魔女と最後の彼女への手紙③

 その言葉で、彼女の纏う空気が変わったのが分かった。

 彼女の体を覆うように少し光の膜の様なものが見える。

 足元からはいつか見た植物たちが芽吹く。

 老紳士はその彼女の様子を見ると嘆息した。

「はぁ、あなたを怒らせるつもりはなかったのですがね。魔女様を怒らせて良いことは何もないですから」

「うるさい、お前はもう二度と口を開くな!!」

 彼女は怒りのまま、老紳士に拳を向ける。

 杖を盾にして自身の体と彼女の拳の間に挟み込むが、吹っ飛ばされる。

 激しく車両の壁に打ち付けられる。

 ドサッと床に落ちると「やれやれ、こんな狭いところでは避けるのも難しいですね」

 老紳士はまだ余裕があるようなそぶりだった。

 彼女はさらに追撃をする。

 拳を叩きつけ、蹴り込む。

 老紳士は防戦一方だ。

 ダメージは受けているが、最小限なのかそれほどダメージを負っているいるようには思えない。

「はぁはぁ」

 彼女は肩で息をしながら老紳士を睨みつけるが、睨まれている老紳士は落ち着き払っている。

「あなたは相変わらずですね」

 老紳士はそういうと、彼女に蹴りを入れる。

 彼女はその蹴りを受け止められず、少し後ろに蹴り押される。

「はぁはぁ、爺、あんたはやっぱり強いな」

 彼女は少し笑った様だった。

「あなたには敵いませんよ」

 老紳士はそう言って首を振った。

「そもそも、あなたに敵う存在そのものもおりません」

「はいはい、私は結局孤独な女さ」

 彼女は吐き捨てるように言った。

 僕は彼女らの戦いを見ているが全く参加出来る気がしない、僕が入ればたちまちミンチにされるだろう。

 それくらい彼女らの強さは圧倒的だった。

 彼女らが睨みあっているとき、僕の手に力が集まっていく感覚が強くなっていく。

 意識していないのに勝手に剣が出現した。

 その剣はから何か意志を感じる。

(彼らを止める、手を貸して欲しい……)

 剣がそう僕に語り掛けてきた気がした。

「どうやって止めるんだよ」

(とりあえず、突っ込んだら?)

 剣から語り掛けてくる奴は平然と言い放った。

「死ぬわ!!」僕は大きな声で言うと彼らは僕へと意識を向けた。

 彼女は後ろを向かず「いきなり大声出してびっくりするんだけど」と言う。

 老紳士も怪訝そうにこっちを見ている。

(自己紹介はあとだね、とりあえず力を貸すから彼女の頭上を越えてアイツを斬れ)

 僕はその言葉に足に力を込めて、踏み込み彼女の頭上を越えるイメージを持って飛ぶ。

 老紳士目掛けて、綺麗に彼女の頭上を飛び越えそのまま斬り込んだ。

 僕の一太刀は老紳士の杖と共に片腕を斬り飛ばした。

「なにっ!?」

 老紳士は初めて表情を崩して、驚いた。

 しかしほとんど幻であるためか、切り落とした腕の切断面から血は一滴も流れない。

「何故だ、何故腕が戻らんのだ」

 老紳士は続けて腕を切り落とされて戻らないことに動揺していた。

 僕の剣を見ると目を大きく見開いた。

「お前の剣は一体誰の剣なんだ、私が与えた剣じゃない……」

 僕の出した剣を見て、老紳士は驚きを隠せない。

 老紳士に言われ僕も剣を見るが特に変わったという感じはしない。

「その剣はなに……?」

 後ろから見ていた彼女にも、この剣に心当たりはなかった様で初めて見たような反応だった。

 だがこれで形成は逆転した、あとは彼女に任せても良いだろう。

「あとは任せてもいいのかな?」

 僕は彼女にそう声を掛けた。

「もちろん任せて、これはあいつと私の問題だから」

 彼女の言葉は力強かった。

 僕は自分の意志で剣を消すと、老紳士に背を向けて彼女の居る方へ向かう。

「僕の出番はここまでだね」

 彼女と掌を叩きあって、後ろに戻った。

「やれやれ、片腕と杖がなくなっては流石に為す術がないですね」

 と、老紳士は苦笑した。

「私は一生、たとえここで消えようともあなたを許さないだろう。けど一度ここで決着はつけよう」

 そういって彼女はヒールで老紳士を蹴りつけた。

 その瞬間この車両が衝撃でへしゃげるのではないか思うほどの衝撃が僕を襲った。

 壁に押し付けられた老紳士の真ん中に穴が開いた。

「あなたは相変わらず、デタラメですね」

 床に落ちた老紳士は痛みも特に無さそうで、相変わらず落ち着き払っている。

 それを見た彼女はため息を吐く。

「これで、終わりね」

 その言葉に僕はもう一度、彼女の頭上から剣を振り下ろした。

「私の負けですね……」

 そう言って老紳士は消えていった。

「これで終わったかな」

 僕が彼女に問うと。

「さぁね」

 とだけ、彼女は答えた。

「ところでだけど、なんで君はここに居るの?」

「ただのあなたのストーカーよ」

 彼女は笑って僕に答えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る