第2話 初めての客(1)

 今日は、『不・純喫茶〜幻』初日


 あえて、宣伝はしなかった。

 インスタ、ツイッター、アメブロだけは細々とやっていたが、先ずはひっそりスタートしたかった。


 スタートダッシュが肝心だよと、友人のアドバイスもあったが、そこはそれ。

 なんせ、ここは実在しないのですから、宣伝は必要無いのです。


 さて、コーヒーの淹れ方だけは、自信があるわたくし。学生時代のアルバイトでコーヒーを淹れ始めてから、二十年以上のほぼ毎日コーヒー漬。

 金がないときは、安い豆で如何に美味しく淹れるか試行錯誤。今思うと、この安い豆が私のコーヒーを育ててくれたような気がする。


 開店から、一時間が経つ。

 11時になるが、多分誰もも来ないだろう。


 ラテの練習でもしようかと、ミルクを用意していた時、初めてのお客さんがドアを開けた。


「いらっしゃい、お好きな席にどうぞ」


 と、言うと


「カウンターでも良いかしら」


 四十代後半の落ち着いた感じの女性だ。

 いきなりカウンター、私の心臓がAEDを探し始めた。


「カフェラテお願いします」

 と、私の手書きのメニューを見ながら女性は注文した。


 初めての注文が今練習しようと思ってたカフェラテかよ。

 私の手が小刻みに震えていたが、その女性はメニューを凝視していたので気付かず次の注文をした。


 カフェラテ、パフェ、ショートケーキ

 

 彼女のスマホは「カシャ、カシャ」音を立て続けた。

 スマホが大人しくなり、パフェとショートケーキを半分食べた彼女は加工した写真をインスタに上げ、やっと店は静けさを取り戻した。


「インスタですか」


 私は、恐る恐る彼女に声を掛けた。


「そうなのよ、私グルメな写真を載せてるのね。本当は、リア充なんかもう流行らないのは分かっているけど、フォロワー数を増やして見返したい人が居るのよ!」


 いきなり、ハードな・・・

 しかも、かなり拗らせてるような・・・


「大変ですね」


 としか、返せなかった私・・・


 落ち着いた雰囲気だけど、目が殺気立っていて孤独感漂う彼女に


「あまり、背伸びしないほうが・・・」


 とは、言えなかった・・・









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