機械


回復しきっていない傷口に走った激痛に転げまわる。刹那、喉から赤い痰のようなものが大量に出てきた。


そこでやっと私の異変に気づいたのか、千留さんが振り返り、私を一瞥いちべつし、そして無言で、痛みに悶絶する私を壁の方を押し付けた。


彼はそのまま動かずに、周りの状況を確認しようとする。

目の前に政府軍がたまっている。それ以外の情報は何もなかった。


そうしている間にも、私の喉から、鼻から、細く大量の血が流れ続ける。


あまりの痛さにやけくそになると、千留さんを振り払い、涙目で政府軍に近づいて顔にある気持ち悪い機械を殴った。

…だが、私がどれだけ一生懸命力を込めても、金属に固いものがぶつかる鈍い音がするだけ。


「ちょっと、花さん……」

千留さんがぎょっとしたような声音で私の方を見る。


その瞬間、いつのまにか彼の背後にまわっていた政府軍が、千留さんの背中に刀を突き立てた。


「……っぐ」


千留さんが痛みに喘ぐ。


あ、と声を出す私。

その隙を逃すまいと、政府軍が彼を殺そうとコードを伸ばす。


混乱した私は、反射的に政府軍と千留さんの躍り出ると、千留さんの受けるはずだった攻撃を一身に受けた。


左目にじりじりとした、激しい痛みがはしる。クラゲに刺された時のようだ。いや、それより酷い。


目の前の政府軍の機械に、自分の姿が映る。

目玉は焼けこげ、脳は抉り削り取られ、喉は原型を留めていない。


その醜態と激痛に、私は泣き叫んだ。我ながら情けないとは思う。


千留さんは、そんな私を床に押し倒すと、裏側に回った政府軍を切り裂き、壁を蹴って前へ出て大量の兵士と対峙した。


「……ほんと、だっる」


あまり危機感のない声で彼はそう言う。

とても背中を抉られているものの発言とは思えない。


政府軍が刀を振りかぶる。


次の瞬間、最前列の政府軍がのけぞって倒れた。


金属と金属が擦れ合う音がして、政府軍の頭についた機械が吹っ飛ぶ。


……千留さんが、毒を纏わせた短剣で戦ってるんだ。

どんなに追い込まれていても、そこまで理解は難くなかった。


彼は内側から短剣を差し込み、器用に機械を外していく。

そして、おまけとでも言わんばかりに腹部に短剣を刺した。かなり強い毒なのか、ほとんどの政府軍がのけぞって倒れる。


段々と政府軍の数が減ってきた頃、その中の何人かが最後の悪あがきで一斉に刀を振った。


「……うえっ、待って待って」


千留さんの姿が見えなくなる。


心配になって立ち上がり、政府軍の中から彼の姿を探すと、彼は刀の隙間を潜り抜けているところだった。

しゃがんで縦横無尽に走りまわり、なんとかその攻撃を避け切る。


そして、階段の手すりを蹴って大きく跳躍した。


手を大きく横に振る。


その手から鳩羽色はとばいろの何かが見えたと思った瞬間、下にいる政府軍全員が倒れた。

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だったら私が死ねばいい! いめ @IME_

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