赤い糸を切った

 私には、愛する人がいる。


 とっても優しくて、とっても強くて、とってもカッコイイ人。

 私のことをいつも第一に考えてくれて、いつも助けてくれる人。


 そんな彼のことが、私は大好きなんだ。



 でも、私は彼のことを第一に考えることは出来なかったみたい。


 目の前で、車に轢かれそうな人がいる。

 

 私は、つい走り出してしまった。


 彼は、私に手を伸ばして声をかけた。もちろん、引き返すことはできたけどそれはしなかった。


 きっと、あの人が死んだら大勢の人が悲しむからって。



 ――私は、愛されたことは一度もなかった。


 彼に会うまでは、誰にも見向きもされなかった。



 死ぬ直前になって気づいたんだ、私は誰にも愛されていないわけじゃなかったって。


 だって、私には彼がいた。


 赤い糸で結ばれた、お互いに愛してる恋してる……彼が。



 だって、おかしいよね?


 私って、誰にも愛されなかったんだよ?

 誰にも、見られなかったんだよ?

 誰にも、守られなかったんだよ?


 ――もう、遅いことは知ってる。彼が悲しむことを、今気が付いた。


 目の前には、救った人がいて

 目の前には、車があって


 後ろには……彼がいる。


 今まで愛されなかった分、彼に愛されたかったな。


 ――ごめんなさい


 満面の笑みで、私は死ぬことにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

赤い糸を切ってから @AI_isekai @isekaiAi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ