赤い頭巾を被った女のコ、お姉様のお見舞いに行く

りりぃこ

赤頭巾

 ある村に、赤い頭巾を被った女のコが住んでおり、みんなから赤頭巾アカズキンと呼ばれておりました。

 ある日、森の奥に住む大好きなお姉様が風邪を引いたと聞きつけまして、すぐにパンとワインを持って、訪ねることにしました。

「知らない人とお話しないようにね。あと、寄り道をしたら駄目よ。ていうか、お姉ちゃん、赤頭巾には持ってこさせるなって言ってたんだけど……」

 赤頭巾のお母様は、少し心配そうにいいます。

「大丈夫よ。お姉様は心配性なだけ。ちゃんと私、一人で行けるから」

 そう自信満々に言う赤頭巾を、お母様は渋々送り出すのでした。


 さて、それを見ていた森の狼さん。

 しめしめ、これはいい事を聞いたと思いました。

 まず、赤頭巾のフリをして、お姉様の家のドアを開けさせてお姉様をまず食べてやろう、そして訪ねてきた赤頭巾も食べてやろう、と思いました。


 早速、まずは赤頭巾の到着を遅らせるために、作戦を開始します。

「やあ赤頭巾、こんにちは」

「こんにちは!狼さん」

 赤頭巾は元気に挨拶します。

「おつかいかい?えらいね」

「ええ。森の奥に住んでいるお姉様に、パンとワインをお届けするの」

「ほう、なら、向こうの花畑に行ってみたらどうだい?お花をつんでお姉様に持って行ってあげなよ」

「いえ、大丈夫です」

「え」

 断られると思っていなかった狼さんは大慌て。

「ど、どうして?」

「だって、早くお姉様に会いたいんですもの!寄り道なんてしてられないわ」

「えっと、あ、じゃあ知ってるかい?そのお花畑のお花、病気が速く治る香りがするって言われたり言われなかったり……」

「大丈夫よ。ありがとう狼さん」

 さっさと行こうとする赤頭巾に、狼さんはさらに慌てました。

「えっと、じゃあお話しないかい?どんな人なんだい?お姉様って?」

 そう言った瞬間、赤頭巾はパッと顔を輝かせた。

「お姉様の事聞きたいの?いいわ。教えてあげる!私の愛するお姉様のこと!」

 そう言うと、赤頭巾は、いそいそと狼さんの隣に着て、懐から写真を取り出しました。

「ほら見て頂戴。この美しいお顔。まるでお城に咲くバラの花のようでしょう?この微笑みも、控え目に輝く朝露のよう。

 優しくてね、声も鈴のように優しく響くの」

「へ、へえ」

 捲し立てるようにお姉様の事を話す赤頭巾に、狼さんは少しドン引きしました。

「そ、そうだ、バラも向こうに咲いているよ。バラのようなお姉様に持っていったらどうかな」

「あら、そうなの?じゃあ行こうかしら。お姉様には大きくて真赤なバラが似合うわ」

 そう言って、赤頭巾は、花畑に向かって駆けてゆきました。

「よし、ようやく行った」

 狼さんはホッとして、お姉様のお家に向かいました。


 お家につくと、狼さんはトントン、とドアをノックしました。

「はーい、だあれ?」

 中からかわいい声がします。

 狼さんは、声色を変えて赤頭巾のマネをしながら言いました。

「こんにちは。赤頭巾よ。開けて頂戴」

 すぐに開けてくる……と思いきや、中から全く声がしません。

「お姉様?どうしたの」

 もう一度狼さんが声をかけると「帰れ!あんたは来るなって言ったでしょうが!」と怒鳴り声が聞こえてきました。

 予想外の反応に、狼さんはびっくりです。

 すごすごとその場を立ち去ります。


 そして、花畑で赤頭巾に再会しました。

「あら、狼さん。バラなんてここ、探しても見つからないわよ」

「おや、それは失礼」

 狼さんは、ぎこちなく謝りました。赤頭巾は小さくため息をつきました。

「ちょっと疲れちゃったから、少しだけ休んでお姉様に持っていくワインをつまみ食いしてたの。狼さんもいかが?」

「ああ、もらってもいいかな」

 狼さんは素直にワインを受け取ります。

「ところで赤頭巾、君はお姉様と仲が悪いのかい?」

 狼さんの質問に、赤頭巾はきょとんと首を傾げました。

「いいえ。仲は悪くないわ。私お姉様の事大好きだし。一緒に住んでた頃はいっつも一緒にいたわ。ご飯の時も、お風呂も寝る時も」

 そう言って、赤頭巾は何かに思いを馳せるようにうっとりとした顔をしました。

「お姉様は恥ずかしがってたけどね。それでも、私はお姉様にあーんしてご飯を食べさせてあげたし。お姉様は御口までかわいいの。すこし舌を撫でてあげるだけでビクッとしちゃってね……。

お風呂ではお姉様の体を隅々まで洗ってあげたのよ。洗うときはくすぐったいのか嫌がるから、少しだけ拘束して、大きな膨らみを中心に隅々まで洗ったんだけど、そうしたら泣いて喜んでくれるの」

「うん?」

 なんだか不穏な話になってきた空気を感じて、狼さんは首をかしげました。

「お姉様の体……すべすべでふわふわで……ああ、思い出すだけでたまらないわ。寝る時も、ギュッと抱きしめて寝るの。お姉様は暑がりだから、ギュッとするのはちょっとだけ嫌がるから、たまぁにベットに縛りつけて一緒に寝て差し上げたわ。お姉様のあまりの可愛さに、いっぱい触りすぎて……中まで触りすぎて……寝れないことも多々あったけどもね」

「そ、そうなんだね」

 狼さんは、さっきのお姉様の怒鳴り声を思い出していました。

 そして、何となく事情を察してしまいました。

「もしかして、こいつの姉が森の奥に住んでるのって、こいつから逃げ出したからじゃ……」

 狼さんはブツブツと独り言を言います。


 その時です。狼さんは頭がクラリとしてきました。そしてなぜか体が痺れだして、立っていられなくなったのです。

「なん、だ。これは」

「狼さん、私知ってるのよ。狼さんが私より先にお姉様に会いに行こうとしたことを」

 赤頭巾が、狼さんを見下ろすように立っています。

「あまつさえ、お姉様を食べようとしたんでしょう?」

「ち、違……」

「許せないわ。お姉様は私のなのに」

 赤頭巾の口は微笑みを浮かべていましたが、目は笑っていませんでした。

 この体の痺れはさっきのワインか、と狼さんはすぐに察しました。

「ねえ狼さん、ちょっと手伝ってほしいの。そうすれば命は助けてあげるわ」

 赤頭巾は甘ったるい声をだします。

「狼さん、声色を変えられるんでしょ?お姉様、私が訪ねてもドアを開けてくれないの。だから、狼さん、私のお母様の声を真似してお姉様の家のドアを開けさせて頂戴」

「そ、それは」

「ね?いいでしょ?そうしたら、私がお姉様のお家に入って、お姉様に何とかこのワインを飲ませてあげるの。そうしたら、フフ。後はゆっくり見ていてもいいわよ」

 そう言って、赤頭巾は狼さんを強い力で引きずります。

 狼さんは為す術もなく、赤頭巾と共に、お姉様の家に連れて行かれるのでした。


 さて、その後、お姉様と狼さんが無事かどうかは誰も知りません。






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