14話 虹色の見えるところで会いましょう

「はい注目。今日から新しく入部した私たちの仲間、色部伊黒くんだよ。私と同じクラスだけど、経験ではみんなが先輩だからいっぱい教えるように」

「これからよろしく」


 やっぱりこういうことだよね。パチパチ拍手が鳴り響く中で、私は胸の中でそう思った。

 週明け後、ふだん全員集合することがない美術部が部長命令により集まった。青山部長が「新入部員の紹介です」とニコニコ顔紹介した。誰だろうと思って入ってきたのが、色部先輩だった。

 「いっしょに居られる環境をつくる」と言われてドキッとしたけど、部活に入る意味だとわかり、ほっとした一方でガッカリしたような気持ちが同居している。


 出会ってほんの数日なのに変な期待しちゃだめだよね。


「よろしく白居さん。さっそくだけど色の指南をしてほしい」


 あいさつを終えた先輩は、いつの間にか私の隣に先輩が座っていた。


「え。あの、私でいいんですか」

「白居さんはダメという理由がないんだが」

「他にも六年生の人や部長もいるのですが」

「おれのヒミツのことは白居さんだけしかいない。色の指南よろしくお願いします」


 座ったまま深々とおじぎをされてしまった。同い年とはいえ、一学年先輩の人に教えるとかプレッシャーでドギマギする。


「それでは一筆書きで何か書いてください先輩」

「その……先輩呼びはもういいかな。同い年だし、色部だけで」

「え…えっと色部。やっぱり先輩でお願いします」


 呼び方を急に変えるなんていきなりは無理だそんなやりとりをしているのを青山部長は見逃さなかった。


「さっそく仲よしになったね。体験入部で付き添ってくれた白居さんの方が安心するってことかしら」

「それもありますが昔会ったお姉さんを思い出して」

「お姉さん?」

「昔病院通いをしていた時に会ったお姉さんがいて。その人が退院するまでの間、お世話になったんです」

「へぇ、ロマンチックね」


 先輩の憧れのお姉さんの話に青山部長の目はキラキラしていた。


「いえ、今思うとなまいきな出会い方ですよ。病院で待っているときおばあさんからぬりえを小学二年なのに幼ち園児用のぬりえを渡されて。そんなに小さく見えたのかってむかついたから、たまたま目についたベンチに座っていたお姉さんに押し付けて描かせたのが出会いだったんです」


 先輩小さいころそんなやんちゃだったんだ。それでも小さい頃の出会いを今でも思い続けているすてきなお姉さん。私にはとうてい届かない…………あれ?

 病院、おばあさん、幼ち園児用ぬりえ、ベンチ。


 !?


 青山部長が離れたすきに、先輩に耳打ちしてその話を詳しく聞いてみた。


「入院していたのはいつの時ですか?」

「小学二年の時だ。その頃は片方の目だけまだ色が見えていた状態で、片目だけで見るよう左目に眼帯していた」


 やっぱりそのお姉さんって、


「お姉さんが退院した後は、両方とも白黒にしか見えなくなってしまったが、あの背の高くて雪のように白い肌は記憶に残っている。あの時おれの身長が百二十もなくて背は当てにならないが、あの大人びた感じ、一つか二つは年上だと思う」


 入院していた時、身長百三十近くあってひょろひょろで、学校に行くのがゆううつだっただけなのに。お互いのことを年上と年下かんちがいしちゃってたんだ。


 ど、どうしよう。せっかくの再会なのに、私がいつの間にか年上お姉さんと思い込んでいるよ~色部先輩のあこがれの人がまさか私なんて今さら言えないし。

 真実を伝えるべきか、あこがれを壊すか。どうしたらいいんだろう。


≪おわり≫

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