誰かの成長だって嬉しい!

 何度かアブナイ平原にダンジョンアタックを繰り返し、そろそろ敵との戦いは簡単にこなせるようになってきた。

 そこで、そろそろセカンライノに挑もうか考えていると、ある提案をされた。


「ねえ、クリスくん。私達だけで戦ってどうなるか、確認させてもらえないかな?」


「そうだな。アタシ達がどの程度のものか、客観的に知りたいんだ」


 以前ソルが同じようなことを言っていたな。

 まあ、気持ちは分かる。パワーレベリングを受けているような感覚があるのだろう。

 命がかかっているのだから、楽しいどうこうでの問題ではないはずだ。

 俺のサポートが回りきらない時なんかに、十分な動きができるか心配みたいな感じだろう。

 とても大事なことだ。もちろん、構わない。万が一のときには俺が手出しすればいい。前回と同じだな。


「分かりました。では、全く手出ししなくていいですか?」


「クリスから見て、アタシ達にサポートは必要か?」


「そうですね。敵の攻撃を引き付けるというか、妨害する役は必要なのではないかと」


 ソルのスキルとステータスでは、どう考えてもセッテは守りきれない。

 それでも、最低限の被弾で抑えられれば勝てるかもしれない。

 だが、セッテがダメージを受けている姿を見たくないんだよな。俺のワガママかもしれないが、できれば受け入れてほしい。


「なら、お願いしようかな。敵の攻撃からは、かばわなくていいからね」


「分かりました。なら、任せてください」


 さて、ソルとセッテはどんな立ち回りをするかな。

 実力的には、同等のタンクさえいれば問題ないとは思うのだが。

 俺はソルとセッテと大差ないタンクのつもりで行動するか。

 圧倒的に強すぎる俺がいるから困るという話なのだろうし。

 それはそうだよな。誰かに頼りきりでは、成長は難しい。

 現実がよく分かっているからこそ、二人を信頼できる材料になるんだ。


「じゃあ、行こうか。私達も強くならないとね」


「そうだな。クリスにおんぶにだっこなんて恥ずかしいからな」


 ちょうどいいプライドに落ち着いたかな。

 誰かに頼ることを恥とせず、それでも自分の力を向上させようとする。素晴らしい。

 やはり、いい相手とパーティを組めた。最悪の場合、俺に依存するだけの人間と組む可能性だってあったはずだからな。

 自分の足で立とうとする姿勢は好ましい。だからこそ、失いたくない相手だ。いざという時は、全力で守る。


 それからアブナイ平原でモンスターと戦っていたのだが、あまり順調ではない。

 どうにも敵の攻撃を避ける立ち回りがうまくいっていない様子だな。

 まあ、俺が攻撃からかばいすぎていたせいかもしれない。ほとんど攻撃を通さなかったもんな。

 今の俺は敵を引き付けておくだけで、かばいはしない。だから、ターゲットが向いた時にとまどうみたいなんだ。


「うまくいかないね。どうしたものかな」


「なら、バフをかけましょうか? そこから少しづつ慣れていけば良いと思います」


「……分かった。クリス、バフをかけてくれ。今のアタシ達なら、必要だろうさ」


「そっか。クリスくんはバフもかけられるんだね。すごいね」


「……ああ。そうだな。本当に頼りになるよ」


「じゃあ、いきますね。フィールグッド」


 二人にバフをかけて、また同じように敵と戦っていく。

 今度はだいぶ余裕を持った立ち回りができているようだ。動きが速いから、多少反応が遅れても十分に間に合う。


「ここだな! ハイスラッシュ!」


「うん。私も。ハイファイア!」


 敵から狙いを外すこともなく、しっかりと対応できている。

 だからといって攻撃を間違って受けることはない。いい動きだな。


「単体なら簡単に倒せますね。なら、複数体と戦ってみませんか?」


「そうだね。ダンジョンを攻略するなら、一体だけを相手にする訳にはいかないよね」


「だな。アタシ達もやれるんだって見せてやるよ!」


 向上心が高くて良いことだ。だからといって、無茶な目標を立てているわけではない。

 しっかりと一歩一歩進んでいこうという姿勢が見えて、とても好ましい。

 本当に尊敬できる人たちだ。素晴らしい仲間をもてて、俺は幸運だよな。


 それから、オオカミとイノシシ、チーターと同時に戦うことに。

 基本的には俺が引き付けておくが、それでもスキルなしでは限界はある。

 ある程度ソル達にも攻撃が向かっていくが、ちゃんと避けているみたいだ。

 セッテにターゲットが向かうことなどほとんどなく、万が一攻撃されてもしっかりと避ける。

 ソルとセッテの二人だけでも一体くらいなら倒せそうな動きになっているな。


「当たらねえよ! お返しだ! スラッシュ!」


「この距離なら……ウインド!」


 自分たちのスキルでできるスキもしっかり理解しているようで、頼もしい限りだ。

 ちゃんと攻撃を避けられる立ち回りをしているからこそ、ターゲットが向かってきても対応できる。

 バフをかけた影響もあるとはいえ、これが本来の精神性というか、判断能力だろう。

 慣れない状況で緊張していたから上手く行かない側面もあったのだろうな。


「よし、セッテ! トドメを頼む!」


「もちろん! ハイウインド!」


 そのまま順調に二人は敵を倒していった。

 やはり、自信さえあれば勝てる相手なのだろうな。俺に頼れない不安か、あるいは他の感情かもしれないが、とにかく緊張が足を引っ張っていた。

 この二人なら、いずれ魔王だって倒せるパーティメンバーになってくれる。そう信じるには十分だった。


「やりましたね、二人とも。とてもすごかったです」


「ありがとう。いずれはバフなしでも勝てるようになりたいね」


「そうだな。まあ、アタシ達はパーティなんだから、ある程度は頼るべきだが」


「まったくです。ボクがいなくてもいいって言われたら、困っちゃいますね」


「ふふっ、そっか。なら、また頼っちゃおうかな」


「だな。代わりに、アタシ達にも頼ってくれよ」


「はい。よろしくお願いしますね」


 いったん区切りになったので、今日はここまでにして帰っていった。

 ソルもセッテも、出会った頃より明らかに成長している。嬉しいな。

 誰かの成長を祈るキャラではないつもりだったが、感動した。

 みんなと出会えたおかげで、俺も変化しているんだな。


 よし、せっかく出会えた仲間たちなんだ。このまま魔王討伐まで突き進むぞ!



――――――



 ソル達は自分たちの力を試すべく、クリスの手をあまり借りずに戦っていた。

 クリスの戦い方は自己犠牲がすぎるので、いずれは彼の手を離れたいとの考えからだ。

 だが、うまく行かない。見かねたクリスにバフをかけるかなんて提案されるほどに。


 クリスのバフの実情を知っていたソルは、ひそかに手を握りしめていた。

 それでも、自分たちだけではモンスターを倒しきれないと頭の冷静な部分が告げていたため、提案を受ける。


 一方、クリスについてまだ詳しくないセッテは、素直に感心していただけだった。

 『肉壁三号』という名前を知っていたから、バフならば大丈夫だろうとの考えもあった。

 そして、バフを受けたことで順調に敵を倒すことに成功する。

 喜びに浸っていたセッテだったが、帰ってからソルに告げられた言葉で心情は急降下する。


「なあ、知ってるか? クリスのバフは、自分にデバフを受けるものなんだ」


「えっ……? なら、クリスくんのバフを受けたら、彼は危険になるってこと……」


 当たり前のようにソルはうなずいて、だからセッテは泣き出したくなった。

 そのままうなだれるセッテ。結局のところ、クリスに負担を掛ける形でしか活躍できない。

 セッテは消えてしまいたいような思いと戦っていた。

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