掌話  姉と妹

 部屋に戻ってから、ザフィーアは記憶を反芻はんすうし始めた。


 ──“ガイアルディア王子の許に” “お父様、貴方の本望を遂げてみます”──


 ──“大事なことが決まりました。ヴァイスとザフィーアはインポザント王女並の教養を付けること。”──


 「───っ⁉️」


 ザフィーアは、ザッと青ざめた。


 あの後、母が倒れ、父は拳を握りしめて目を瞑っていた。まるでこの事を知っていたかのように。何か、父は知っているのではないか。



 放心していると、誰かが扉を叩いてきた。



 「ザフィーア、ヴァイスよ」



 ザフィーアは扉を開けて、


 「どうしたの、ヴァイス?」と部屋に招き入れた。


 「ちょっと相談したいことがあって」


 ザフィーアはヴァイスを椅子に座らせて、向き合うようにベッドに腰掛けた。


 「それで?」


 「お母様は、私たちのどちらかに登殿するように、と仰ったでしょう?」


 「それでね、私、帰ってからその事に関しての教材を探して、読んでいたの」


 さすが私のヴァイス。勉強家。

 ザフィーアは黙って相槌を打つ。


 「そしたら、登殿する者は、侍女やそれ以外の者を一人連れていけるの。まぁ女性のみだけど。それでね、どちらが登殿しようがその一人をお互いにしない?」


 ザフィーアの顔が自分でも分かるように輝いていくのが分かった。


 「いいね、それ‼️」



 「それで、登殿する方だけど・・私が行っても良い?」



 「良いけど、どうして?」



 「ふふっ、ザフィーアをお嫁に出したくないからじゃん」



 「ええっ、そんなのヴァイスに悪いよ‼️」



 「お願い、今回は私の我儘を聞いて?」


 そんなこと言われたら、反対のしようもない。むぅ、と口を尖らせていると、ヴァイスは立ち上がってこっちに来た。つられてザフィーアも立つ。

 そして、ヴァイスはぎゅっ、と抱き締めてきた。


 何故だろう?つっ、とザフィーアの頬に水が流れる。


 ──本当に、いつまでも頼もしい尊敬する姉だ。


   ◇◆◇


 ザフィーアは涙を流す。何故だろう。抱き締めただけなのに。


 ──本当に、いつまでも気がかりな可愛い妹。

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