ある夜、月明かりの下で

香坂 壱霧

🌕 🌝 🌃 ⭐

 線路沿いに歩く二人は、互いの目を何度も見つめる。その目を見て、今の気持ちに嘘はないと安心しながら。

 スーパームーンの明るい夜空を見上げ、月子は言う。

「浮気するならバレないようにするんだよ」

「浮気してもいいってこと? 心が広すぎだろ」

「莫迦だなあ。あたしがあなたが何をしてるかお見通しだってことを言ってんのに」

「はいはい。俺は莫迦ですよ。それと俺は、月ちゃんみたいに、寛大になれませんからね」

「あたし、浮気しないから。でも、束縛しないでよ」

「なんだそれ。俺は月ちゃんの今までの彼氏みたいに自由を奪ったりしないからな?」

「知ってる。だから好きになったんじゃん?」

「酔ってる? 月ちゃんがそんなこと言うって、珍しい。でも嬉しいからもう一度言って」

「言いません。私の言葉は一度きりです」

「言わせてみせようホトトギス」

「ほら、やっぱり浮気者じゃん。秀吉みたいなこと言ってさ。淀君みたいな子、あとから見つけてきたら許さないからね」

「月ちゃん、かわいいね。妬いてる?」

「やっぱり他にいるんじゃない? 全部縁切ったのは、嘘なんだ?」

「それはホントだって。月ちゃん一人いたら、他の子いらないって、ホントに思ったから」

「浮気グセ、一般的になおらないとされてるよね。でも、信じてるよ。あたしに嘘は通用しないって、まだ理解しきれてないみたいだけど」

 月子の言葉に、有輝ゆきは足を止めた。月子が、口を少し膨らませ、すねた顔をしているのを見る。

「月ちゃん、かわいいね」

「そんなのでごまかしてもだめだからね」

「照れてる。月ちゃんは、ストレートに伝えたら照れるから、そこがかわいいよね。言われなれてない? そんなにかわいいのに」

「言われたことないから、もうやめてよね。言い慣れてるゆきくんがずるいんだから」

 月子は足を早めて、有輝との距離を作っていく。

 有輝は笑みを浮かべ、月子を追いかけた。早足の月子の左手を取り引き寄せ抱きしめる。

「浮気したら殴って詰って、月ちゃんの好きなようにして。しないけどね」




(おわり)

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ある夜、月明かりの下で 香坂 壱霧 @kohsaka_ichimu

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