第7話 女神降臨

 川村教授の研究室では、次の閉所恐怖症について研究し始めた。

 ここでは二班に分けての研究だったのだが、第一班では、

「今までの研究方針に沿ったやり方」

 によって、前の方針を踏襲するやり方を取る方法と、第二班では、

「それまでのやり方を一度リセットして、新たな方法を考えるところから進める」

 という、まったく別の観点からの研究であった。

 普段ならそれぞれを競わせることはしなかっただろうが、今回、教授は敢えて競わせることにした。

 その理由は、まず第一にスピードであった。競わせることで、お互いの切磋琢磨と、研究者としてのプライドとを考えてのやり方だったのだ。

 だが、この二つはまったく考え方の違うものなので、相乗効果は認められないだろう。そうなると、どちらかの感情の強い方が勝るのだろうが、教授の考えとすれば、プライドが勝るだろうと思っていた。

「ここで、ままごとのようなごっこはいらない」

 と思っていた。

 お花畑の発想では、研究が進まないことも分かっていて、最初の高所恐怖症や暗所恐怖症の研究も、思ったよりも進まなかったのは、和気あいあいとした雰囲気での研究が、スピードを鈍らせたと思っていた。

 この研究室の存続が掛かっているのだから、もう少し必死になってほしかったのだが、下手にせっついても、期待した効果が得られないというのももっともなことだろうと思ったからだ。

 そういう意味で、今回の研究室のやり方は、画期的な気がした。人が増えれば増えるほど和気あいあいとなる。少数精鋭という意味でも必死になるだろうと思ったのと、二つの班に分けて、それを競わせることで、研究者としてのプライドに火をつけることもできると思ったのだ。

 だが、問題となるのは、どういう理由で二つの班に分けるかということだった。

 その理由付けとして、まったく違う方式のものを、競わせるだけの理由で納得させるかということであったが、やはり、研究員の性格を考えると、

「固まっている方針の中で、いかに自分の開発方針を発揮することに長けているか」

 という人の人数と、

「最初の企画段階から、自分の実力を発揮するタイプ」

 という人の人数が拮抗しているのを分かっていたからだ、

 今までは、企画段階のほとんとを教授が一人で決めてきた。研究員がまだそこまでの実力に欠けていると思ったからであったが、

「このままでは後進が育たない」

 という危惧もあったことから、今回思い切って抜擢しようと考えたのだった。

 そのおかげなのか、思っていたよりも皆の成長は著しいようで、企画を立てる方も、結構早い段階で、方針が固まっていた。

 しかも、教授が考えたとしても、結果的には同じ考えに至ると思えることであり、それが教授としての、自分の成長でもあると思うのだった。

 第一班の方も、今までやってきたことを分かっているだけに、見えているものは決まっている。少数精鋭ということで、意志の疎通もばっちりで、人数が半分になったからと言って、スピードが倍かかるということはなかった。

 むしろ、人数の多い時とほとんど変わらないくらいの進捗ぶりで、川村教授もビックリしているほどであった。

「これは、想像を絶するほどの成果かも知れない」

 と思ったが、やり方に間違いがなかったということで、自分も自信を持つことができたかも知れない。

 まったく口出しをするということはなかったが。。ほとんどは自主性に任せていた。しかしそれでも、

「何か質問や意見があれば、いくらでも言っていいからね。ただし、お互いの班を超えて研究に関して話をする時は、必ず私を通してくださいね」

 という、関所のようなものを設け、そこの責任者として、自分が君臨することで、室長としての面目を保とうと思ったのだった。

 ただ、これは内部でのことでだけで、まわりからは、皆協力して研究していると思っているだろう。別に隠す必要はないのかも知れないが、余計な雑音を聞かせたくない。いや、一番聞きたくないのは、教授本人であった。

 元々、暗所恐怖症と、高所恐怖症というのは、

「その状態に入った時に先立って恐怖を感じること」

 であったはずだ、

 ということは、第二班としては、その理論を覆さなければいけなかったのだが、メンバーの発想としては、

「恐怖というものを頭から外すことはできない」

 という感情から成り立っていた。

 なぜなら基本的にこの研究は、様々な恐怖症に対して共通の総合感冒薬的なものの開発だったはずだ。だから恐怖というものを取り除いてしまうと、最初からの共通点の発想を変えてしまうに違いない。

 それを思うと、研究員が目指すものは、安易に変えてはいけないということになり、恐怖というものから浮かんでくる発想という意味で、ある程度範囲やパターンが絞られることになる。

「これってフレーム化のようなものだよね」

 と誰かがいうと、

「でも、その方が的は絞れていいんじゃないかな?」

「だけど、それだと第二班の意味がなくなってくるんじゃない?」

「いやいや、そうじゃないさ。闇雲にすべてを否定して更地の状態から組み立てていくというのも一つの発想なんだけど、ここではそうではなく、理論的にいかに特効薬を見つけられるかという方法論をリセットするという意味なんじゃないかな? すべてを一度否定してしまうと、そこから組み立てる発想は、まったく違う方向しか向いていないことになると思うんだ。皆が一つの方向を見ていたとしても、その中で一人くらいは、違った発想をしているものでしょう? だから、その人はきっと頭の中が否定から入っているんじゃないかと思うんだ。つまりは減算法というのかな? 我々の中にもそれぞれの考え方があるわけだから、加算法と減算法のそれぞれのいいところを切り取って研究するというのが一番いい気がするんだ」

 と、第二班の中で一番ポジティブな考え方をする研究員だった。

 彼は常々、

「自分は教授とは違った考えなんだろうな?」

 と思っていた。

 教授はどちらかというと減算法だと思っていた。

「最初に自分の理論を思いついて、それをまわりの研究員に研究させて、不必要場部分を切り取らせて、そして、最終的に分解された部分を組み立てることには長けている人なんだ」

 と思っていた。

 だから、それまで自分は教授と一緒に研究していて、ついていってはいたが、いつついていけなくなるか分からないとも感じていた。

 以前、研究室にいた小林研究員という人の話は聞いたことがあった。

 一緒に研究室にいたという時期はなかったが、

「小林さんという人がどのような人なのか分からないが、教授の減算法的な考え方についていけなかったのではないか。そういう意味でここを飛び出す勇気があったのは、拾ってくれるところがたまたまあったというのもあるだろうが、勇気を出すだけのプライドが、その人にはあり、かなり行動力と、野心を持った人なのだろうな?」

 と考えていた。

 一度、小林研究員と一緒に呑んでみたいという思いがあったが、その思いが実現することになろうとは思ってもいなかった。

 もっとも、その思いが本当に通じたのかどうかは分からないが、偶然なのか質善なのか運命なのか、考えるだけ無駄な気がした。それほど二人の出会いは衝撃的だったと言ってもいい。

 彼は名前を沢口研究員という。

 彼は中学時代から、心理学に興味を持っていて、

「将来、心理学専攻の学部に入り、大学院まで行って、将来は心理学研究ができるようになればいい」

 という青写真を描いていた。

 高校時代というと、将来の夢や希望はおろか、やっと思春期に突入した川村教授とはまったく違っていた。

 そういう意味で、川村教授が沢口研究員を、他の研究員と違った目で見ていて、第二班の班長に抜擢したのも、それが理由だった。沢口よりも年上の研究員もいるのに、沢口を指名したのだが、どこからも文句は出なかった。それほど沢口研究員は、同僚や先輩からも一目置かれる存在だったのだ。

 川村教授にとっては、自分とは真逆であり、どちらかというと、小林研究員に似たところがあった。それも彼をリーダーにした理由であったが、最初の理由とは、小林研究員が絡んでいるという意味では少し違った。

 沢口研究員のような人は、本来なら第一班のリーダーの方がふさわしいのかも知れないが、彼のような性格の男であれば、決められた方針を貫く方が性格的にはいいと思っている人がいるだろう。

 素直に言われたことを真面目にこなしている姿は、暗い性格に見えるのだが、見た目の暗さが本当の性格を表していて、彼は従順なわけではなく、どちらかというと野望を抱く方ではないだろうか。その性格を教授は見抜いて、沢口研究員を第二班のリーダーに据えたのだった。

 だが、彼にはまだ少し荷が重いようだった。プレッシャーがあったのか、それまで呑みに行ったりする方ではなかったのに、最近はよく呑みに行くようになった。それも誰かと一緒に行くわけではなく一人で行って、一人で呑んでいた。

 他の人に相談できるような性格であればよかったのだろうが、根暗と言ってもいいくらいの彼には、到底人と一緒に呑みに行くということはなかった。それでも、一人で呑みに行くようになって、

「居酒屋というのは一人で行くところなんだ」

 と勝手にそう思うようになった。

 それがここ半月くらいのものだろうか。店にも馴染んできた頃で、毎日のように来ている一人の客というのは結構目立つもので、店の人もあまり余計なことを言うことはなかった。客が話しかけてきた時に話し返すくらいで、それが店側の姿勢だった。

 それに沢口研究員が来店する時間は、まだ客が増える前で、開店が五時なので、六時くらいに来るとちょうど仕込みも終わって、ちょうどいいくらいの時間だった。だから、開店一番の客になることも多く、九時くらいまでは、あまり客が混んでいない時間帯なので、沢口研究員は、ちょうど人が混み始めると帰るようにしていた。

 やはり、人が混んでくるのは嫌で、研究者にはありがちの自分の世界に入りがちなところがあることで、沢口研究員は、そんなに酔うこともなく帰れるのだった。

 この日も、午後九時前くらいに、そろそろ店が混んでくるのが分かったので、家を出たのだが、そのくらいだった。

 その日は、夕立があり、少し気持ち悪さが残っていたが、雲はそんなに出ていなかった。そのおかげで、満月が綺麗であった。空を見上げながら、ちょうど、一級河川の河原を歩いていると、月が川面に浮かんで見えて綺麗だった。

「酔いが回ってくると、なぜか視力が上がったような気がするんだよな」

 と思い、酔い覚ましをかねて家に着くまで、いろいろな景色を見るのも好きだった。

 その日は、河原にあるベンチに座って、月を見ていた。すると、その横に一人誰かが座ったのに気付いたが、顔をすぐに向ける気はしなかった。その人が女性であるのは分かったので、どう対応していいのか分からないというのが本音だった。

 沢口研究員は、今までに彼女がいたことがなかった。真面目過ぎて、しかも、目標が決まっているような人に、なかなか女性が近づくことはないような気がした。

 他にもベンチはたくさんあって、しかも、他に座っている人はいないにも関わらず、敢えてこちらに来ているということは、沢口を狙ってきているという以外には考えられない気がした。

 横目に見ると、彼女は別に沢口研究員の方を見るわけではなく、川の方を見ている。

――この人、何を考えているんだろう?

 という思いを抱くのは当たり前のことだった。

「今日の月は綺麗ですね」

 と、そろそろいたたまれなくなって立ち上がろうと沢口が思った時、隣の女性がそんな沢口の心境を知ってか知らずか、声を掛けてきたのだ。

「ええ、僕もそれに気づいたものだから、空を見上げていたんですよ」

 というと、

「よくここで空を見ているんですか?」

 と言われたので、

「いえ、そういうわけではないんですが、たまに酔っぱらった時などは、空を見ることがありますね」

 というと、

「そうなんですよ。酔っぱらった時って、なぜかよく見えたりするんですよ、色も鮮明に見えるしですね。普段は緑に見える信号機が真っ赤に見えたり、赤い色はさらに鮮明な赤に見えるので、ずっと見入ってしまっていたりしますね」

 と、彼女は言った。

 その話を訊いて、

「さっきも、私は同じことを思ったんですよ。偶然でしょうかね?」

 というと、

「確かに偶然でしょうね。でも、それだけ酔った時に視力がよくなったような感覚になる人は多いということかも知れないですね」

 と言われ、

「ああ、そうかも知れないですね。でも人間というのは、自分だけが考えているという思いを抱きたいという意識が強かったりするので、人と同じでは嫌だという人が多いんでしょうね。だから、今のような言われ方に複雑な気持ちを抱く人もいるかも知れないですよ」

 と、少し皮肉を込めて言った。

 いつもは、こんな皮肉めいた言葉を口にすることはないのに、どうしたのだろう? ひょっとすると、普段から研究員関係者以外で声を掛けてくる女性などいないと思ってしまったことで舞い上がったのだろうか。

 考えてみれば、小学校の頃など、好きな女の子には悪戯をしたくなるという心理があるということは、知っているはずではないか。実際に見たことはないが、訊いたことはある。それが、今の沢口の気持ちであった。

 確かにその人は綺麗というよりもかわいいという感じのタイプの人で、子供の頃に見た特撮ヒーローものに出てくる女性戦隊によくいるような女性だった。

 小学生の頃は、まだ異性への興味も何もなかった頃、ヒーローものの女性戦隊に邪な気持ちを抱いていた。そのせいなのか、思春期になって気になる女性は、活発な女の子が多かった。新体操をしていたり、水泳の選手だったり、陸上の選手など、躍動感のある女性が好きだった。

「自分にないものを持っている女性を好きになる」

 という理屈もあってか、大人しめの女の子には興味がなかった。

 それなのに、自分のまわりには、そういう大人しい女の子しか集まってこない。それだけに、思春期は、

「彼女がほしい」

 と思いながらも、彼女ができなかったのは、そういう理由からだった。

 大人しい子でもいいという妥協が少しでもあれば違ったのかも知れないが、妥協を一切許さないという性格のため、結局彼女ができないままである。

 そもそも、沢口研究員には、妥協という言葉は知っていても、それがどういうものなのかという実感がなかった。

 研究員として真面目に実直にできるのは、妥協を知らないからだろう。過去に妥協の経験が一度でもあれば、ここまで実直にはできないのではないか。

「妥協というのは、遅かれ早かれ誰でも経験をするものだ」

 という人がいるが、

「沢口に限っては、そんなことはないのかも知れないな」

 と周りの目はそう見ていた。

 沢口研究員に近づいてきたその女性は、自分よりは年下だとは思ったが、彼女を見る自分の目が小学生の頃の目線なので、下から見上げるという感覚に。違和感はあった。どうしても、戦隊ヒロインのイメージが消えることはなく、むしろ最初にそう感じてしまったことを、違う目線で見る方が無理だと言えるのではないだろうか。

「月の引力というのはすごいんですよね。潮の満ち引きだって、月が影響しているというではないですか。もっとも、月の引力以外に、時給の公転や自転が影響しているとも言われていますが、月ガ地球に及ぼす力というのはすごいですよね」

 と、彼女は言った。

「そうですね。こうやって川面を見ているだけで、そこに映っている月をすくうことができるような気がしてくるくらいですからね」

 と、相手に合わせたつもりで答えた、

「昔は月の満ち欠けで一か月を決めていたんですよね? 太陰暦というんですか? でも、私はそっちの方がロマンチックな気がして好きですけどね。月にはスケールが違うだけで、太陽に勝るとも劣らない力を秘めているような気がするんです。一歩間違えれば、地球を滅ぼすものがあるとすれば、それは月ではないかと思うほどなんです。でも、月が地球を滅ぼすというような話は実際には聞かないですけどね」

 と彼女は言った。

「じゃあ、あなたは具体的に月がどのような影響を持って地球を滅ぼすと思っていますか?」

 と聞かれた彼女は。

「そうですね。地球に近づきすぎて、衝突するとか、あるいは、月が太陽と同じ軌道になる形で、月によって太陽光が遮られ、最終的に地球に日差しが当たらずに、土星のように、凍り付いた星になってしまうとかですね」

 という突拍子もないことを言った。

「それは、また発想が飛びぬけている」

 と沢口がいうと、

「そうですね。後者の場合は、どこかにつきを操作する力が働いているんでしょうが、それが宇宙人による地球壊滅計画の一環だとすれば、SFの話になりそうですね。今までにそんな話がなかっただけでもおかしい気がします」

「でも、月を自在に操れるだけの力を持った宇宙人なら、他に一気に地球を滅ぼす道を選ぶんじゃないですか? 凍り付くまで月を太陽の軌道に乗せていれば、それがどれほどかかるのか分からないですよね。一年なのか、何十年かかるのか、何百年の単位なのか、ピンとこないですよ」

 というと、

「それでいい宇宙人だっているかも知れない。逆にあくまでも自然現象として地球を滅ぼしたいと思っていたとすれば、この間接的なやり方は、考えられないことではない」

「そんな回りくどいことをわざわざする理由は? 理由なしであれば、ただの妄想でしかないですからね」

 と沢口がいうと、

「やっぱり、研究者の方だったんですね。何となく分かっていたんですが確証がなかったので、このような回りくどい質問をさせてもらいました」

 と彼女はいう。

 まるでペテンにかけられたかのような気がしたが、そこまで怒る気はしなかった。ただ、何が目的で自分に近づいてきたのか分からないのが不気味だった。少なくとも、今研究中のチームリーダーであるという自覚があるだけに、不気味な気がした。

 本当なら、関わってはいけないと思うべきなのだろうが、なぜゆえに近づいてきたのかが気にはなるので、このまま関わらないというのも違う気がした。

 幸い、まだ頭の中で何もできていない状態なので、却って彼女の話の中からヒントも出てくるのかも知れないと思うと、このまま放っておく気にもなれなかった。

「いかにも私は研究者の一人だけど、どうして私が研究員だと思ったんですか?」

 と聞くと、

 先日、F大学で、川村研究室の記者会見があったんですが、その時、あなたに似た人を見た気がしたんです。それで気になって声を掛けてみたんですよ」

 というではないか。

「あなたはその場所にいらしたんですか?」

 と言われて、思い出そうとしたが、研究員は会場の後ろの方から前を見ていたので、後ろ姿しか見えなかった。

 しかし、もし記者の中にいたとしても、向こうも後ろを振り向いたりしない限り、こちらを確認することなどできないはずだ。あの時に後ろを振り向いた女性記者がいなかったことは分かっていた。

「それなのに、どういうことなのだろう?」

 と、不可思議な感覚しか残っていない。

「私、初村という雑誌記者なんですが、あの時、最後に私が質問したんですよ」

 と言われて、確かに最後に質問していた記者がいたが、どんな質問だったのかなど覚えていない。

 そもそも沢口は、記者会見など興味も何もなかった。あの場所には、

「研究室の一員だから」

 ということで、形式的な出席になったのだと思っているだけだった。

 だから、女性が最後に質問者だったというのを知っていただけで、どんな人だったのか、どんな質問だったのかなど、一切記憶になかった。

 言われれば思い出すかも知れないという程度だったが、彼女の態度や雰囲気を見て、

「別に思い出したくもない」

 と思うのだった。

 何か上から目線で見られているような気がして、どうも気に入らなかった。若い人の中にはマウントを取りたいという意識が強く、恫喝的に見える態度をする人がいるが、その人が本当に恫喝しようとしているかどうか、ハッキリとは分からない。

 つかさは、この間の教授の前といい、今回の沢口研究員の前といい、何しに現れたのか分からなかったが、この時のことを翌日になって思い出そうとする沢口研究員であったが、思い出していくうちに、最初は、

「夢だったのではないか?」

 という思いが大勢を占めていたが、思い出していくうちに、リアルな感じがしてきた。

 しかも、いつも上の空で聴いているので、その内容はすぐに忘れてしまっていたが、今回は忘れていないようだった。そのおかげなのか、頭の中で、何かが開け、何をどのように研究していけばいいのかという青写真は浮かんできた気がしていた。少し掟破りなのかも知れないが、

「奇抜なアイデアは奇抜であるだけのことはある」

 と思っているだけに、やってみる価値があるような気がした。

「やっぱり昨日のあの女、女神だったのかも知れないな」

 と思うのだった。

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