野良猫は思う、人間の愚かさを。

第6話 ヴィトーと文太の戦い

夜の暗闇の中、ギラギラとした目が光る。ヴィトーの目は復讐と怒りで血走っていた。

怒りがどうしても、膨れ上がる。この怒りをぶつけさせてくれるのは、あいつ以外、思い当たらない。そう思っていたら、浄竜寺（じょうりゅうじ）に到着していた。境内に入ると、すでに周りを様々な猫で囲まれていた。だが、俺の怒りをぶつけさせてくれるのは、お前らじゃない。

「おい！ヴィトー、ここは、テメーの縄張りじゃねえ、失せろ。」

三下が近づいてきたので、横っ面を張り倒した。

「おい。文太（ぶんた）、呼んでこい。」

「ボスに何の」

言葉を言いきる前に、もう一回張り倒した。

「おい、文太（ぶんた）を呼べ。」

「ボスに」

押し倒し、首を抑えつけた。

「おい、そこで、ボケっと見てるの、ああ、お前だよ。文太（ぶんた）を呼んで来い。こいつ、殺すぞ。」

「んぐぅぅぅぅぅぅぅ、ゲホ、ゲホ」

「やめろ！」

寺の軒下から、まだら模様の大きな猫が姿を現した。

文太（ぶんた）だ。

浄竜寺（じょうりゅうじ）とその近辺一帯を縄張りにしている大親分である。

俺は、文太（ぶんた）の部下を解放してやった。

「おい、ヴィトー。ずいぶんと、大きな態度で現れたな。この野郎が！」

「文太（ぶんた）、俺と戦ってくれ。」

「・・・カルメラか。」

文太（ぶんた）も、カルメラが殺された噂は聞いていたか。

「ああ」

「そうか・・・かかってこいや！ガキが！」

「しゃああああああああああ！」

「しゃああああああああああ！」

暗闇の中、ヴィトーと文太（ぶんた）の戦いが始まった。

お互いが組み合い、転げまわる。

ヴィトー、文太（ぶんた）もお互いの身体に爪を立て、相手の身体に噛みつく。

離れると、二匹は間合いを測る。

ヴィトーが飛び掛かると、文太（ぶんた）も同じタイミングで飛び掛かり、空中で組み合う。

地面に落ちても、二匹は離れず、お互いを噛みついていた。

そして、また離れ、間合いを取った。

そんな事が、何度も何度も繰り広げられ、お互い、血だらけになりながらも、一歩も引かなかった。

何十度目の攻防の末、文太（ぶんた）は話しかけてきた。

「ヴィトー！気が済んだか。」

「・・・ああ。スマンかったな。」

文太（ぶんた）の顔も身体も傷だらけだ。自分も同じ様なもんだろう。周りの猫達は「やっと終わった」と安堵した表情だ。

ようやく俺の怒りは鎮火した様だ。文太（ぶんた）には迷惑をかけたな。

「ヴィトー・・・何があったか、聞いてもいいか？」

「ああ。」

今日、キンジが調べた事を文太（ぶんた）に伝えた。話を終えると、文太（ぶんた）も周りの猫達も、怒りで震え、全身の毛が逆立っていた。

「ふざけんじゃねぇ！」

「なんでそんな事すんだよ！」

「人間が！」

周りの猫達から、怒りの声が上がっていた。

「お前ら！黙れぇぇぇぇぇ！」

文太（ぶんた）の一喝で周りは静かになったが、猫達の怒りは収まっていない。

「ヴィトー！俺らも協力する。お前ら、そのクソを探し出すぞ！」

「文太（ぶんた）、スマン。感謝する。」

「カルメラの敵討ちだ。その人間は、必ず殺す！」

「ああ」

夜明けと共に、文太（ぶんた）の子分達、俺の子分達は、カルメラが殺されたという場所の捜索を始めた。この日から、大量の猫が町をうろつく様になり、町の住人の噂になった。

俺は文太（ぶんた）を伴って、ある所に向かった。