第5話 姉さんとお風呂(千影視点)

 姉さんが作ってくれた朝食を食べた後、ワタシと麻美さんは配信部屋に移動した。


彼女が初めて来た時は機材の使い方について少し触れただけなので、本格的に教えるのは今日が初めてになる。


「麻美さんって、タイピングは得意?」

パソコンで何かする際の基本だからね。知っておきたい。


「…練習はしたけど、千影さんに比べたら遅いだと思う…」


なら、ある程度の基準はクリアしてそうね。人差し指だけのタイピングだったらどうしようかと…。


「それじゃ、タイピングソフトでお手並み拝見しても良い?」


「…うん」


ワタシはデスクトップパソコンを起動し、麻美さんを椅子に座らせる。


「そんなに緊張しなくて良いからね。軽くチェックしたいだけだし」


「…はい」



 麻美さんのタイピングを見守った結果、彼女の入力速度はワタシと同程度かな。

それがわかって一安心ね。


「後は動画編集だけど…、やったことある?」


「…ないです。千影さんのようなVTuberになりたいと思ったのは、ついこの間なので…」


「そっか。じゃあ、お昼までワタシがやってるのを観てもらおうかな」


「…お願いします」

頭をペコリと下げる麻美さん。


誰かに見られながらやるのは緊張するけど、頑張らないとね!



 動画編集の休憩中、ワタシは掃除中の姉さんにお昼も麻美さんと一緒で良いかを尋ねた。食事は親睦を深める機会になるからね。


姉さんは快くOKしてくれた。夜は麻美さんと健司が同席になるので、誘う気はない。



 お昼の時間になり、ワタシ達はリビングに入った。メニューは…、焼きそばみたいね。相変わらずキノコたっぷりでおいしそう。


「悪いわね。掃除で疲れちゃったから、簡単なもので」


全員着席した後、姉さんが謝ってきた。


「良いのよ。姉さんこそお疲れ様」


「そのおかげで、やりたい掃除はほとんどできたけど」


「そうなんだ。凄いわね」

家事手伝いのメインである掃除がほとんどできたなら、退屈な時間が出るかも?


他にお願いしたいことを考えたほうが良いかしら…?


「もし時間が空いたら、この辺りのジョギングをするつもりでいるわ」


「…え? ジョギング?」

ワタシ、考えてたことが顔に出てた?


「朝、三島君に言われたのよ。『何か趣味を探してみては?』って。このあたりの地理を知りながら運動するつもりだけど、良いわよね?」


「もちろん。オンとオフの切り替えは重要だから」

ワタシも運動したほうが良い気がする。若い頃よりお腹のお肉が…。


「麻美ちゃんは、千影のそばで見学を続けるの?」


「…そのつもり」


姉さん、麻美さんを誘う気だったのかな…?



 お昼が済んでから、再び動画編集を続けるワタシ。麻美さんはそばで見守っている。こまめにメモを取ってるし質問してくるから、やる気はあるようね。


ただ、やる気があっても成功するとは限らないけど…。努力が報われる保証がないのが辛いところね。まぁ、どの業界にも言えることか。



 夕方になり、動画編集を終了した。ワタシは一通り動画をチェックしてから公開する。いつものペースで視聴されると良いんだけど…。


「これがワタシのVTuberとしての流れね。何か気になることはある?」


「…ずっとパソコン観てて目が疲れた…」


「それは慣れね。慣れるまで無理しちゃダメよ」


「…はい」



 今日はVTuberとしての活動は終わりなので、麻美さんにそれを伝える。彼女は納得し、帰宅していった。


それからすぐ、ワタシの携帯が鳴った。…健司からか。何の用だろう?


『残業することになっちまった。夜はいらんし遅くなるから、千恵美さんに先に風呂に入るよう伝えてくれ』


健司も大変ね…。家にいる時はバカ丸出しだけど、一応ちゃんと仕事してるみたい。


ワタシは『わかった、頑張りなさいよ!』と返信した。



 夕食の時間になり、ワタシと姉さんの2人きりで食べる。健司がいないから麻美さんを誘う事も出来たけど、姉さんのことを考えて止めた。


「麻美ちゃんはどう? VTuberとしてやっていけそう?」

麻美さんを気にかける姉さん。


「それは何とも言えないわね。やる気はあるみたいだけど…」

ワタシができるのはアドバイスぐらいね。


道を切り開くのは、麻美さんに頑張ってもらうしかない。


「ふ~ん。麻美ちゃんは大器晩成タイプかもしれないから、長い目で見ないとね」


「わかってる」

麻美さんとは切磋琢磨できると良いな。



 いつものお風呂に入る時間になり、ワタシはかけ湯をしてから髪を洗う。

その最中、突然浴室の扉が少し開いた。


「一緒に入って良い?」


姉さんが首だけ出してワタシを観る。


「なんで?」

いい歳した大人同士なのに…?


ってやつよ。あんたは若いからピンと来ないかな?」


「ワタシと姉さんって、3つしか違わないじゃん…」


「それより、良いの? ダメなの?」


「…別に良いけど」

本当の狙いは、その内わかるでしょ。


「ありがと」

姉さんが返事し終わった後、扉は閉まる。


…すぐに再び開き、タオルを持たない状態で入ってきた。

姉さんはかけ湯をしてから、湯船につかった。



 「あんたの胸の大きさって、あたしと大して変わらないわよね?」


ワタシは今髪を洗っているから、胸が丸見えになる。…用件はこれなの?


「そりゃそうでしょ。姉妹なんだから」

そう言い終わったところで違和感を覚える。そうとは言い切れない…。


「その顔、あんたも気付いたみたいね。ってことが」


千春姉さんは、ワタシ達3姉妹の次女にあたる。ワタシより2歳上だ。


「ワタシが家を出る前の記憶でも大きかったけど…。再会した時も大きさを維持してたのは驚いたわ」


大きさもだけど形も良かった。巨乳ならではの苦労はあると思うけど、羨ましい。


「あたしが中1の頃、千春のお風呂中に突撃したことがあるのよ。あの子の大きさは本物よ。“大きく見せるブラ”とかじゃないから」


「姉さん、そんな事したの? 怒られなかった?」


「全然。『お姉ちゃんのエッチ~♪』って笑いながら言ってたわ」


千春姉さんが怒るところなんて、想像できないなぁ…。


「その後はどうしたの?」


「あたしが千春の背中を洗ったわ。好奇心に負けて、後ろから数回揉んだけど」


ワタシが知らない間に、そんなことしてたんだ…。2人が仲良いことを知って安心したよ。



 「千影。千春にここの住所教えちゃったけど、良かったわよね?」


いつの間にか、そういう話をしたみたい。


「もちろん。千春姉さんに隠す必要ないから」


「あの子『近い内に行くわ♪』って言ってた。3人揃うのが楽しみね」


「…そうね」


高卒で家を出た時、まさか家族関係が修復するなんて思ってなかった。

今はあの時のように避ける理由はないし、姉さん達と親睦を深めよう。


ワタシも…、古賀家の女なんだから。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

オレと彼女の元に、運命の女性2人がやってきた! あかせ @red_blanc

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ