第7話 踏み出す1歩

 週明けのこの日、春明はいつもよりも早く支度を出て志乃の家へと迎えに行く。

 今日は彼女にしてみればいわば高校初日。

 それを祝うかのようにうららかな日差し、空を見上げれば雲一つない。


 待ち合わせの時間よりもまだだいぶ早かったが、志乃はすでに家の前で待っていた。


「おはよう」

「お、おう……」


 ベージュのブレザーに緑のリボン、プリーツスカートの彼女はなんだか新鮮だった。

 もちろん似合っている。


「行ってきまーす」


 玄関のドアを開け、大きな声でのあいさつに行ってらっしゃいという家族の温かい返事が聞こえ、二人で通学路を歩き出す。


「あっ、そうだ。これ……」

「なに?」

「ほんとは昨日渡しておけばよかったんだけど、その……クラスメイトのリスト。ちょっと前から作ってて……」

「えっ……こ、これ、もしかして全員分」

「う、うん。先生とほかにもちょっと協力してもらったから、割とあてにはなると思う」

「っ! なんで、そんなに戸田君は……もうっ!」


 渡したノートを抱きかかえ、軽く腹パンチを食らったが表情は嬉しそうで、怒っているわけではなさそうだ。

 学校が間近に迫って生徒の数も増えてくる。

 志乃は春明の袖をぎゅっと握ったりもしていたけど、それでも期待に胸を躍らせているかのような輝いた目をしていた。


やがて校門が見えてくる。今週は挨拶週間のようで何人かの風紀委員の生徒が立っていて、生徒に率先して声をかけていた。


 志乃はといえば校門前で立ち止まる。

 ここを1歩超えれば学校内だ。感慨深いものがあるかもしれない。

 にこやかな笑顔を浮かべ振り返ったと思ったら、あっさりとその一歩を踏み出し、


「私、板垣志乃。まずは友達になってください」

「っ! と、戸田春明。よ、よろしく」


 差し出されたその柔らかな手を握り締める。

 途端にほかの生徒の視線が気になりだす。今までよりもさらに恥ずかしくて死にそうな毎日が始まるような予感がした。

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学校に来ていない隣の席の陽キャな美少女を手助けできるのは、人付き合いが苦手なぼっちで陰キャな俺だけな件 滝藤秀一 @takitou

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