第九話 交流

警告

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 ローナがもじもじしながらこちらを上目遣いで見てくる。

 期待しているところ悪いが断らせてもらおう。


「いらん」

『即答!? な、何でですか?』

「無理強いするわけにはいかんだろう。お前にだって好きな男の幽霊がいるだろうに」

『は? いえ、いませんよ』


 声から察するに困惑しているようだ。幽霊は恋愛しないのか?


「どのくらい長く生きているかは知らんが、人間と同じように思考する生き物なら、そういう感情を持ったことがあるはずだ」

『ですから、そういうわけではなく、私たちには男が存在しないんです』

「……何? じゃあどうやって一族を増やしているんだ」

『とある方法で子が生まれます』

「ほう」

『でも私たちの間で秘密となっているので、教えられません』

「俺は興味本位で訊いただけだから、言いたくないならそれで良い」


 彼女は向かい合って何か言いたそうにしているが、幽霊族にもおきてがあるのだろう。


『ノリオ様優しいですね』

「そうか?」


 言われるほど気遣いしてないぞ。


『やっぱりお礼に私がお相手になって差し上げますね』

「ん、何?」


 すすすと俺と向かい合わせになるように移動したローナが透き通った腕を俺に伸ばす。


『それではっ』


 股間に違和感が生まれ、何かに優しく包まれる。

 ローナの両手か、これ!?


「お、おい、ローナ!?」

『じっとしててくださいねー』


 無理矢理勃起ぼっきさせられ、拒絶できない快感が生まれる。

 まずいまずい、ここでそんな事やられたら浴槽よくそう内が汚れる!


『あ、どこ行くんですか?』


 浴槽の壁を背にしていたが、何とか振り返ると浴槽から四つん這いで抜け出す。

 この間もローナの手が離れない。見れば浴槽の壁からローナが仰向けの状態ですり抜け、床面から顔をのぞかせている。


『逃がしませんよー』


 色々手助けしてくれるメイドを付けられておおむね満足していたが、幽霊族がこんなに厄介だとは思わなかった。

 あ、もう駄目。


◆     ◆     ◆


 俺は汚れた体を再度洗い、無理矢理放出された体液をローナが洗い流す。


『満足されましたか?』

「ああ、まあ、うん」


 情けないにも程がある。

 しかし、だ。自慰行為と比べて他人による行為だと自身の意思が介在していないので予測不能の動きをされるとこんなに弱いとは思わなかった。


「一体どこでそんな技術を習得したんだ?」


 手慣れてるレベルだぞ。過去に誰かから実践じっせんされて教わったんじゃないだろうか。


『ここに来る前、先輩メイドから貴族を骨抜きにする事を教えてもらいました』

「何てことだ」

『安心して下さい、実際にやったのはノリオ様が初めてですので』

「そういう意味じゃなくてだな……」

『それでですねー』

「何だ?」


 ローナが俺に笑顔で問いかける。


『これからもご利用なされます?』

「…………是非お願いします」


 あの快感を知ったら、もう過去には戻れん。本当、何をやらかしてくれたのか。


『今後もご贔屓ひいきにー』

「何言ってんだお前……」


 ちたな、俺。


◆     ◆     ◆


 再度浴槽に体を沈める。向かい合わせにローナも湯につかる。幽霊族は湯加減を楽しめないのではと訊いたところ、気分の問題だとか。


「ところで前々から疑問に思っていた事なんだが、ローナが俺のメイドに選ばれた理由って何だ?」

『たった一人の勇者様をめぐっての勝ち抜き争奪そうだつ戦です』

「え、そこまで人気あったの、俺?」

『ありましたよー』

「ちなみに勝てた理由は?」

『幼い頃から学んでたメイドとしての技術が功をそうしましたねー。他の参加者の中にはお茶の淹れ方も知りませんでしたし』

「随分と幅広くつのったんだな……」


 もしかすると、彼女はメイドとしてなら一流なのかもしれない。


『もうひとつ、お願いがあるんですけど、よろしいでしょうか?』

「何だ」

『私と結婚してください!』

「却下」

『何故にっ!?』


 衝撃を受けるローナにさとすように告げる。


「いずれ俺は故郷に帰るが、そこには幽霊族が一人もいない。一人ぼっちになるうえ、最悪の場合、国からお前を取り上げられ、見世物にされるだろう。連れ帰るわけにはいかないんだ。分かってくれ」

『うう~、そんなのあんまりです……!』


 涙目の彼女の頭を闇属性の魔力で包んだ手でよしよしと撫でた。


◆     ◆     ◆


 風呂から上がった俺は今日の復習と明日の授業の予習をする。

 一刻も早く家に帰りたいという気持ちもあるが、この一か月休んだ記憶がない。

 たまには一日中、この部屋でごろごろと寝ていたい。

 元社畜だった俺はこのくらいどうってことないとは思いつつ、時折、同級生が遊びに誘ってくる度、故郷に帰る為と断るのも忍びなくなってきた。


 いい加減、学業以外でも彼らと交流しないといけないと思うようになったのだ。

 お互い信頼関係が築かれていない中で、いざ敵に向けて出発する際、誰もついてきてくれなかった時の事を考えるとさすがにまずい。


 さらに誰かを誘うのも考えものだ。

 特定の人々にのみ誘ってばかりいると残された人に目の敵にされる。

 かといって八方美人に付き合っているとそれはそれでどうかと思われるだろう。


 うんうん悩んでいて気づいた。

 あれ、これ昔俺が読んでいた小説で登場した貴族たちと生活形態が一緒じゃないかと。

 貴族からの手紙が毎回ひっきりなしに届くようになった以上、無視するわけにはいかない。

 魔法をかけられて良かった言語理解。

 早速ローナが用意してくれた返信用の手紙にちまちまと書きこんでいく。


『あの、本当にそれでいいんですか?』


 机に向かっている俺に対して、脇で様子をうかがっていたローナが声をかけてくる。


「何かまずいことでも?」

『ノリオ様、男同士の恋愛に興味があったんですね』


 手紙を書いていたペンを止め、彼女を半眼はんがんで見やる。


「……なぜそうなる」

『その手紙に描かれている花なんですが、送られた相手から見ると、あなたを愛していますという意味でして』


 それを聞いて俺はため息をついた。


「……男同士の友情を求めるような意味合いにしたいんだが。というか、何でこんな変なものが混じってるんだ?」

『貴族の学生同士の恋愛の始まりは手紙からなんですよ。皆様将来がかかってますし』


 彼らはお城での仕事以外、基本は領地経営だ。逆を言えば貴族同士の付き合いがおろそかになってしまうので、異性の出会いがあまりなくなる。そういうわけで、学園で生活している間は婚活会場となるわけか。


「なるほど、貴族も大変だな。……いや、待て。だからなぜ愛しているという花柄はながらが混じってるんだ?」

『学園の購買部で仕入れた物なのですが……、察するに、貴族様達が勇者様にこの地に根ざして欲しいからではないでしょうか』

「俺は、故郷に、帰るんだ」

『私としてはこちらに残って欲しいのですが』

「年老いた両親が心配なんだ」

『そうですか、残念です』


 ローナは気落ちした様子で顔をせた。

 主だった人に手紙を書き終えた俺は夕食を食堂でとり、何事もなく就寝した。


◆     ◆     ◆


 翌日、昼食の時間に俺は同級生に声をかける。


「ようやく時間が取れた。良ければ今日の放課後どこか遊びに行かないか?」

「本当かい? 嬉しいな、他の同級生も誘っていいかい?」

「もちろんいいとも。ただこの学園の周辺はほとんど知らないんだ。おすすめの店に案内してくれないか?」

「喜んで」


 こうして俺は三人の同級生と共にちょっとお洒落しゃれなカフェに入った。

 店内をのぞくと女性の割合が多いように感じた。

 同級生三人の中に女子が一人いるのは、男子だけでは気まずいからかな。


 一人勝手に納得しながら彼らに案内されて、空いているテーブルに陣取じんどった。


「ここのサンドイッチとコーヒーが絶品なんだ」

「じゃあそれを頼もうかな」


 彼らにすすめられて店員に注文する。

 一応、国からそれなりのお金が月々俺の手元に届くことになっているので、限度はあるがこうして飲み食いするだけの余裕よゆうはある。

 戦時中だからあまり無駄遣むだづかいできないだろうに。……必要経費と思っておこう。

 同級生たちは店員にそれぞれ希望の品を注文すると、自己紹介を始めた。


「出会った最初に自己紹介したはずだけど、僕らの名前、おぼえてるかい?」


 念のためか尋ねられたけど、この一か月は勉強ばかりだったので自信が無かった。


「すまない、名乗ってもらえると助かる」

「では改めて。僕はウェブル・ケイ。商人から貴族に転向したんだ、何か欲しい物があったら言ってくれ」

「マリー・ゼスト。聖女学科の聖女見習いよ、よろしくね」

「ルモール・テイラーだ。士官学科の士官候補生で魔法戦士。主に身体強化の魔法を使う。今度こそ憶えてくれよ」


 眼鏡をかけた茶色の目と長髪の少年がウェブル、同学年と比べるとちょっと小柄で金髪で青い目の少女がマリー、黒の短髪で中等部かと疑うくらいガタイの大きいのがルモール、と。


「……うん、何とか憶えた。安武典男やすたけのりおだ。姓が安武で名前が典男。好きに呼んでくれて構わない」

「じゃあノリオと。そもそもどうしてクラスで最初に僕に声をかけたんだい?」

「この一か月でウェブルがまとめ役として動いているのが分かったからさ。クラスの顔役に挨拶しておこうと思ってね」

「なるほど、確かに僕は相談役としてあれこれ動いているけれど、貴族としての家柄は下から数えた方が早いよ? コネを作るならもっと良い人を紹介するけど……」


 ウェブルの自虐じぎゃく的な話をてのひらを突き出してさえぎった。


「そんなものに関心は無い。ただ単に友人として仲良くやっていきたいというだけだ」


 俺の返事にきょとんとしていた三人が微笑ほほえんだ。


「……ありがとう」


 ウェブルの礼に俺は頭を下げた。


「こちらこそすまない。学園の生活に慣れるまで時間がかかってしまった」

「構わないさ、君が授業の後、教師に熱心に質問している姿を見てたから」


 それを聞いたマリーとルモールが話に加わる。


「そうそう。あれ見て思い出したわ、あたしたちも小さいときはああやって教師を質問攻めにしていたよね」

「さんざん先生たちを困らせてたよな」


 三人で笑う光景を見た俺は安堵あんどした。

 どうやら、住む星は違えど人のいとなみはあまり変わらないみたいだな。


 店員が運んできたサンドイッチに舌鼓したづつみを打ちつつ、歓談かんだんする。

 学園の授業で遅れているところはないか、何か手伝える事はないか等、色々質問された。

 勇者だから毎度声をかけてきていたのかと思っていたが、純粋に心配してくれているらしい。


「色々気にかけてくれてありがとうな」


 俺が三人に礼を言うと、ウェブルが肩をすくめて答える。


「何、これも相談役としての勤めさ。……ところで、魔王を倒す算段は着いたのかい?」


 彼は話を本題に変えてきた。勇者としての力が気になるようだ。

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