第12話 悪魔

 ――もういっそのこと、悪魔にでもなってやろうか。


 そして不気味な笑みを浮かべたその瞬間に、《英雄は》引き金を引いた。


 だがそのほんの一瞬前に、ユーリが銃を構えて振り返った。


 ユーリは見上げた先にいる《英雄》の体のどこかにとりあえず照準を合わせ、ほぼ同時に引き金を引いた。


 双方から放たれた銃弾は、近い距離とユーリの急な行動によって動揺した《英雄》は避けられずに胸を貫くその一方、ユーリは銃弾をかわしてすぐに《英雄》との距離を取った。


「うっ……」

「大丈夫。心臓には当たってないはずだから、死なないよ」

「わかってる。……でも、何でお前は……!」

「何でお前は避けられたのかって? の名前忘れたのか? 《刹那》だぞ。全てにおいて絶対的な反応速度が違う」

「……そういえば……そうだったな」


 《英雄》は悔しそうにそう言った。


「実力がわかった……姉さんが言っていた理由もわかる」

「何だ? 組織に加えるとでも言うのか?」

「考えてくれないか」

「今更何言ってんだよ」


 ユーリが頭を狙わなかったことが《英雄》にはそういう風に受け取られたのかとユーリは思った。


「組織が壊れたらこの国はおかしくなる。だからお前は生かしておく。でも次はない。いいな?」


 動けない《英雄》にユーリはそう言い放ってその場から立ち去ろうとする。


「どこ行くんだ」

「言う必要あるか?」

「行ってどうするんだ」

「生きるのに理由が必要か?」

「何が望みだ」

「望みなんてない」


 血が治まりかけているのを見て、ユーリはこれ以上の戦闘を避けるために今度こそ立ち去ろうとする。おそらく二人を殺して生きている仲間がいるはずだから、そいつも含めて相手するようなことはできなくはないが、やりたくはなかった。


「強いて言うなら、」


 思い出して立ち止まり、ユーリは半身だけ振り返る。《英雄》は顔を上げてユーリのことを見る。


「普通に産まれて、普通に暮らして……普通の人間に、なりたかった」


 そう言い残し、ユーリは世界の暗闇に紛れて消えていった。

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ブラッディ・ユートピア 月影澪央 @reo_neko

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