小暮コーポレーション①

「小暮君に協力してほしい」

 今俺にメールを通じて連絡をとって来たのは、スポーツマンシップ溢れる、いや、スポーツウーマンシップ溢れる、水も滴る良い女、天野あまのかわずである。

 男女ともに人気の高い、が代名詞とも言える。友人同士で話す際には、


「男女ともに人気の高い、全国行ったらしいよ」

「まじか、さすが男女ともに人気の高いさんだなあ」 

「ああ、努力の男女ともに人気の高い、って感じだな」

 

 という様だ。嘘だ。ただ、彼女の金銭の無駄遣いを抑える性格は、俺も尊敬を抱いている。偉大だ。

「協力?」

「ああ。君しか頼れる人がいないんだ」

 と、頼み込みのテンプレートを言われたが、俺は疑問に思った。

「別に俺じゃなくとも良い気がするんだけど」

 蛙は俺の能力を知らないはずだ。そんなプレーン人間に、用があるとも思えない。

「いいや、君しかいない」

 そんな断言をよそに、俺はある事実に行き当たる。彼女はよく海斗と言う男子生徒とよく同行している。

 そして、海斗は遅刻だ。

 うん、これ以上は考えないようにしよう。蛙は俺を一番に頼ったんだ。

「協力、て言ってもどうするの?」

 この研修旅行に乗じて、何かサプライズでもするのだろうか。

「三日目、姫路城に行くだろう?」

「まあ、そうだな」

「その姫路城を、壊そうとしている輩がいるっぽいんだ」

 僕はそれを止めたい。蛙は真剣な眼差しでそう送ってきた。姫路城といえば、世界遺産に登録されている、あの城だ。俺もこの旅行の中で、かなり楽しみにしている。

 が、だ。それを壊そうとは。成人式で暴れる若者でもそんなことはしないし、そもそもできるのだろうか。

「というか、誰が、どうやってやるんだ?」

 聞くと、蛙は即席で考えているのか、それとも思い出しているのか、或いは出し渋っているのか。とにかく考えるような間を開けた。

「唯我君、朝から様子がおかしいだろう?」

 確かに、彼の様子は先程から気にかけていた点でもある。

「僕、聞いたんだ。彼が『どこだ』と慌てる声を」

 何かを探している、ということか。

「さらに、だよ。小暮君」

 この調子で言われると、自分がどこかの警部かのように錯覚してしまう。

「彼にも、焦る前の状態があったんだ」

 それは、そうだけれど。

「新幹線に乗る前。と、いうか集合時間前のまだあまり人が集まっていない時だね」

「唯我、六時に来たとか」

 七時集合なのに。

「そう、僕は彼に次いで二番目に早く行ったのだけれど、そこで見たんだ。彼がぼうっとして、何かを呟きながら小さな袋を誰かにあげていたのを」

 そして、その誰かは消えてしまった。と、言うことらしい。

 これは、俺には心当たりがない。が、こんな現象が起こるのは少なくなかった。未来の俺と、現在が繋がったのだろう。

 が、蛙には俺の能力が伝わるわけにはいかない。ここは黙っておこう。

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