんだから」


「ああ。だからこそ、アタシ達はミリア達と協力するんだ。生活を楽しんでもらうためにな」


 ソルもセッテも、戦いからクリスを遠ざけたいのが本音だった。

 だが、率先してダンジョンへと向かうクリスを止めることが、どれだけ彼を傷つけるか。それが容易に想像できていた。

 なにせ、戦いにとらわれていることはよく分かるから。

 せめて未来ではクリスが幸せでありますように。二人は強く祈り続けていた。

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