夏の宿題

薄暑なつ

夏の宿題

お店番しながら夏の宿題をする男の子 あたりは静か


まだ咲いていない花壇をながめてる時間のいらない季節を生きたい


表札にある犬シール3枚のうちの2枚が剥がされている


見せようと思って握りしめていた手のひらをほどくけどもうない


声になるほどのさみしさではなくておにぎり包むアルミぐらぐら


埋めるのに使ったシャベルの泥すすぎバツンバツンと切っていく爪


コインランドリーの服たちまわってるそれぞれが持つ星の軌道で


持ち上げたときに気づいた使い古されたホースにとどまった水


遠浅の海岸 シーツは乱れつつ残る一日ひとひの水流として


黒い窓枠のむこうにふたり組 回想シーンの只中みたい


雨の降りはじめのように打ち明けてコップの水に視線が傾ぐ


涼しい顔をしてスプーンを差し込んだときにわずかにあふれるクリーム


川の反射が壁にきれいで伝えたらスマホを出して残してくれた


忘れていくことも力が必要でうなずく代わりに両目をつむる


正しさを基準にしたくない真昼ホームでひとりする深呼吸


からっぽに近い電車のまぶしさはこころをきゅ、と明け渡すように


映ってる町に入らないようにしてカーブミラーの根本を歩く


日をまたぐ前にねむろうアーカイブしていたラジオでも聴きながら


スニーカーの口に丸めて詰め込んだ新聞 雨をすなおに吸って


約束は季節となってミニバンの下から猫が立ち去っていく

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夏の宿題 薄暑なつ @hakusho_

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