花疼き

「アタシの趣味は幸が薄そうなに生きるすべを仕込むことでな。てなわけで最初は夜伽セックスをアンタに仕込もうと思う」


 五年前にシアーの弟子入りをしたあの日。

 彼女は市場最悪の口説き文句を未だ私は一言一句忘れることはできませゎ。


「アタシの右腕、右手は世界中の娘を悦ばせる一級品だったんだぜ。それをアンタの主人に奪われたワケよ。アンタがその身をもって右腕の代わりになるべきなんだわ。おいおいおいおいなんだよその顔はよ……アタシは冗談言ってる訳じゃあないんだぜ。アタシはいつだって本気と本音だけで生きてんだ。腕をぎられて消沈しているアタシと、主人に逃げられ消沈しているアンタがいる。慰め合おうって話だわかるだろ?」


 心の傷は夜通し寝台ベッドで肌を合わせて温め合う。それで気休め程度に傷の疼きは治まります。

 それが御師匠に教わった最初の生きるすべ

 抵抗は大いにありました。


 婚前交渉をましてや女同士で加えて年端も行かない少女と致そうなどとは、夢にも思わぬ晴天の霹靂でありました。


 当時の私は二十二歳、シアーはなんと一七歳。

 シアーの放つ迫力でてっきり年上とばかり思っていたのですが、蓋をあければ五つも歳下ではありませんか。


 背徳と冒涜に満ちた淫靡いんびな誘いを荒々しくも美しい少女に投げかけられ、面食らい呆然とし身を強張らせることしかできませんでした。そんな私の手をシアーは優しくとり、安宿の汚ならしい寝台へいざないいました。

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銀のナイフは錆びつかない 鮎河蛍石 @aomisora

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