第7話  先輩 佐竹

まだ早朝だ。佐竹と会うのは夜、まだ時間はある。それに背広は全部ヨレヨレだ。金もない。取り敢えず先輩の誘いが救いだ。だが襲われ金は取られた……

 思い出した! アッと声があげる。驚きながら財布を見た。あった! カードが残っていた。奴等はカードを取らなかったのか? 取っても簡単に現金には出来ない。それ以前に暗証番号が必要だ。だから奴らは足が付くのを恐れて取らなかったのだろう。真田は改めて冷や汗が出るのと、あれ以来久し振りに笑った。


 カードがあればなんでも出来る。取りあえずポロシャツや下着などを買った。

 それからサウナに行き一汗かいてから朝食を食べた。改めて金の有りありがたさを知った。但しカードに残金があれば話。

 夕方まで喫茶店のハシゴをして時間を潰し、それから約束場所である新宿で佐竹と時々行くスナックに顔を出した。

 佐竹は既に待っていて、あのゴツイ顔とゴツイ身体に似あわぬ笑顔を浮かべて手を上げた。佐竹は気を利かせたのか今夜はいつものカウンターではなく隅の席を取ってあった。


「真田、驚いたよ。人事部長が俺に気を使ったのか、俺とお前の仲は知っていて報告があったよ。俺も喰い下がったが世界的な不景気で、特に自動車業界は特別酷いだろう。力が足りずゴメンな」

「いいえ。佐竹先輩には心配をお掛けしました。流石に昨日は家に帰れずに……」

「ああ気持ちは、よく分る。そこで俺は早速、昔の仲間連中に声を掛けたよ。仲間と言ってもラグビー仲間だが。でもな、お前も知っている通り俺達の絆は固い。お前だってその一人だ。ラグビー仲間のピンチとあって、みんな協力してくれたよ。で、二件ばかりあったよ」

「先輩? あったってなんの事です」


つづく



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