第8話 先輩が就職の世話

「バカ、お前の再就職の話に決まっているじゃないか。大手ではないが一件は経理事務所の仕事。もう一件は中堅のデパートの総務部。まぁ多少給料は下がるが課長待遇で迎えてくれるってさ。これも我が自動車会社が世界一流の企業の強みだろうな。それを追い出されたお前は悔しいだろうが。どうだ。やってみるか?」

 真田は興奮していた。それが本当なら地獄から天国だ。

「せ……先輩。本当ですか? 本当に働けるんですか?」

「当たり前だ。この状況で、いくらお前でも冗談なんて言える訳がないだろう。大丈夫だ。経理事務所よりもデパートの方がいいか。特にあそこは我が社の資本が少し入っている。言わば天下りだと思っていい。下手な扱いされたら俺に言え、脅してやるからハッハハ」

 真田は声をこそ出さなかったが、目にはいっぱい涙を溜めて佐竹の手を握り頭を下げた。

「気にするな。もう少し俺が出世していたら、お前には絶対こんな目に合わなかったが、まぁこの辺で勘弁してくれや。俺はお前より、お前の奥さんを悲しませたくないだけだ。なんたって、お前の奥さんの手料理は超一流だからな。また喰わしてくれよな。ハッハハ」


 一方、真田家では夫の博之が、いくら電話しても出ないし連絡もなく、妻と子供達は何かあったのではと心配していた。今までそんな事は一度も無かっただけに只事ではないと三人で話し合っていた処だ。

 真田からは家族が急病とか事故など急用でない限り会社には電話をしないように、きつく言われていた。だが今日も連絡が取れないとなると話は別だ。

 会社に問い合わせようと話し合っている処だった。


つづく

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