4 あまあま! ケーキ魔獣の襲来

 オレンジメロン村にたどりつくころには、ポインセチアはへろへろになっていた。

 村の出入り口から、人々が雪崩のように走ってくる。

 へばっているポインセチアをかばうように、ソーダは前に出た。

「きゃあああああああッ」

「悲鳴だ!」

 ポインセチアが身を乗り出す。

 悲鳴に反応して、人々はさらに混乱したように逃げまどい、外へと流れ出ていく。

 ふたりは人々の流れに逆らうように、村のなかへと入りこんだ。

「いったい、なにがあった?」

 ポインセチアの問いに、一人の村人が走りながら答えた。

「魔獣だよ! 見たこともない新種の魔獣が現れたんだ!」

「どこにいる?」

「村の中心地区だよ!」

 いいながら、村人は去って行ってしまった。

 ふたりはうなずきあうと、村の中心へと走り出す。

 魔獣の気配が、だんだんと濃くなっているのに気づいた。

 肌にちくちくとしたいやな感じがする、独特の気配だ。

 さまざまな店が並ぶ、村の中心地に出た。

 広い十字路の真ん中に、見あげるほどの巨大な魔獣がでぷんとしたからだを震わせ、暴れている。

 ピンク色のからだは、ゼリーのように半透明。

 その見覚えのある魔獣のすがたに、ポインセチアは首を傾げた。

「ケーキ魔獣だ。こんなに大きな個体は見たことがない。食べすぎか?」

「さっきの喫茶店での、きみみたいだね」

「新作の創作魔法をかけられたいか?」

「いや、遠慮するよ。それにしても、凶暴化しているじゃない。いったい、どうしたんだろう」

 ケーキ魔獣から、ホイップクリームのような甘い体臭がただよいはじめ、口がむにゅんと、とがった。

 攻撃態勢だ。

 ポインセチアが杖をかまえ、応戦しようとした、その時。

「おとーさーん……おかーさーん……」

 後ろから、か細い声がした。

 ケーキ魔獣の口から、いちご色の液体が吹き出される。

 ポインセチアは瞬時に後ろをふり返った。

 驚いた顔をして立っている、五歳くらいの男の子を包みこむようにして、地面に倒れこんだ。

 ケーキ魔獣が放ったいちごの液体の甘いにおいが、ぷんと漂う。

 液体の落ちた地面からは、シュウウウウ……と音を立てながら、煙が立ちのぼっていた。

 地面が、とけている。

 触れたら、人の皮膚などひとたまりもないかもしれない。

 それを見た男の子は、ポインセチアの腕のなかで、泣きはじめてしまった。

「こわいよお……おとーさん……おかーさん……どこ……」

「大丈夫だ。私が必ず、きみをご両親のもとに届けてみせる」

 ニコッとほほ笑む、ポインセチア。

 ソーダはそれを、まぶしそうにしながら横目に見ていた。

 ポインセチアは男の子を背に、ケーキ魔獣に向きあった。

「きみの名前は?」

「ルルド……」

「ルルドくん。しばらく、そこの裏路地に隠れていてくれ」

「……え」

 ルルドは、泣きそうな顔をして、からだを震わせていた。

 そうとうこわい思いをしながら、両親を探して歩き回っていたのだろう。

「そうだな。わかった。いっしょにいよう」

「ポーチ。いけない、危険だよ」

 ケーキ魔獣の攻撃を受け流しながら、ソーダがかぶりを振った。

 しかし、ポインセチアは意を決したように、瞳をきらめかせている。

「ひとりにはさせない」

 ポインセチアは、杖をひとふり、呪文を唱える。

「やわき真砂のしゃくらよ、長きその身のうねりを見せよ」

 夜の空に、魔方陣が浮かびあがる。

 使い魔召喚の陣。

 地面が割れ、うねうねとからだをうねらせながら、魔ミミズが現れる。

「んぴゃあああああ、しゃっくん!!!???」

 ソーダが洪水のような涙をあふれさせながら、杖をぶんぶんと振り回す。

 ポインセチアはしゃっくんのからだを「よしよし」となでつつ、ルルドをたくした。

「しゃっくん。そこの路地裏で、この子と隠れていてくれ。なにかあったら、この子を守ってやってほしい」

 ルルドはしゃっくんのなかに、すっぽりとおさまった。

 ぞろぞろと地面をすべりながら、ふたりは路地裏へと身をひそめる。

 ソーダが「魔ミミズこわくないんだ」と尊敬したような声をもらしている。

 ケーキ魔獣の攻撃は、この間にも止むことはなかった。

 ルルドが路地裏に隠れたタイミングで、ソーダは気を取り直すかのように、呪文を唱える。

「はがねの盾を持つものよ、矛を砕いて光をしめせ。セベック!」

 青緑の陣とともにあらわれたワニの獣人セベックが、太いしっぽでケーキ魔獣の攻撃をはねのける。

 ケーキ魔獣の口から、虹色の液体が銃弾のように、次々と放たれた。

 ポインセチアは杖を振り、炎の呪文でじゅわりと気化させていく。

 とどめ、とばかりに、何本もの炎の矢を背後に作り出すと、ケーキ魔獣へと放った。

 ケーキ魔獣は、ろうそくが燃えうつったクリスマスケーキのように、ゆっくりと崩れ落ちていく。

「どうだい、ポーチ。ぼくのセベック、すごいだろう」

「そうだな。ワニの獣人まで喚びだせるようになっていたとは、すごいじゃないか。ソーダ」

「え! ほんと?」

「だが、とどめをさしたのは私だから、今回は私の勝ちだな! ハッハッハ」

「まさか、素直に褒めてくれるとは。……って、ポーチ。杖を!」

 あわてて体勢を立て直す。

 さっき倒れたばかりのケーキ魔獣が、ずずず……と起きあがってくる。

 ポインセチアは、こめかみをおさえた。

「再生能力? ケーキ魔獣がそんな能力を持っているなんて、聞いたことがない」

 ケーキ魔獣は本来、初心者魔術師でも倒せるような、子犬サイズの小さくて弱いモンスター。

 だが、今目の前にいるのは、村の家よりも大きく、攻撃力も比にならないほどの強さのボス級モンスターだ。

「……何かが、おかしい」

「うん。ホイップクリームの体臭、いちご色の体液で攻撃してくるから、このケーキ魔獣はショートケーキ派だと思ったよね。でも途中、虹色のシロップで攻撃してきた。つまり、レインボーケーキだ! これは、SNS映えを狙いはじめている。まさか、巨大化もバズりを狙っているんじゃないか……?」

「んなわけあるかーーーッ!」

 持っていた杖でソーダのほっぺたをぶすりとつき刺す。

 ほっぺたをへこませながら、「じゃあ、なんだろう」と笑うソーダに、ポインセチアは杖で自分の手のひらをとんとんと叩いた。

「ケーキ魔獣からもうひとつ、異質な魔力を感じる」

「……うん。微量だけど、たしかに。でもこんなの、いわれても普通の魔法師は気づかないよ。広い砂漠のなかから、一粒のダイヤモンドを探すようなことだ。きみが異常なんだよ」

「異常いうな! とにかく、このケーキ魔獣はどこかの誰かさんに、むりやり魔力を注ぎこまれ、むりやり暴れさせられてるということだ」

「どこかの誰かさんって?」

「大魔法戦争を邪魔しようとしている魔法師がいるといったのは、お前だろう」

「……なるほど」

 大魔法戦争に勝てば、必ず願いが叶う。

 だが、参加できるのは赤い月に正式に認められた魔法師一族の後継者だけ。

 赤い月から、正式な魔法師であるという紋章を授けられたとき、その一族は正式な魔法師と認められ、大魔法戦争に参加できるのだ。

 プリンガレット家の紋章は、いくつもの白銀の球体をまとう、黄金色の台形。

 その背後に、太陽の日差しのような美しい翼が広がる。

 ローブに刻まれたプリンガレット家の紋章をポインセチアは誇らしげにまとう。

 赤い月から認められた紋章を背負う誇りを忘れた魔法師を、ポインセチアは許さない。

 ケーキ魔獣に異質な魔力を注ぎこんだものを、探さなくては。

「まったく。魔法と魔法のぶつかりあいであるはずの大魔法戦争に水をさしたのは誰だ?」

「ああ。こりゃあ、ポーチに見つかったら、いっぱつで黒コゲだ。焼きすぎたトーストみたいにカリッと焼かれちゃうや」

「失礼な! 私はトーストを焦がしたことなんてないぞ!」

「どーせ、スサノヲさんが焼いてくれてるんでしょ?」

「うぐっ」

 その時、ポインセチアはハッと近くの納屋を振り返った。

「しゃっくん! 吐いて!」

「は!?」

 ソーダの叫び声とともに路地裏から、しゃっくんのだ液が水球のように納屋に飛んでいく。

「うわああああ!!!!」

 悲鳴があがると、納屋のなかからトンガリ帽子をかぶり、闇色のローブをまとった黒魔法師たちが、五人飛びだしてきた。

 見るからにめちゃくちゃ怪しい雰囲気の黒魔法師たちはハアハアと肩で息をしている。

「魔ミミズのだ液を攻撃に使う魔法師なんて聞いたことがない!!」

「お前たちが、この村にケーキ魔獣を放ったのか?」

 黒魔法師のセリフには耳も貸さず、ポインセチアが一歩前に、ザッと踏みだした。

「ふふん、そうだといったら?」

「笑ってしまうな」

「きさまらみたいな、温室育ちの魔法師なんかに、おれたちが負けるかよ! おれたちはな、たしかに赤い月に紋章をもらえなかった野良だよ。でもな、野望があるんだ。だから、きさまらなんかに、負けてたまるか!」

 黒魔法師たちはそれぞれ、おどろおどろしいかたちの杖をかまえた。

 あきらかに、黒魔法用の杖の造形だ。

 ポインセチアとソーダは、ぐっと杖をにぎりしめた。

「ポーチ、どうする。彼らの魔力はぼくたちとは比べ物にならないほど弱いものだとはわかるけれど……」

「ばかか、お前は」

「ええ~?」

「ちゃんと見ろ」

 杖をくっとあげ、ポインセチアは黒魔法師たちを指した。

 全員、右手の人さし指と薬指に、リングをはめている。

 あれは、ソーダがつけているものと同じものだ。

「全員、リングを右手につけている。つまり、利き手は全員、右。利き手には、魔力がたまりやすい。そして、リングをつけている位置。人差し指は魔術的に、他者を指す呪われた指。そして、薬指は魔力の指だ。心臓に一番近い指ともいわれ、魔力を一番引きこむ。あいつら、何かをしようとしている」

「たしかに、あのリングはぼくがしているのと似ているかもね。でも、ぼくのは、チョコレートパイン家の紋章が刻まれている、一族に代々受け継がれているもの。対して、あいつらがしている指輪はぼくの家のものと比べものにならないほどの粗悪品だよ。警戒するほどのことじゃないじゃないね」

「……そうか?」

 あごに手を添え、考えこむポインセチア。

 慎重な彼女に、ソーダはへらりと笑った。

「大丈夫。ぼくが、きみを守るよ。ぼくら、手を取りあった仲だろう」

「ふざけているひまがあるなら、杖をにぎれ」

「うーん。きびしいなあ」

 ぱりん……っ

 何かがわれる音。

 五人の黒魔法師たちのリングが、いっせいに地面に落ちる。

 あたりに、ぶわりと強大な魔力の広がっていく。

 肌がぴりぴりと毛羽立つ。

 ケーキ魔獣が「びえええええ」と鳴いた。

 リングに溜まっていた黒魔法師五人分の魔力が、じわじわとケーキ魔獣に流れこんでいく。

「どこが粗悪品だ」

「魔力の質が悪い。使い方も、適当だね。むりやり契約させて、常にムチを打ってつけているようなかんじ。魔獣の気持ちは全無視だね」

「……最悪だっ」

 ケーキ魔獣は、さっきよりも確実に強くなっている。

「ポーチ。どうする?」

「当然、なんとかする。私にはその自信がある」

「さすがは、聖なる炎(トーチ)」

「うざっ、その呼び方はやめろっていってるだろう」

「はいはい」

 ニヤリと笑んだソーダは、セベックを従え、ポインセチアの横に並んだ。

 軽やかに契約の呪文を唱える、ポインセチア。

「光の精霊シャランラよ。汚れなきまばゆいものを集め、きらめきとせよ」

 ポインセチアの砂金色の瞳の前に、照準をあらわす円がしゅうう、と浮かぶ。

 シャランラはありったけの光のちからを操作し、瞬間的にケーキ魔獣のすがたのみを透明にした。

 透明になったケーキ魔獣から、異物と判断されたものが、ぼわりと浮かびあがる。

 黒の魔力だ。

 おどろおどろしく黒々と光り、ケーキ魔獣のからだをむしばんでいる。

 まるで血潮のように、ケーキ魔獣のからだを流れているのだ。

 その一点に、ポインセチアは照準をあわせる。

「ここだ!」

 ポインセチアが作った炎の矢が、ケーキ魔獣目がけて放たれた。

 ごおおおお、という炎が燃える音を響かせながら、一直線にケーキ魔獣に向かう。

 しかし、それはあっけなく外れてしまう。

 透明になってはいるものの、ケーキ魔獣にもこちら側が見えているのだから、かわされてしまったようだ。

「ふふん。よし、計算通りだな」

 不敵にほほえむポインセチアに、黒魔法師たちがざわついた。

 いつのまにか、セベックがケーキ魔獣の背後に回っている。

 どすん!

 かわされた炎の矢が、セベックのしっぽのウロコに、はね返される。

 じゅううう、と燃える炎の矢が、ぶすり、とケーキ魔獣の背中に突き刺さった。 

 黒い魔力が霧のように、ケーキ魔獣のからだから抜けていく。

「背中の真ん中。そこだけ、黒い魔力が通っていなかったからな。最初から、狙いはついていたんだ。……ふん。強くはなったんだろうが、魔法の使い方がなっていなかったな。赤い月から紋章を得るにはまだまだといったところか」

 黒魔法師たちが、くやしそうにポインセチアをにらみつける。

「ぴいいいいいい」

 苦しげに鳴くケーキ魔獣の足を、ポインセチアはよしよしとなでた。

「大丈夫。ガス抜きするだけだ。こわくないからな」

 しゅるしゅると小さくなっていくお騒がせ魔獣は、みるみるうちに元の子犬サイズに戻っていく。

 ふたりは、見慣れたすがたに戻ったケーキ魔獣を見て、ようやくほっと息をついた。

「さて、あとは……」

 黒魔法師たちの目の前を、炎の矢が飛んでいく。

 燃えさかる矢は、生き物のように黒魔法師たちをぐるりと取りかこむ。

「んぎゃあああ! 熱……くない」

「熱くしてほしいならするが」

 平然といってのけるポインセチアに、黒魔法師たちが「いいですうッ」と叫んだ。

「おねーさん!」

 ルルドが路地裏から、しゃっくんに乗って、ずるずると出てきた。

 ソーダの「んぴぴぴぴい」という奇妙な悲鳴をバックミュージックに、ポインセチアは手をふった。

「さあ、ご両親を探さないとな。村の外にいるといいが」

 ポインセチアは、ルルドを乗せたしゃっくんと並び、オレンジメロン村の外へと向かった。

 ソーダは、炎にぐるりとまきつかれている黒魔術師たちを引きつれている。

 オレンジメロン村の外では、村人たちが不安そうにしていた。

 村から出てきたポインセチアたちを見て、ひとりの女性が走ってくる。

「……ルルド!」

 目に涙をため、女性はルルドの名を呼んだ。

「お母さん!」

 しゃっくんから飛び降りると、ルルドは母親の胸のなかに飛びこんでいった。

 あとから、父親も駆けより、三人で抱きしめあっている。

「よかったね。ご両親、すぐに見つかって」

 ソーダがポインセチアの肩を叩く。

「そうだな」

 ルルドとその両親が、「すみません」と走りよってきて、ぺこりとお辞儀をした。

「助けてくださって、ありがとうございました。村で暴れていた魔獣も退治してくださったそうで……」

「いえいえ」

「あの、御三家の魔法師のかたたちですよね?」

 父親がいうと、ポインセチアは「はい」とうなずいた。

「ケーキ魔獣はいったいどうしたんでしょうか。ふだんはとてもおとなしい魔獣なのに」

「……黒魔法師のしわざのようです。彼らが、ケーキ魔獣に魔力を注ぎこんで、あんなことに」

「黒魔法師?」

「危険な魔法をあやつる魔法師のことです」

 ポインセチアは、ソーダの杖につながっている炎に捕らえられている、黒魔法師たちを、ルルドたちに見せた。

「……同じ魔法師でも、えらい違いだ」

 父親はひどいものでも見るように、黒魔法師たちを見つめる。

 すると、ひとりの黒魔法師が「ふん」と鼻を鳴らした。

「何も知らない一般人が、えらそーに」

 父親たちには聞こえなかったようだが、ポインセチアとソーダには、かすかに聞こえた。

 さみしそうで、何もかもあきらめているかのような、そんないい方だった。

 ルルドや村の人たちと別れると、ポインセチアはようやくとばかりに、「うーん」と伸びをした。

 ソーダが杖につながる炎をながめながら、何気なしにいう。

「こいつら、どーする?」

「魔法警察に届けたいが、今はそんなひまはないし、スサノヲに電話しても待っているあいだは待機だ。うーん、放置するか」

 黒魔法師たちが「びゃあああ」と泣きわめいた。

「放置するなら、この炎をなんとかいていけ!」

「それだと逃げるだろう! 大魔法戦争のあいだだけだ、がまんしろ!」

 炎にまとわりつかれているのは、決して快適な状況とはいえないのだろう。

 黒魔法師たちが、ぎゃあぎゃあとわがままをいいはじめる。

 ソーダがポン、と手を叩いた。

「ベルさんのところは? ここから近いし」

「それはできない!!!!!!」

 断固拒否とばかりに、ポインセチアが吠える。

「でも、ここに放置していくわけにはいかないだろう。赤い月が見ているぞ」

「ううっ。しまった。そうだった」

 正式な魔法師と赤い月に認められている以上、非道なまねはできないのだ。

 何しろ、自分にはプリンガレット家の肩書があるわけだし。

 ソーダのいいぶんはもっともだった。

 ポインセチアは、ソーダから炎を杖の先っぽで受け取った。

 それを、くいっとあやつる。

 矢だったものを、しゅるるんとつなぎ合わせ、炎のカゴを作った。

 そこに黒魔法師たちを閉じこめ、宙に浮かして、連れ歩く。

「久しぶりだなあ。ベルさんにお会いするの。いつかのパーティ以来だ」

「……あのおじいさまと会うのに、そんなにわくわくできるのはお前くらいだぞ」

「そうかな? あんなすごい人、めったに出会えないからね」

「少なくともプリンガレットの人間は、だいたい真っ青な顔をして、おじいさまに会いに行っている」

「ははは、確かに。パーティでもみんな、ベルさんの前ではぎこちないもんな」

 笑顔のソーダとは反対に、ポインセチアの表情はどんどんの固まっていく。

 とりあえず、このカゴの中身を引き渡して、さっさと帰ろう。

 ポインセチアはそうひそかに誓うと、祖父の屋敷への道をとぼとぼと歩き出した。

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