真夏の祭典とコスプレイヤー2
事務所の方へ顔を出すと、見知った顔がソファに座っていた。腰越高校に通っている生徒なら知らぬものは居ないであろう
その横に、何故かありさが座っていた。
こちらに気がついた佐渡晃は、右手を上げて爽やかスマイルを俺に向けた。こいつ俺まで落とそうとしてやがるのか。
「やあ、はじめまして杉浦君。僕は─────」
「佐渡晃先輩ですよね?」
「おお。僕の事を知っているんだね」
佐渡晃は嫌味なくそう言い切った。あくまでも自分の事なんかを知ってくれているのか。そんな感じで。
「腰越高校に通っていて、佐渡先輩の事を知らない人なんかいませんよ」
「杉浦君も
「はい。佐渡先輩の一個下の一年です」
「そうかい。別に敬語なんて使わなくて良いからね」
体育会系特有の敬語マウントか、とも思えたがやはり佐渡晃に嫌味のような物は一切感じられない。本心からそう言っているように思えた。
愛想笑いだけしてなんとか誤魔化してやり過ごし、本題を聞くとしよう。
横に座るありさ、やってきた理由。どちらから聞こうか。
「先輩、横に座っている女の子は……」
するとありさが元気よく返事をする。
「さわたりありさ、ごさい!」
「ありさはちょっと黙っててね」
佐渡晃は一度ありさを制した後、こちらへ向き直り、続けて言った。
「今回はうちの妹がお世話になったそうだね。ありがとう」
頭を下げる佐渡晃に少し遅れてありさも頭を下げた。
「いや、別に今回の件は俺がどうこうしたって訳ではなくて、奏がやった事なんです」
上にいるので呼びましょうか?と言葉を続けようかとも思ったのだけれど、なぜか言葉は出てこなかった。
「奏って一年生の奏さんの事かい?」
「そうです」
なぜか佐渡晃は奏汐音の事を認識しているようだった。
まああいつは普通にしてれば可愛いし目立つからな。
「なるほど。奏さんにもお礼を伝えておいて貰えるかな?」
「はい。わかりました」
奏をここに呼びつければ、全て丸く解決する。
奏汐音と佐渡晃を引き合わせられるし、佐渡晃もお礼を伝えられる。
それなのになぜか、俺は呼ぼうとはしなかった。
「じゃあ、今日の所はこれで帰らせて貰うよ」
ありさがはあちゃんに会いたいと言うが、佐渡晃はそれを制して言った。
「今日は菜奈がバイトで迎えに来れる人が居ないからダメだよ」
ありさは少し不満そうではあったけど、渋々と言った様子で「うん」と頷いた。
聞き分けのいい子だな。
「じゃあ杉浦君また。あと、これを」
渡してきたのは四つ折りにされたメモ帳の切れ端のような物だった。
不思議に思い開いて内容を確認しようとすると、
「後で一人の時に見てくれないかな」
「はあ。わかりました」
「じゃあまた」
そう言ってありさの手を引いて先輩は扉に手を掛けた。
見送る為に俺も続いて外に出た。
「ばいばい」と名残惜しそうに手を振るありさの姿が印象的だった。
二人の姿が見えなくなるまで見送ったのだけど、ありさはずっと振り返りは手を振り、振り返りは手を振り、を繰り返していたのだった。
なんともかいがいしいな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます