23.エピローグ
屋上のフェンスから差し込んだ夕日が僕らを茜色に染めている。
目を閉じて棒立ちになる梨香さんと、その前であるものを手にする僕を。
「遙輝くん、いつまでこうしていればいいの?」
「あと少し待っていて下さい、もう終わりますから……」
「早くしないと皆が探しにくるかもしれないわよ?」
生徒会室ではラジオ局から届いた生出演の音声を皆が聞いていることだろう。
その合間に、僕はこっそり梨香さんを屋上に連れ出したのだ。
「できました、目を開けて下さい」
首にかけられたものを見て彼女が驚きの声を上げる。それは貝殻のチャームのついたペンダントだった。
「クイズ大会の景品にそっくりなのを見つけたんです。受け取ってもらえますか?」
「本当にいいの?」と、梨香さんがペンダントに触れている。小さく精巧に作られたガラス細工のチャームは、上品な彼女にぴったりだと思っていたが正しかったようだ。
「あの景品よりも素敵だわ! ありがとう、大切にするね!」
梨香さんが抱きついてきた。
たいへん嬉しいことだが、その衝撃で背後のフェンスがびっくりするぐらい軋んでいた。
「ちょ、ちょっと待って下さい、異世界転生しちゃいますよ!」
「そんなことしないわ、こうしていたかっただけよ」
「お、お手柔らかにお願いします……」
梨香さんの背中に腕を回し、そっと抱きしめる。夕日が沈んで辺りは薄闇につつまれていくが、彼女の胸元にあるペンダントだけが不思議と煌めいていた。
少し値段がはったので購入時に激痛(トラウマ)を思い出したが、正直な自分が好きだという梨香さんの言葉が僕の決断を後押ししてくれた。
僕は彼女の笑顔が好きだ。会長としての爽やかな笑顔も、趣味に全力な笑顔も、こんなふうに照れたときに浮かべる笑顔も、ぜんぶ大好きなんだ。
彼女を喜ばせる為なら、僕は実母の幻影に抗える。
そしていつか梨香さんのように自分自身の生き甲斐を見つけたとき、歪な価値観に立ち向かえるような気がした。
このペンダントは、僕を呪縛から救ってくれたことへのお礼でもあった。
「そろそろ外しましょうか」と、彼女のうなじに手を伸ばすも首を振られた。
「校則がありますから。先生に見つかったら没収されますよ?」
「ううう……、せっかくのプレゼントなのにぃ」と、渋々と顔を上げる梨香さんだが、そこで思いもよらぬことがおこる。ペンダントを外した瞬間、彼女はぐっと顔を寄せてきたのだ。
ふわりと、彼女の唇が頬に触れ、僕は仰天する。
「お礼よ」と、若干目を反らしながら告げる彼女に身体が硬直する一方、血が沸騰しそうなほど熱くなっていた。「大好き」と囁かれ、ついに僕は衝動を抑えられなくなった。
「…………!」
沈みゆく夕日が一つに重なった僕らの影を屋上に伸ばしている。あの日。梨香さんに追いかけ回されたこの場所で、こんなことになるなんて誰が想像できただろう?
話があの日に遡ることは、僕たちのなかでもうとっくにわかりきったことなのであった。
了
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あとがき
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第一部ラストまでお読みいただきありがとうございます。
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引き続き、第二部もお楽しみくださいませ。
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