猫の足音  第1回カクヨム短歌・俳句コンテスト短歌の部二十首連作部門参加作品

佐々木健一

猫の足音

飲みかけの珈琲ながめ映画ならウエイトレスがカップを洗う


爽快な鼾をかいた男いてあずけた猫が気になっている


少年の飼いしカナリアこまやかな声とわたしの声を重ねて


恋愛の秘密がなにか落ちているはずの映画を猫とながめて


男には煙草の匂い染みていて猫の嗅ぎたるベッドのシーツ


恋歌の忘れられたる砂浜に流木さやか骨となりゆく


鐘響く異国の街に生まれたる男のことば鳥の囀り


男との長電話終え猫を撫で深夜の部屋に喉鳴らす猫


去勢した牝猫の目に見下ろされ戯れている男のからだ


檻の中ポペラニアンが尾を振って見知らぬ人に甘えた顔で


男には猫を愛する妻があり雪女めくわたしの素足


海ばかり見ていたぼうや海岸の街に少女のわたしはいない


小雨降る夜に男の部屋を出て聖域となる猫の待つ部屋


珈琲と煙草と猫と戯れを愛する男わたしの子供


男の手ふれた乳房はどれほどか汗ばんでいる戯れながら


祝福の孕みなくした牝猫とキリストの裔とろとろねむれ


香水をつけて男とオベラ座のロビーに立てば毛皮の女


摩天楼大きな恋の墓碑として空港去れば砂のひと粒


人形のわたしのそばに恋知らぬ猫のぬくもりある星月夜


讃美歌のひかり降りたる世界には絵本の中に猫の足音

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