三.YOUNOTE

 あるノートの内容。


 * * *


 遺書 高野海斗 十五

 読んでいる人こんにちは。これが読まれているということは、俺はこのビルから飛び降りたということでしょう。今から書き残したいことを色々書きます。

 まず、このビルに因縁やトラウマはありません。「なぜそんなことを書くの?」と聞く人がいるかもしれないので書きます。

 高校生が小学校に侵入して教師をナイフで刺した事件を知っていますか。俺はニュース番組で丁度その話を知りました。(生徒を庇う先生かっこいい)この事件について、心理学者の先生がインタビューで言っていました。「恐らく犯人は小学生の頃に強いトラウマが……」と。俺はちょっと疑いました。インタビューの前に「猫を殺した痕跡がある」と言っていて、犯人が「僕がやった」と答えたからです。なので大した理由無しにやってしまったのではと思いました。次の日、また取り上げられていて犯人が理由を言っていました。「殺すとは何か知りたかった」と。分かりました? 学者先生の考察、馬鹿みたいに外れてるんですよ。(人の心なんて読めたもんじゃないよ)だから勘違いでこのビルに不必要な程、取り調べしないように書きました。

 さて次は何書こうか。俺が飛び降りた理由書くか。

 端的に言おう。

 自己陶酔と自己嫌悪のループに嫌気がさした。

 例を挙げると気が滅入るから書かない!

 いや、書かないと関係ないクラスメイトを巻き込むか。

 じゃあ書きます。

 僕は学校で成績がいい方でした。嬉しかった。(いえい)でもそれは周りが低くて相対的に自分が高くなっただけで、他の学校に行ったらそこまで良くないのでは? と思うと辛くなりました。成績が出た時、思っていたより良くて驚きました。みんなの会話を聞くと「やべえ!」や「っしゃあ、一回避!」などなど。(え、俺? 合計三十五、全部三以上、五が三個)俺の成績が周りより良いのはみんなの会話で分かりました。俺は友達に自慢しようとして、やめました。元々俺は自分の能力をひけらかして愉悦に浸る人が嫌いでした。(誰が、とかはないよ)そして俺は自慢しようとしました。俺が嫌いな人に俺自身がなっている。その感覚のせいで苦しくなりました。辛くなると分かっていながら無駄に喜んで、苦しんで。苦しくも嬉しいことは嬉しくて、辛くなって。

 こんな感じでいいのかな。

 変な考え方して「つまりクラスメイトのせい」とか言わなければ大丈夫か。

 色々書こうと思ってたけど、思いつかないから好きな人の話でもするか。(喜べ諸君、恋愛だぞ!)

 名前挙げると迷惑かな。惹かれた所だけ書くか。(残念そうにするなよ諸君)

 初めて話したのは中三の梅雨頃(だったはず)です。あの日、俺はいつもより早く教室に着きました。俺一人でした。席で授業の準備をしているとあの子が来ました。(あの子とは好きな子のことです)あの子は笑顔で「おはよう」と言いました。俺は会釈で返しました。席に着いて筆箱を漁っているとあの子が寄ってきました。みんなが来るまでの間寂しいから、と。俺はその時、ただ世間話をして終わると思ってました。でも話してみたらめちゃくちゃ楽しかったんです。みんなが来てあの子が席に戻っていくと、話していた時間が濃厚ながら一瞬に感じられました。それ以来友達になって、勉強を教えあったり、共通の友達と遊びに行ったり。そうしている内に好きになりました。

 明るくて可愛くて時々かっこよくて。

 私かなと思ったそこのあなた、安心してください。化けて出たりはしません。

 まあこんなところかな。

 書くこともなくなってきました。そろそろお開きにしましょう。

 ではみなさんさようなら!


 ビルの屋上。

 少女はノートを閉じて呟く。

「馬鹿みたい」


 * * *


 部屋の中。

 青年はノートを閉じて呟く。

「馬鹿みたい」


 読み返すと自分の趣向の邪悪さに嫌気がさす。本当に歪んでいる。羞恥と共に憎悪が湧いてくる。

 最後の二行のために書いたノート「YOUNOTE」は若干色あせている。

 このノートは「死んでしまいたい」という俺と「あの子が好きだ」という俺が出会った結果出来上がった最悪の一冊だ。

 自殺したい。飛び降りるとき、あの子の手に押されたい。飛び降りるとき、あの子に馬鹿だと言ってほしい。そんな醜く歪んだ愛情から生まれたこの世の異物。

 だがもう誰の目にも触れる事はない。


 青年はノートを焼き払った。

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