第51話 闘技場について

――翌朝


 早朝に叩き起こされ、全員で列を作って待機させられた。

 徐々に前に進んでいくと看守が立っており、木のトレイを手渡された。


 そして次の看守が丸いボール状の食べ物と色の無いスープを置いた。

 それを持ってテーブルに隙間なく順番に座っていく。


 まるで刑務所の様だな……。


 座った者から食事を開始して良いようなので、俺も美味そうには見えない食事に手を付けた。


 ボール状の食べ物は、小麦粉を練って丸めただけの状態の食感に近い。

 粘土をかじっているようだ、とまでは行かないが殆ど味が無かった。

 そしてスープは薄めた海水のような味だった。


 周囲を見ると、皆ボール状の食べ物をちぎってスープに浸して食べている。

 俺も同じようにしてみると、塩分を含んだこれは少しましな食べ物になった。


 デットマンティスの方がある意味しっかり味があったな……。


 また、それなりに量が多い為、満腹まで食べる羽目になった。

 

 あとでこっそりキーキューブに入っている食料を食べるとしよう。


「食事の時間終了! これより訓練を行う」


 食事のトレイを片付けた後、看守がそう叫んだ。

 どうやら食休みなんてものは無いらしい。


 順番に宿舎から出て、看守先導の元、闘技場へと習合した。


 普段はここで試合を行うようだが、試合以外の日は訓練に使われるみたいだ。


「まずは腕立て、腹筋、背筋の筋トレを100回づつ! 合計3セット行う!」


 看守の大声で全員筋トレの体勢になった。

 俺はそれを聞いて、「ふふ、どこかで聞いたメニューだな」と道場の事を思い出していた。


 皆のペースに合わせ、ゆっくりと筋トレをしつつ、どこか脱出できそうな場所など無いか? と建物の構造を入念に確認した。

 リターンを使えばここから抜け出すのは容易だが、その後ここへまた来る術がない。


 だからこっそり抜け出すしかないのだ。

 だが、ここからみえるのは周囲の15mの壁とその上にある観客席、雲一つない空だけだ。


 空を見てある異変に気がついた。

 ここ、上層から見える空は、綺麗な青空でどこまでも上に伸びているのだ。

 時計もついておらず、俺がかつて空と呼んでいた青空そのものだった。


「綺麗だ……」


 俺はそう呟き思わずぼーっと空を眺めていた。

 それを見た看守が、


「貴様何をしている!! 罰としてお前はもう1セット追加だ!」


 と俺に言った。


「あ、すいません!」


 波風を立てない様に謝り、俺だけもう1セット追加で筋トレを行った。


 その後は昼食を挟み、その後も同じようなメニューをこなし夕方頃には終了した。

 昼食も朝食と同じボール状の食べ物だった。


「本日はこれで終了だ。明日は新人戦だ! しっかりと戦い抜くように」 


 そうして宿舎の方へ戻ると、宿舎入り口で木のトレイを渡されそのまま順番に夕食をそこに入れられる。

 そのまま座って夕食になるようだ。


 夕食のメニューは案の定ボール状の食べ物とスープ……俺は早くも嫌気がさしている。


 席に着くとイガレットが正面に座ってきた。


「はーしんどいぜ。ロフル、罰メニューもやったってのに全然疲れてないな?」


 肩を回しながらそういうイガレットに俺は


「まぁここへ来る前から筋トレはしてたからな」


 と答えた。


「さて、夕食中にここのシステムを簡単に教えてやるよ。明日新人戦もあるしな」


「ありがとう。そういえば昨日の男、見かけないな」


 俺は周囲を見渡し、スキンヘッドの男が居ない事が気になった。


「あいつは1位だからな。別室で上手い飯でも食ってんだろうな」


 イガレットはため息をつきながら言った。


「なるほど。1位なら特別優遇とかもあるんだな」

「そうだ。まぁ俺にとっちゃ夢のまた夢だ」


 そんな会話をしつつ、ここのシステムについて簡単に教わった。


 闘技場での試合は3日に1度あり、他の日は基本訓練を行うらしい。

 そして、30日に1度、1対1の真剣での試合があり、その試合では死者が多く出ると言う。


 どの試合でも勝てばポイントが付与され、ランキング上位にあがっていく。


「1位と言わずとも10位以内ならいい待遇になるぜ? 一度でいいからなってみたいもんだ」


 そういうイガレットに俺は知りたいことを質問した。


「……ここから出られる方法とかあるのか?」


 イガレットはキョトンとした表情で、


「ここから出る?! 出てどうするんだ?」


 と逆に質問をしてきた。

 それに対しいいから教えてくれと言うと、イガレットは少し考えた後、


「神徒に気に入られて守護兵になるか、逃げだすくらいしかないんじゃねーか?」


 と少し笑いながら言った。


「そうか、ありがとうイガレット」

「おう、また何でも聞いてくれ。明日の新人戦で大けがしないようにな!」


 俺はそういうイガレットに善処するよと答えその場を立ち去った。

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