第二十一話 決戦、魔王城

 集めた仲間たちに演説を続ける。


「恐らく、城には魔王の配下が大勢いるだろう。直接魔王と決着をつけるためにも皆の力が必要だ。俺に命を預けてくれ。……何か質問はあるか?」


 学園生たちから手が幾つか上がる。


「君から」

「本当にどうしてもやらなきゃいけないんですか?」

「君たちの故郷を守るためだ。こちらから攻めないといけない」


 俺の答えに幾つかの手が下りる。


「次は君」

「勇者様の独断ですか?」

「カルアンデ王国国王陛下から許可はもらってある。……次、君だ」

「作戦が上手くいったら地位と名誉とお金ください!」


 どっと皆が笑う。


「国王陛下に伝えるよ」

「約束ですよ!」

「さて、もう質問する者はいないな? 日没後に出撃する。各自、戦う準備をしてこの場所に集合だ。別れ!」

「別れます!」


 ざっと皆が散り散りになっていく。

 俺は今夜のために作戦室へおもむいて情報収集するとしよう。


◆     ◆     ◆


 日没後、広場に集まった俺たちは魔法で全員を宙に浮かせる。

 良かったよ、莫大な魔力があって。これが無ければ作戦遂行すいこうは不可能だった。


 皆は最初、空を飛べることに喜んでいたものの、真っ暗闇の中を風を切って進み始めたため、顔が引きつった。女子生徒たちは多くが泣きが入っているが、中には笑って楽しんでいる剛の者もいる。

 実戦を積み重ねていたモンリー中隊の面々はさすがと言うか、青ざめてはいるものの声を上げていない。

 メッケルとワルムも連れている。この二人は慣れたのか涼しい顔だ。


 ちなみに、捕獲した二体のロボットは重量過多のため連れて行くことができず、悪用されないように完全に破壊した。操縦士のセシルとネアは主戦派の手が及ばないように連れてきている。彼女たちはロボットの操縦で経験を積んでいるためか平然としていた。


「ノリオ、女子たちの泣き声がやかましくて目立ってるぞ!」

「ルモール、ありがとう! ウェブル、彼女たちの事を頼む! これだけの人数を魔法で制御するのが難しい、集中させてくれ!」

「わ、分かった!」


 二百五十人での空中移動はなにぶん初めてと言うか、ぶっつけ本番だったため、どのくらいが透明な板から踏み外して落下しないかどうか心配だったが、一人一人に断面が半円形、雨樋あまどいを巨大化させたような物を生成することにより問題は解決、誰一人こぼれ落ちることなく魔王のいる城の上空に到達した。


「見えた、あれが魔王のいる城だ。全員戦闘準備、中庭に降りるぞ!」

「火属性魔法の爆轟ばくごうの準備、正面の門を蹴破るぞ!」


 爆轟の魔法で城の正門、城壁の門と跳ね橋を吹き飛ばして城内に突入する。

 皆一塊ひとかたまりとなって魔王のいる奥を目指す。


 敵の抵抗は激しく、火魔法で石壁や石床が赤熱され、水魔法で冷やしながら進む。

 その他にも水魔法の濁流で階段下まで押し流されかけ、壁に大穴を開け外に流してやり過ごしたり、土魔法で天井ごと押し潰されかけたときは、無属性魔法の板で天井を丸ごと支えたり、風魔法で酸欠状態にされたりしたときは、同じく風魔法で空気を生み出して対抗したりした。


 皆で強行突破を図るも、生徒たちが一人、また一人と倒れていく。それでも勢いは衰えず奥へ奥へと突き進み、ついに魔王がいると思われる謁見えっけんの間へと辿り着いた時にはそれなりに数が減っていた。

 そこにたどり着いた直後、魔王側の魔法による一斉攻撃を仕掛けられたが、俺の無色の盾を張ってしのぐ。


「ほう、今の攻撃を耐えるか。そこそこやるな」


 王座に腰かけていた人物が感心した様子を見せて言う。


「お前が魔王か?」

「いかにも」

「偽物だったりしないよな」

「不敬だぞ。逃げも隠れもしない。お前のような勇者と一緒にするな。兵の陰に隠れてこそこそするとは、臆病おくびょう者め」

「生憎、こっちの本業は裏方なんだよ物知らずめ。……単刀直入に言わせてもらう。和平条約を結びに来た」

「俺の城に乗り込んで来たと思えば、命乞いのちごいか」

「これ以上、カルアンデ王国の民を死なせるわけにはいかない。それだけだ」

「見下げはてたものだ。つまらん、ここでお前たちの生を終わらせてやる」


 交渉決裂か。

 魔王とその護衛がどの程度の強さか不明だが、やるしかないのだ。


徹底てってい的に嫌がらせしてやる」

「ぬかせ、兵もろとも俺自ら叩き潰してやる」

「というわけで、ワルム先生、お願いします」

「誰が先生だ、誰が」


 いや、すいません、言葉の綾です。流してもらえると助かります。


「いや、誰だよ」

「カルアンデ王国国王直属の近衛騎士だ。訳あって同行してもらってる」

「まあ、そういうことだ」


 魔王の突っ込みに俺は正直に答え、ワルムは肯定した。


「近衛騎士とやらがどれほどのものか、俺が直接確かめてやろう」

「望むところだ!」


 魔王は傍らに控えていた女性から剣を受け取ると、鞘から剣を抜く。

 きらきらと光っているところを見ると、何らかの魔法が込められているな。

 対する近衛騎士は槍に斧が付いたハルバードと呼ばれる物だ。

 どちらも同時に駆けだして己の武器を振るい激しい打ち合いを始めた。

 魔王は魔族には珍しく、身体能力強化系の魔法を使う肉体派のようだ。


「魔王様、援護します」


 玉座の傍らにいた女性がその場で援護のためか呪文を唱え始める。


「いらん、お前は雑魚に手出しさせないよう抑え込め、倒してしまっても構わん!」

「了解」


 女性が呪文を打ち切り、別の魔法を唱えだす。

 そして、玉座の両脇に控えていた魔族たちが一斉に前進してきた。後方からも魔族がやって来る。


「皆、踏ん張れ、ここが決戦だ!」


 魔王には近衛騎士を一騎打ちにさせ、魔王の護衛どもはモンリー中隊を充てる。後方から押し寄せる魔族どもには学園生たちで時間稼ぎをし、俺はその都度防御などによる魔法で援護する作戦だ。


 謁見の間中央で両軍が激突した。互いに剣戟と魔法が飛び交う。

 怒号と悲鳴が交錯し、聖女見習いたちが応急処置に駆け回る。

 俺の魔法は盾で皆を守ることに専念するが、それではじり貧なので敵の足元に良く滑る板を出現させて転ばせる。上手くいけばそれで討ち取れる。


「ワルム、どうだ!?」

「強い、押されてる!」

「ふん、こんなものか!」


 魔王と近衛騎士の一騎打ちを邪魔しないよう、互いに距離を取っていたので二人の様子が分かる。

 駄目だ、このままでは近衛騎士が死ぬ。

 俺は嫌がらせのため、滑る板を魔王の足元に出す。


「こんなもの!」


 踏み砕かれた。

 嘘だろ、ロボットがこける強度の板だぞ。

 盾を張り魔王の攻撃を阻もうとするも、魔剣で突き破られた。

 これも駄目か。

 闇魔法で精神に揺さぶりをかける。


「温い!」


 あっさり破られた。

 どうする、他に妨害できるような魔法、あったか?

 ワルムが魔王の剣を受け損ねて姿勢が崩れる。


「終わりだ!」


 魔王が魔剣を大上段に振りかぶる。

 ワルムは低い姿勢で踏ん張りながらハルバードを横薙ぎに振ろうとする。

 誰が見てもワルムの方がわずかに遅いと感じられる。このままでは彼は頭から真っ二つにされてしまうだろう。

 俺は苦し紛れに初歩の闇魔法で魔王の目に暗闇を張り付けた。


「うぬ、小癪こしゃくなっ!」


 魔王が魔剣を振り下ろすのが数舜すうしゅん遅れる。

 それが決め手となった。

 近衛騎士のハルバードが魔王の脇腹を抉るかと思われたが、身体強化魔法で防がれた。ただ、勢いは殺しきれず、あばらが何本か折れたようだ。

 魔王がその場にうずくまる。


「兄様!」


 玉座にいた女性が悲鳴を上げる。どうやら魔王の妹らしい。

 態勢を立て直したワルムがハルバードを振りかざす。


「俺の勝ちだ」

「待て、負けを認める。俺を殺すな」

「ここにきて命乞いか?」

「そうだ。今ここで死んだら魔王領は再び群雄割拠ぐんゆうかっきょの戦国時代に逆戻りする。死ぬわけにはいかない」

「勝手なことを」

「止めろワルム、俺たちの目的を忘れるな!」

「……分かりました」


 魔王に駆け寄って魔法で治療する妹を見ながらワルムはハルバードを下げた。


「皆、戦いを止めよ、勝負はついた!」

「もう殺し合いはしなくて良いんだ、攻撃するな!」


 こうして決戦は終息した。

 モンリー中隊の戦死者は五十八人、勇者部隊からは十六人出た。負傷者は多数に上ったが、ローナ含めた聖女見習いたちの重傷者からの治療と、俺の光属性の無差別広範囲回復魔法により、徐々にではあるが傷が塞がっていく。

 魔力量が莫大で助かった。


 両軍の治療が進む間、魔族が謁見の間に椅子とテーブル、それに魔導通信を用意し、治療が済んだ魔王が妹の副官と共にテーブルにつく。

 対するカルアンデ王国側はメッケルを魔王と正対させ、その脇に俺とウェブルがついた。

 互いにこれ以上の無益な戦いは望まないと交わし、カルアンデ王国とは平和が訪れた。


 このことを魔導通信で要塞司令官に報告、カルアンデ王にも伝えようと繋げると、王国議会に王が出席しており、主戦派が魔王領に全面攻勢に出るよう政治工作の真っ最中だった。

 和平派の外交官が出席しての条約締結の報告に和平派は大喜び。主戦派は条約無効を叫ぶ。

 魔王が自己紹介をし、彼自ら戦う意思はないと表明するも、王国主戦派が彼を口汚く罵る。魔王はそれを無視していたが、罵倒が魔王領の民にまで及ぶと態度が急変、

彼に画面越しに睨みつけられた主戦派たちが、突然胸を押さえて苦しみだし、席から転がり落ちる。


「何だ、どうした!?」

「分からない!」

「し、死んでる!」

「ま、魔眼だ、それもとびきりの!」


 議会は滅茶苦茶となり、さすがにこれはどうかと詰問きつもんする王に魔王が謝る。


「悪いな、苦難を共に乗り越えて来た我が民を侮辱ぶじょくされるのは我慢ならなかった」


 しかし、主戦派の力が大幅に減退したことにより条約は効力を発揮することとなったのは皮肉だな。

 その後、なし崩し的に和平条約は効力を発揮し、カルアンデ王国と魔王領との戦いに終止符が打たれた。


 ただし、残された主戦派が俺たちを恨んでおり、帰国すると命を狙われる恐れがあるため、カルアンデ王国国王陛下の命令により、俺と学園生たちやモンリー中隊はほとぼりが冷めるまで魔王領に滞在たいざいするように言われた。

 学園生たちはしばらくの間故郷に戻れないことに意気消沈したが、俺はそんなことは気にせず、魔王の厄介になることにした。

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