やっぱり俺は最強!

 再びアブナイ平原の攻略を繰り返し、ザコは何の問題もなく倒せるようになってきた。

 そこで、今度はセカンライノに挑む予定だ。前回よりも強くなっている相手だ。スキルも増えているしな。

 だが、今のパーティなら勝てると思う。最悪の場合でも、俺が前に出ればどうにでもできる。


「じゃあ、今日はセカンライノに挑みましょう。絶対にボクが守りますから、安心してくださいね」


「ああ。だが、クリスが傷ついたら意味がないんだ。逃げるのなら逃げよう」


「だめだよ、ソルさん。アブナイ平原のセカンライノは、逃げても無駄なんだ」


 そうなんだよな。ナダラカ草原で逃げてどうにかなったから逃げようとして、失敗して全滅したのはいい思い出だ。

 というか、ふざけた罠だ。ゲームだから良いが、現実だったら最悪じゃないか。

 だからこそ、セカンライノを倒せる実力を身に着けておきたい。

 いつまでも敵に見つからないというのは難しいだろう。だから、ちゃんと勝てる相手になってもらおう。


「そうですね。だから、不意打ちされる前に戦い方を学んでおきたいです」


「確かにな。自分から挑む方が状況は良いよな。分かった。賛成だ」


「だよね。いつまでも逃げてばかりじゃいられない。私だって頑張るよ」


「じゃあ、行きましょうか。大丈夫。ちゃんと勝てます」


 そもそも、俺がいるのなら魔王にだって勝てる。慢心ではなく、明確な事実だ。

 一人のほうが圧倒的に楽とはいえ、二人をかばいながら勝つなんて造作もない。

 俺が二人に合わせているのは、時間的余裕を感じられるのと、二人の意志を尊重しているからだ。

 あと、俺が二人と一緒のほうが楽しいということもある。それでも、本当に危ないなら一人で戦う。

 この世界の人間にとっては命がけの戦いなんだ。俺には最強のステータスとビルドという優位性があるだけ。


「うん、頼りにしているよ。でも、私達にも頼ってくれていいからね」


「同感だ。いくら強くても、人の助けは必要だろうからな」


「はい。お二人にも力を借りますね」


 だが、いざという時には俺がどうにかする。

 二人にもプライドはあるのだろうが、命より優先すべきこととは思えないからな。


 それからアブナイ平原に入っていき、セカンライノを見つけた。


「じゃあ、ボクが引き付けますね。お二人はスキをうかがって攻撃してください」


「分かったよ。行こうか、ソルさん」


「ああ。しっかりやるさ!」


「いきます。アピールタイム」


 まずは挑発スキルを使って敵の攻撃を引き寄せる。

 いつもの流れだし、セカンライノ程度の動きなら余裕で対処できる。

 一応、バフを使われたら注意する必要はある。俺は大丈夫だが、ソルやセッテに当たったらマズいかもしれないし。

 とはいえ、敵の攻撃は単純な突進だけだ。どうとでもできる。


「行くぞ、ハイスラッシュ!」


「私も、ハイウインド!」


 ソルが勢いよく斬りかかり、セッテが風を巻き起こす。

 どちらも直撃しているが、まだまだこれから。きっと長期戦になるはずだ。


「スラッシュ! もう一発、スラッシュ!」


「ウインド、私も、ウインド!」


 二人の連携もだいぶうまくなってきていて、的確に連続攻撃できている。

 お互いの邪魔にならないように攻撃を分散しつつ、それでもセカンライノに直撃しているからな。

 だが、まだ始まったばかり。俺が油断する訳にはいかない。


 そんな風に感じていたことは正しかったようで、時間が経過すると二人の動きに乱れが出てきた。


「はあ、はあ……まだだ! ハイスラッシュ!」


「くっ、当たって! ハイウインド!」


 体力の限界か、集中力の限界か。どちらにせよ、攻撃のタイミングや位置がズレている。

 ソルは反撃を回避できない場所から攻撃を仕掛けるし、セッテは危うくこちらを巻き込みかけた。

 まあ、俺は大丈夫だとはいえ、この調子ではマズいな。仕方ない、俺が出るか。


「いきますよ、ダンスマカブル」


 防御力を0にする代わりに、攻撃に大きなバフをかけるスキルをまず使う。

 流石に防御力が0ならば、まともに食らったらHPがゼロになりかねない。

 だが、関係ない。俺には他のスキルもあるんだから。


 セカンライノが足で地面をこすっている。相手のバフ技だ。ちょうどいいな。これなら、きっと良い威力を出してくれるだろうさ。そして、その威力がセカンライノを地獄に送ることになる。


「さあ、来てください」


 俺に向かってセカンライノは突進してくる。後は、最後のスキルだ。自動発動ではあるが、せっかくだからスキル名も口に出しておこう。


「さあ、ラストダンスです」


 致命傷を受けても、HPを1残して耐えるスキル。これがある限り、一撃の威力がどれほど高かろうが俺は倒せない。

 そのまま突進を受けていき、HPが1になった。後は、全力をぶつけるだけ。


「これで終わりです。フェイタルカウンター」


 俺が直前に受けたダメージが大きいほど、威力が高くなるスキル。今の状態なら、もっと強いボスだろうが一撃で葬れる。

 つまり、セカンライノはこれで終わりだ。俺が振り下ろした剣に当たって、真っ二つになっていった。


「大丈夫ですか、二人とも?」


「それより、お前こそ大丈夫なのかよ!?」


「ええ、問題ありません。いつものことですから」


「いつものことって、あんな強そうな攻撃を受けたんだよ?」


「大丈夫です。あれくらいでボクがどうにかなることはないので。じゃあ、帰りましょうか」


 セカンライノでも倒せると思っていたが、案外難しいものだ。

 やはり、ゲームとは何もかもが違うな。俺もこの世界に合わせていかないとな。

 だが、今日はひさしぶりに『肉壁三号』らしい動きができた。

 パーティとしてセカンライノに勝てなかったことは悲しいが、今日は満足だ!



――――――



 セカンライノに挑むことになったソルたち。

 今回は自分たちの力を発揮して無事に討伐してみせる。そう考えていた。

 そして、セカンライノと全力で戦っていく。

 下手を打って攻撃を受けたら厳しい。その結果、クリスに負担がかかっていく。そんなプレッシャーの中、必死で敵にダメージを与えていく。


 だが、徐々にソルたちは追い詰められていった。

 精神的な疲れなのか、肉体的な限界なのかはわからない。

 いずれにせよ、動きに精彩を欠いていることは事実。このままではマズい。そう考えながらも、何ら有効な対策を打てないでいた。


 今のままではクリスを守ることなどできない。二人ともが己の限界を振り絞る中、クリスは決意を秘めた目で前に出る。

 またHPをけずって攻撃するのか。ソルたちは己のふがいなさとともに歯を食いしばっていた。


 だが、事態は想像を遥かに上回っていた。

 クリスは何らかのスキルを使った後、無防備にセカンライノの攻撃を受けていく。

 その後、瀕死になったクリスが最後の力で放った一撃でセカンライノは倒れていく。


 ソルもセッテも、自分に対する情けなさでいっぱいだった。

 クリスに無茶をさせるばかりで、何の力にもなれていない。

 自分たちの無力が原因だというのはハッキリと分かっている。それでも、クリスが頼ってくれないという事実も、彼女達を追い詰めていた。


「私達は、結局クリスくんにとっては足手まといでしかないのかな……」


「そうかもな。それで? クリスから逃げて、あいつを悲しませるか? それとも、クリスが目の前で苦しむ苦痛に耐えるか?」


「本当に、どっちの方が良いんだろうね……」


 ソルもセッテも、心が引き裂かれそうな心地の中でうつむいていた。

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