第1章ー5話 飛べた壱鳥とつぶれた心

「にわとりが飛べないなんて概念、ぶち壊してやる!」

 その時、ついに…

「と、飛べたああああああああああ!」

「壱鳥! おめでとう!」

「すげぇな、壱鳥」

 僕は、空中に飛んでいたのだ。

「やったあー!」

 にわとり地区に響くくらいの大声で叫んでいた。そのくらい飛べるのが嬉しかったんだ。にわとりが飛べないなんて概念、ぶち壊してやったんだ。(まあ、鳥三郎は飛んでいたけど。)僕自身の体で飛べたことがあり得ないくらい嬉しかった。

「壱鳥、頑張ったな」

「ありがとうございます。鳥三郎さん」

「あとは、ジャンプから飛べるようになることだね」

「そうですね」

 ジャンプの高さからは難しいだろうな。

「壱鳥は本当にすごいな」

「ありがと、鳥空」

「俺も頑張らなきゃだな」


   ◆鳥空◆


 ついに、壱鳥が飛んだ。俺はまだ飛べてない。(まあ、壱鳥の方が頑張ってたから当たり前か。)そろそろ頑張らないとだな。カラスに勝ちたいし。


 一年前、現実世界にいたとき、ご飯をカラスに奪われてしまったことがあった。

 俺はその時、壱鳥に能天気に『大丈夫大丈夫、昼食べなくても生きていけるよ』って言ったんだけど、内心すごく傷ついてたんだよな。壱鳥の様子も変わって、俺も怒りを抱いた。でも平気を装った。これ以上傷つきたくないから。ある日、壱鳥がくちばし刺してカラスを追いやった時、すげぇなって思ったけど、俺自身で追いやりたかったし、なんかやりきれない感じがしたんだ。いつかスッキリするくらいカラスを攻撃したいって思うようになった。

 そして、今チャンスが俺に歩み追ってきてくれた。多分、壱鳥も同じ気持ちだろう。

 でも俺は努力しなかった。自分にはできないと思ってた。鳥三郎さんは特別な存在だったから飛べるようになっただけだって、なぜか自分に言い聞かせてたんだよな。あの時、カラスを追いやったのは壱鳥で、俺は何もできないって勝手に思い込んでた。でも一緒に生まれてきて、一緒に暮らしてきた壱鳥が飛べたんだ。俺より壱鳥の方がすごいのは当然だけど、俺も頑張れば飛べるんじゃないかって思えた。


 俺も必死に飛ぶ練習をしよう。そして絶対、カラスに勝ってやる。そういう気持ちが高まった。俺も、


「壱鳥、俺も飛ぶの頑張るわ」

「鳥空、そう来なくっちゃ」

「鳥三郎さん、俺、頑張ります」

「頑張れよ!」


 バサバサ。バサバサ。バサバサ。バサバサ。

 バサバサ。バサバサ。バサバサ。バサバサ。

 俺はそれから壱鳥と同じように練習した。一日中頑張った。


   ◆壱鳥◆


 ジャンプから飛べるように頑張ろう、って思ってたけど……

「行け! ……駄目だ」

「諦めないで、壱鳥。絶対できるようになるから」

「そう言われても、鳥三郎さん。難しいんですよ」

「分かってるよ。僕も経験してるんだし」

 バサバサする。一生懸命バサバサする。それでもできない。

 つらい、つらすぎる。なんでこんなにつらいんだろう。飛べるまでは順調だったのに。ジャンプから飛び始めるのって、こんなに難しいんだ。

 でも諦められない。鳥空も頑張ってるんだ。鳥三郎さんも頑張ったからできるようになっているんだ。絶対できるようになってやる。

「行け! ……難しい」

「頑張れ」

 息をのむ。絶対に成功させてやる。

「行け! ……⁉」

「と、飛べたーーー!」

「すごいよ。よく頑張った」

「ありがとうございます」


   ◆鳥空◆


 あれから頑張った。たくさん頑張った。山を使えるくらいまで頑張って成長した。

「今度こそ」

「鳥空、頑張ってるね」

「うん。壱鳥はどう?」

「ジャンプから飛べるようになった」

「まじで? すげぇな。俺も頑張るわ」

 山から飛び降りる。滑空するが、……あっ、無理だ。プールに着地した。

「鳥空」

「はい、鳥三郎さん」

「君は飛ぶのが少し難しそうだから使うか」

「何をですか?」

「最終兵器を」


「えっ? これでやるの?」

「そうだ。砲台から勢いよく発射し、飛ぼうとするんだ」

「分かりました!」

 3……

 2……

 1……

 発射!

 ドン!!!!

「……飛べた⁉」

「飛べてないよ、鳥空。下」

「え?」

 自分の下を見てみるとそこには通りかかった鳥がいた。一瞬理解に苦しんだが、分かった。

 俺はただ他の鳥になんだ。

「そんな……」

 心が曇り始める。俺はやっぱりできないのか? どうなんだよ。


 答えは返ってこない。


 俺は壱鳥に追いつけない。

 そんな……

 やだ。

 やだ。

 やだ。やだ。やだ。やだ。やだ。やだ。やだ。やだ。やだ。やだ。やだ。やだ。やだ。やだ。やだ。やだ。やだ。やだ。やだ。やだ。やだ。やだ。やだ。やだ。やだ。


 心が石につぶされたように重くなった。

 次の日から俺は練習に行かなくなった――。

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