2、準備

 母のの死に暮れる暇もなく─まぁ、ザフィーアが暮れる訳がないが─、登殿の準備は慌ただしく進んでいた。


 準備とは言っても服や調度品に関してはヴァイスとザフィーアがお手伝いの人に指示をするだけである。

 

 ヴァイスとザフィーアの準備というのは、専ら作法や所作、嗜みに関してだ。


 母のローゼが「インポザント王女のような教養を二人につけさせろ」と言っていたが、流石に此処までの事はしなかった。



 ・・・めんどくさい・・・


 

 今、ヴァイスとザフィーアは音楽の教師に指導されている。

ヴァイスは笛、ザフィーアは琴を練習しているのだが、これがまためっぽう上手くいかないのだ。

 つい曲のなかで難解な場所をすり抜けると気が緩み、音の粒が揃わなかったりするのだ。

 その点、ヴァイスは上手い。何があっても落ち着いて一定の息を吹き込み、ヴァイスの性格そのものを音にしたような感じだ。


 ・・・あ。


 ヴァイスの事を考えながら琴を弾いていると、一音を大きく外してしまった。


 ・・・まずい。


 冷や汗がつつーと垂れる。本当にこんなんでヴァイスの引き立て役が務まるのか?もしヴァイスに恥をかかしたらザフィーアは生きていける気がしない。もし今のうちに引き立て役を替えたらヴァイスは恥をかかずにすむだろう。こんなこともできない自分がもどかしい。悔しい。



 思わず泣きそうになったとき、声がかかった。私の天使はやっぱり健在。


 「ザフィーアったら不器用ねぇ。まったくもう。私も疲れたから音楽はやめにしてくださいな」


 暗くなったザフィーアに軽口を叩いて明るくさせ、嘘をついて強引にザフィーアが暗くなった理由を排除する。


 もう一度言う。私の天使はやっぱり健在。

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