第4話 噛ませ犬の最悪な朝②

鏡に映ったグレイブの姿はまるでオークの様に醜悪で人に不快な印象を与えてくる風貌をしている。


豊かな脂肪によって包まれた醜い顔は油っぽさでテかついた肌や、ボツボツと黒ずんだ毛穴により一層汚らしく彩られ、見る物に嫌悪感を抱かせてくる。


高級感漂う洋服に覆い隠された体は、その見た目の華やかさとは裏腹に不均等な曲線を描いおり、贅沢な生活や食事への執着が反映されているようだ。


三、四日洗ってないかのような不快な光沢を放っている髪なんかは、指先がちょっと触れただけで汚れた油に手を突っ込んだようなベタつきが広がってくる。


「何だよ・・・これ、、、」


俺はそんな鏡に映る現実が受け止められずに、自分の姿を何度も何度も繰り返して見つめた。

ただ何度見ても、どんな角度から見てもそこに町屋宗の姿は映りゃしない。それどころか鏡は否応なしに俺に容赦のない現実を突きつけてくる。


俺は諦めきれずまだ夢の中にいる可能性に賭け

、頬を思いっきりつねった。しかしすぐに頬には鋭い痛みが走り、これが抗うことのできない現実であることを実感させられてしまう。




俺がバイトドック・グレイブに転生してしまったという現実を。




途端に俺の頭は一瞬にして真っ白な虚空と化し、思考は完全に停止する。心は深い絶望に包まれ、闇に呑み込まれていく。無力感と絶望感が体を押し潰し、全てが終わったかのような感覚が襲ってくる。


そんな絶望の重みに膝が支えきれず、ついに俺は鏡の前で膝から力尽きてしまう。



(何でだよ・・・何でだよ・・・俺が何かわるいことしたっていうのかよ・・・)


無限の迷宮に閉じ込められたかのように、心の中で自問自答を繰り返す。ただ何度理由を考えた所で正しい答えなんてのは出てきやしない。


ただそんな行き詰まった思考は俺の心に絶望感以外の感情を生み出した。それは初めは弱々しい炎だったが徐々に燃え盛り、俺の心を包み込んだ。「怒り」と言う名の感情が。


「何でだよ、何でよりにもよってグレイブなんだよ。何の嫌がらせだ!俺が飲み会で席で、インキャのボッチが異世界に転生した所でハーレムなんて作れるわけがないだろって馬鹿にしたのがそんなに気に入らなかったのか?チョコレート作るためのカカオに似た果物があるなんて、ご都合主義すぎるだろって馬鹿にしたのがそんなに気に入らなかったのか?ふざけんな!割とその展開はそっちにも非があるだろ!おい聞いてんのか異世界転生の神様!」


俺は存在するかどうかも定かでない異世界転生の神様にその感情を思いっきりぶつけた。そんな神様なんて存在するはずがないし、そもそもこんな事もやっても無意味な事なんかはわかりきっている。だだそれでもこの絶望を、この怒りを吐き出さずにはいられなかった。


俺の一番好きなゲーム「けんま」で、最も嫌いだったキャラクターであるグレイブに転生させられた絶望と怒りを。


「何で勇者じゃないんんだよぉぉぉーーーーーーー」


俺の絶叫は何処かへと消えていった。

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