エピソード12:噂通りです


「大地君、制服なんて珍しい」


「ちょっと色々ありまして」



 結局、職員室に呼ばれた俺は、しこたま先生に怒られた。処分など何も無かったことが、唯一の救い。正当防衛だし、多勢に無勢なんだから、当然だと思うけど。



 違うか。やっぱり暴力はダメだな。暴力は。



 なぜか俺の顔を見て『弱い者いじめは最低です』って、言われたのだけは、せなかったけど。



 もうどうでもいいや。癒しのバイトが俺を待っているから。



「マスター、実は」


「どうかした? 大地君」



「家に帰ってないので、眼鏡と整髪料が無くてですね」


「そのままでいいよ」



「えっ!? いいんですか?」


「いいよいいよ」



 俺はマスターから、お店に出る時は学校スタイルを禁止されていた。だからマスターの言葉には、正直驚きを隠せない。



マスターは『もう十分だから』っと言いながら笑っていた。



「そういえば、今日は真央まおちゃんとシフトが被ってるよ」


「真央ちゃん?」



「前に話した新人の子だよ! 山本やまもと真央まおちゃんだ」


「あーー、前に言われてましたね」



「すっごく可愛い子だよ。最近は、その子目当てのお客さんも増えてね」



 マスターは俺を見て、お得意のウインクをしてきた。



 確かに若い女性だけでなく、ここ最近は新規の男性客も目立つようになった。俺が対応すると、露骨に嫌な顔をされたりするから、女性客の対応の方が楽に感じたりしている。



「では、着替えだけ済ませてきますね」


「はいよ」



~~~~~~~~~~



『カランカラン』



「すみませんマスター、遅くなりました!」


「真央ちゃん、大丈夫だよ。うちは割とルーズだから」



「ありがとうございます! すぐ準備してきますね」


「今日、例の大地君と一緒だよ」



「えーー!! 楽しみです!!」


「早く準備しておいで」



「はぁい! 行ってきます」



~~~~~~~~~~



 着替えては見たものの、合わな過ぎる。本当にいいのだろうか?


 今日の身なりでは、さすがにいつものセリフを口にする気になれず、そのまま更衣室を出ることにした。



「マスター、本当にいいのでしょうか? 走って家に帰りますよ」


「気にしなくていいよ。大丈夫だから。それより、やっぱりその変装は女性避けなのかい?」



「えっ? 違いますけど」


「そうなの!? てっきりそうとばかり思ってたよ」



「俺、女性から嫌われる体質なんですよ」


「ハイッ!?」



「マスター、俺ってそんなに、臭いますか?」



 そう俺が尋ねると、マスターは声も出ないぐらい驚いた表情をしていた。


 その瞬間、俺は全てを悟った気がした。


 やっぱりバイト前もシャワー浴びないといけないな。クビになりたくないし。



「マスター、お待たせしました!」


「おっ、真央ちゃん、今日も可愛いね!!」



「マスターったら、またそんなこと言って」


「山本さん、宍戸です。宍戸大地です。これからよろしくお願いします」



 彼女も一瞬驚いた表情をした後、ニコッと笑いながら『山本真央です。こちらこそよろしくお願いします』と挨拶をしてくれた。



「大地君、真央ちゃんはね、藤島ふじしま女子校の一年生なんだよ」



 藤島女子高校といえば、この辺では藤女ふじじょと呼ばれていて、可愛い子が多いと有名な高校だ。男子生徒の間では、なんか合コンしたい高校No1だとか。


 

 確かに山本さんも、凄い可愛いな。



 なんていうか、身長は150を超えたぐらいかな? 染めてない綺麗な黒髪。肩に掛からないぐらいのショートカットを後ろで括っていて、前髪はピンで止めている。ニコッと笑った笑顔が、とにかく愛らしい。


 守ってあげたくなる女の子って言葉が、とてもよく似合う。俺から見ても、男子受けする容姿だと思う。



 別に俺には関係ないから、どうでもいいんだけど。さすがに臭うって面と向かって言われると、凹へこむかも。



 俺も自分の学校を告げようとした、その時



「リザーレ高校の二年生なんですよね、センパイ」



 彼女は上目遣いで、語尾にはハートマークが付きそうな、甘えるような声を被せてくる。


 

 なんで俺のことを知ってるんだろう?



「マスター、宍戸さんの話ばかりするんですよ! やっとお会いできて、凄く嬉しいです、センパイ」



 センパイ……なんていい響きなんだ。俺は後輩からも『キャプテン』と呼ばれていたから、なんか新鮮だな。



~~~~~~~~~~



『カランカラン』



「いらっしゃいませ!」


「いらっしゃいませぇーー!」



「ぷっ」


「あれぇ? 大地君、変装?」


「女性避けってヤツぅ?」



 最近、よくお店に来てくれるようになった、OLさんのグループだ。



「やっぱり、似合いませんか?」



「ううん!」


「とってもお似合い」


「うん! 大地君は、ずっとそれでいいよ!」



「有難う御座います! それではお席へご案内致しますね」



 明らかにバイトの制服にあってない気がするけど……常連さんはやっぱり優しいな。


 いつものように、注文を後から伺いにくる旨を伝えて、席を後にした。



「センパイ、噂通りです」


「ん? 何がだ」



「大人気ですね」


「ははっ、先輩を揶揄からかうなよ」



『カランカラン』



「いらっしゃいませ!」


「いらっしゃいませぇーー!」



「うふ、大地さんどうしたの?」


「あっ! 彼女できたんでしょ!?」



 今度も最近よく来られるようになった、女子大生の二人組だ。



「彼女なんてできてないですよ。変ですか?」



「本当にできてないの?」


「残念ながら」



「いいと思うよ、そのスタイルも」


「うん、大地さん、ス・テ・キ!」



「良かったです! それではお席へご案内致しますね」



 実はこの眼鏡、バイトの制服と似合ってるのかな? マスターも問題無いって言ってたし。いや、常連さんだから優しいんだろうな。



 俺はさっきと同じように、注文を後から伺いにくる旨を伝えて、席を後にした。



「センパイ……凄いです」


「え? なんで?」



「モテモテですよ?」


「あはは、常連さんだから優しいんだよ」



「本気で言ってますぅ?」


「あぁ。そろそろ注文を聞いて回ろうかな」



「たぶん、二席ともセンパイが伺った方が良いと思うので」


「そぉ? じゃあ、そうしようか」



『カランカラン』



 ん? またまた最近ちょくちょく見掛ける男性の一人客だ。俺が対応すると、露骨に嫌な顔をするんだよな。


 ここは後輩である山本さんにお任せしよう。


 俺は注文を伺う為、OLグループのテーブルへと足を運んだ。



       『あとがき』


SNS from 小栗啓二to 相沢美香



美香:「宍戸君、凄いことになってるよ」

啓二:「やっぱり(笑)」


美香:「教室で暴れたって」

啓二:「正しいといえば、正しいかな」


美香:「でも、評価が急上昇中」

啓二:「そうなんだ。アイツは喜ばなさそう(笑)」


美香:「ファンクラブ、できちゃうかも?」

啓二:「入っちゃダメだからな」


美香:「まだ言うの?」

啓二:「そういえば、明日学食へ宍戸を誘うことに成功した!!」


美香:「その件はこっちも大丈夫だけど。明日って休校日よね?」

啓二:「あっ!!」


美香:「啓二らしい。私も途中で気が付いたんだけど(笑)」

啓二:「しまった。宍戸に連絡しとかないと」



啓二……宍戸君はちゃんとわかってると思うよ。


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