黄昏の悔悟

あめはしつつじ

記憶と記憶

「赤上げて、

 白上げて、

 赤下げないで、

 白下げる、

 赤下げて、

 両手上げて、」


「ばんざーい、

 ほら、お着替えするから、

 ばんざいして、

 ばんざーい」

 私はいやいや、

 と首を振る。

「自分でやりたいの」

 自分?


 旗上げゲームの、

 レクリエーションの時間が終わり、

 着替えをすますと、

 おやつの時間。


 今日のおやつは、

 今年初めてのスイカ。

「ほら、もう、あなたは、

 そんなに、

 口のまわりをベタベタさせて」

 と口を布巾で拭かれる。


 スイカを食べたら、

 お昼寝の時間。

 おねしょをするから、

 必ずトイレに行ってから。

 母と一緒に、

 暑いのに、

 手をつないで、

 眠る。

 雨が降っている、

 夢を見た。


 おむつを替えて。

 相撲中継を見て。

 夕食の時間。

「お母さんは食べなくていいの?」

「うん、いいの。

 お母さんはお腹いっぱいだから。

 食べた後は、ちゃんと、

 歯を磨きましょうね」


 逆さまの保育園みたいだ、

 と私は思った。

 施設を、

 私は出た。

 母を預けて。

 夏は日が高くて、

 十九時を過ぎても、

 夕暮れ。

 雨あがりの澄んだ空に。

 保育園からの、

 家までの帰り道。

 母と手をつなぎ、

 こんな夕焼けを見た。

 もっともっと見たかった。

 けれど、

 一日は終わってしまう。

 人間とは記憶。

 あなたはだあれ?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

黄昏の悔悟 あめはしつつじ @amehashi_224

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ