第50話 宿舎

 案内されてきた場所は体育館のような外見だが、よく見るとかなりボロボロだ。どうやらここが宿舎らしい。

 出入りする場所には扉は無く、汚い布で出来たのれんで仕切られているだけだった。

 入口に近づくと、入る前から汗のような酸っぱい臭いが鼻にツンとつく。


 ゼフィラと共にそののれんをくぐると、思っていたより広いスペースが広がっており、

 木で出来た長テーブルと椅子が乱雑に設置されていた。

 なんというか食堂のような雰囲気だ。


 そこには大勢の紫髪の人々が居て、各々が自由にしているようだ。


「ここは大広間で食事をするところ。右側の通路先が男性部屋、左が女性部屋ですわ」

「ちゃんと男女で分かれているんだな」


 そんな会話をしていると、前方から大柄でスキンヘッドの男がこちらへやってきた。

 そしてゼフィラに近づき、


「ようゼフィラ。もうすぐ誕生日だなぁ? お前を抱くのが待ち遠しいぜ」


 と全身を舐める様にじろじろ見た。


 ゼフィラの表情は恐怖で強張り、


「ゼフィラはまだどちらか決めてませんわ……」


 と小声で言った。

 すると男は大声で


「あぁ? お前が戦えるわけねーだろうが! それとも俺に痛めつけられたいのか?」 


 と言いながらゼフィラに手を伸ばした。


――バシッ!


 俺は男の手を払い、


「嫌がっているのが分からないのか?」


 と男を睨め付けながら言った。

 そして、怯えたゼフィラに早く部屋に戻りなと、先に女性部屋に逃がした。


「ああ!? お前誰だよ! 昨日の新人の一人か?」

「……そうだ」

「新人が舐めやがって……!」


 そういって俺の胸ぐらをつかんできたが、

 傍に居たもう一人の男が、看守が見ているから止めておけと制止した。


「ちっ! お前、今度の新人戦で覚悟しておけ。くくく」


 そういって大男は部屋に戻っていった。

 そして、制止したくれた男性が俺に、


「あいつに目を付けられたら大変だぞ。関わるのはやめておけ」


 と忠告するように言ってきた。


「なぜだ?」


 俺がそう質問すると、彼はその男について説明してくれた。


 どうやらさっきの男は闘技場の戦績1位でかなり強く、

 気に入らない奴と試合が組まれたら死ぬ寸前まで痛めつけるような奴らしい。

 この前はそれで一人死んだそうだ。


「なるほど、第一印象と同じクソ野郎って事だな」

「おいおい、人が大勢の場所でそんな事を口走らないでくれ。とにかくもう消灯時間だ。お前の部屋はどこだ?」


 そう質問されたが、実際には今日来たところで部屋など分からない……。


「いや……部屋はまだ……」

「ん? 昨日来たんじゃないのか? もしかして空いてるベッドが分からなかったのか?」

「ああ、恥ずかしながら……」

「そういうことなら俺の居る部屋に空きベッドがある。今後はそこを使うと良い」


 そういって男に連れられ、部屋へと向かった。

 長い通路には一定の間隔で出入り口があり、当然の様に扉は無い。

 ちらっと見る限り、どの部屋も同じ広さで何段にもなったベッドが設置されている。


「この部屋だ」


 案内された部屋には他の部屋同様、10段程のベッドが両脇に設置されており、通路は人がぎりぎり二人が通れない程のスペースだ。

 その場所で男は


「自己紹介が遅れたな。俺はイガレットだ」


 と言い手を差し出した。


「俺はロフルだ」


 俺もそれに答えるように名乗り、手を出し握手をした。

 そして、この日はそのまま案内された10段ベッドの一番下で眠りについた。

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