第二章 排除装置の破壊と闘気の存在

第19話 異常事態

――


経験値確認……

種族 一般

レベル8.1相当の経験値を習得しています。

この祭壇ではレベル6までしか上昇しません。

レベル7以降は極光神輪の祭壇での習得が必要です。


――


「経験値だけはレベル8相当になったか……」


 今日は洗礼の試練の日だ。

 石板を確認した後、俺はいつもの場所へと移動した。


「今回はマグ・アミナチームと合わせて200人は助けたいな」


 ハナがサンクと帰還してから早3年の月日が経っていた。

 年齢は16歳になっており、体力や魔力は順調に成長している……気がする。


 サンク帰還の翌年から、マグ、アミナ、フーチェが一緒に子供たちを救ってくれるようになった。

 マグとアミナ、そして俺とフーチェに分かれて二つのエリアに分かれて救助をしている。


 1年目はマグのエリアで40人、俺とフーチェで50人。

 2年目には皆で合わせて150人もの命を救った。

 貴族も数名遭遇したが、それも分け隔てなく救った。


 そして今回3年目の洗礼の試練……。

 同じように多くの子達を助ける。


 そう思っていたが……。


――ゴォーン……ゴォーン


 鐘がいつも通り鳴り始める。

 鳴り終わりを待ちながらサーチの準備を行なった。


「一輪、サーチ」


 鐘が鳴り終わり、いつものタイミングでサーチを行なった。

 しかし……


「あ……れ……?」


 タイミングはいつもと同じ……そのはずなのにサーチ上には人を示す丸い点がまったく表示されていなかった。


「くそ、少し早かったか」


 インターバルを待ち、すぐに再度サーチを行なう。

 しかし、結果は同じ……点は増えていなかった。


「どういうことだ……?」


 そう思った瞬間、


――カーン……カァーン……


 いつもより高い音、大きな音で鐘が鳴り始めた。

 そして、その鐘の音は静かに消え……


――Adjustment system activation 

――Decrease population.

――Appears at coordinate 0.0


 とアナウンスが流れた。


「は……?」


 調整システム起動……人口を減らす、座標0.0に出現……?

 英語で言うなややこしい! と思いつつも唐突なアナウンスにただそれを理解しようとするのに精一杯だった。


――ゴゴゴゴ……


 アナウンスが終わった後、激しく地面が揺れ始めた。


「地震……?!」


 この世界で地震なんて初めてだ……!

 エンハンスで踏ん張らなければ立ってられないほどの強い揺れだった。


「ロフルさん!!」


 フーチェはよろめきながら俺の方へと向かってきた。


「これ、何ですか? こんな地面の揺れ……初めてです」


 フーチェは少し怖がっている様子だった。

 俺はフーチェの震える手を軽く握った。

 とにかく、今までにない異常事態という事には間違いないようだ。


「とにかく……この揺れが収まったら状況を調べよう」


 フーチェはそういう俺に対してうんと頷いた。


・・・

・・・

・・


――同刻 下層(第三層) ロフルの居た村[サンヘイズ村] ハナ 14歳


 ロフルの居た村[サンヘイズ村]は、人口増加により労働力の確保に成功、村の拡張と農業により豊かな村へと近づきつつあった。

 そして今日は洗礼の試練当日……村の子達はいつもの場所へ集まっていた。


「さて、最後に守衛隊長であるハナさんからの言葉です」


 そう司祭に紹介され前に出たのは、ロフルの妹であるハナだった。

 年齢相応に成長しており、体つきは比較的がっしりとしている。

 毎日の筋トレのお陰だろう。


「私が皆に言うのはこの一点だ。飛ばされたらすぐに安全な場所を探し隠れる事! 魔物に見つからない様に息を潜めろ。必ず私の兄、ロフルが君達を救ってくれる」


 その力強い言葉に子供達はおーっと呼応した。

 ロフルが試練をした時と比べ、みんなの顔には希望が溢れている。


「さぁいよいよ時間となります。皆、間隔を空けてください」


 司祭がそう言うと子供たちは少しづつ離れた。


 そして、12の刻となりいつも通り転送が始まる……皆がそう思っていた。

 しかし……12の刻になってもいつまでも転送が始まらない。


「こ……これは一体どういう事じゃ……」

「分かりません……初めての出来事です……」


 司祭と村長は不安な表情を浮かべている。


 子供たちは皆12の刻を指す空を見上げる。


「ねぇ……俺たちは行かなくていいのかな?」


 じっとしていた子供たちも徐々にざわつき始めたその時、


――ゴゴゴゴ……


 と地面が激しく揺れ始めた。


「なんじゃ! 地面が揺れている……!?」


 村長は揺れで体勢を崩しこけそうになったが、

 ハナが素早くそれを支えながら声を上げた。


「皆! 体勢を低くするんだ!!」


 ハナのその声で、全員はその場でしゃがみこんだ。

 そして、地面が揺れると同時に、何かが擦れ、割れるような音がしており、

 ハナはその方向を凝視した。


「何だあれは……!?」


 遠くで嵐のように砂と草木が巻き上がっている光景が広がっていた。

 それは揺れと共にしばらく続き、その後何もないように収束した。


 依然として、子供たちは転送されていないままであった。


「一体……何が起こっている……?」


 ハナはそう呟きサーチを唱えた。


(ここからでは何も変化がない……かなり遠い場所みたいだ)


 ハナは村長に

「村長、私は砂嵐の巻き上がった怪しい場所を調べてみる」

 と言った。


「わかった……気を付けていくんじゃよ」


 村長は心配そうに言い、ハナを見送った。


・・・

・・


 ハナは荷物は最低限の食料と道具を入れた鞄を背負い、村を出た。

 そして、エンハンスを唱え、そのまま走り始めた。


 村を出ると少しだけ森に入り、その後広い平原に出る。


「最速で走らないと……」


 軽く屈伸をした後、ハナはさらに速度を上げて走り始めた。


 平原を8km程進むと、また森に入る。

 そしてその森を1時間程……合計で30km程進んだ所で異常な光景を目にする。


「何だ……これは……?」


 森がまるで綺麗に切り抜かれたように無くなっており、底が見えない真っ暗な崖になっていた。


「ここへは何度か来た頃がある……この先も森が広がっていたはず……」


 ハナは恐る恐る崖下を覗き込んだ。


「吸い込まれてしまうそうな闇だ……」


 崖は垂直に真っすぐきれいに伸びている。

 一体どこまで続いているのか……エンハンスを纏っている場合、高所から落ちても滅多なことがない限り怪我はしない。


「突起物などもなく、ただ完全に垂直な崖……降りてみるべきか……」


 しばらく考え込んだ末、飛び込む決意をし準備運動を始めた。


 そして、飛び込もうと改めて崖の前に立ったその時だった。


――チチチ……


「な……この鳴き声……」


 忘れもしない鳴き声……それが崖下から沢山聞こえてくる。

 ハナはそのまま崖下を凝視し続けた。


「そんな……魔物が這い上がってきているッ!」


 なんど、垂直な崖をつたうように、デッドマンティスやレッドアント、スライムボールなどの最下層で見た様な魔物が一斉に穴から湧き出てきたのだ。


「処理しなければ」


 ハナは剣を構え湧き出てくる魔物に応戦した。

 しかし、果てしなく大きな崖……処理できるのはほんの一角だけである。


「これではキリがない……! 一度村に戻るしかない」


 ハナを無視して森を前進していく魔物は大勢いる。

 一刻も早く村に伝えなければならない。


 そう思い剣を納めすぐにリターンを唱えた。


・・・


「村長。信じがたい事だが魔物が湧き出てきている」


 村長は信じられないという様子だったが、倒した魔物の一部を見せ、急を要する事を簡潔に伝えた。


「わかった。周辺の村にも危機を知らせるんじゃ」


 村長がそう言うと、ハナは何人かの守衛兵に声をかけ、伝令を放った。

 そして、残りの守衛兵を呼び、


「もうじきここへも来るだろう。迎え撃つしかない!」


 と大声で伝えた。

 その声を聞き守衛を含む村全員で魔物を迎え撃つ準備を始めたのだった。


・・・

・・・

・・


――時少し遡り……

――洗礼の試練開始直前 上層(第1層) 極光神輪の神殿


 まるでパルテノン神殿のような構造で真っ白な建物が湖に囲まれるように建っていた。

 その内部、中央に位置する場所で二人の男が居た。


「ヴァルカン……僕たちはこの石板をただ眺めるしか出来ないのか?」


 赤いロングヘアーの青年が、短髪の赤髪の中年男性に質問した。


「セレナス……分かっているだろう。我々はただ見届けるしかないのだ。今までに無い惨状が記されていたとしても……」


 ヴァルカンと呼ばれた中年姿の男性は質問した青年セレナスに回答した。

 二人の見つめる先には、神輪の祭壇にある石板と同じような物、そして穴の開いた台座があった。

 そして、石板にはこう記されていた。


――


 人口増加により、下層の人口調整システムが作動。

 洗礼の儀式開始時間に下層の座標0.0番の床が開放され、排除装置が出現します。

 調整終了まで、通常の転送は発生しません。


――


「確かに2年で下層の人口は200人以上増加した。だが、それだけでこんな事になるのか……?」


 セレナスは自然と拳に力が入っていた。

 それを見たヴァルカンは、セレナスの肩をポンと叩き話す。


「毎年、全ての村を合わせて多い時で帰還者は5名程だった。それが一気に20倍以上に膨らんでいる。この石板からしたら異常事態なのさ」


 ヴァルカンは石板を拭きながら話し続ける。


「それに、人口があまり増えないから下層は秩序を保っていた。下層は中層や上層の様に統治する者……王の様な支配者がいない。どちらにしてもこのままでは荒れていたさ。人を殺すのが魔物か人か……違いはそこだけだ」


「くっ……!」


 セレナスは悔しそうに固く唇を噛みしめた。


「まぁ気にするな。石板の内容を記し見届ける……それが我々フロストハート一族の役目だ」


 ヴァルカンはそう言って、着座し石板に書かれた内容を書物に書き始めた。


「僕は納得いかない。折角生き残れる人が増えた。なのにこの仕打ちはなんだ!」


 そういってセレナスは神殿を飛び出した。


「あ、おいどこに行く!」


 ヴァルカンは引き留めようとするが、


「まぁ放っておきなさい。すぐに戻ってくるじゃろうて」


 と入り口から現れた老人がヴァルカンを引き留めた。


「エンドーン様! しかし……!」


 そういうヴァルカンに老人エンドーンは笑いかけるだけだった。


 神徒セレナス・B・フロストハート

 フロストハート一族は代々、極光神輪の神殿にある石板の内容を記すという役割を与えられていた。


 世代ごとに一番早くに五輪まで習得した者が主となりこの役割を従事する。

 セレナスは現在18歳であり、一族の中で最年少で五輪に到達していた。


 御多分に洩れずユニークリングを穢れた者としてみているが、

 下層に住む住人自体には気を掛けていた。

 毎年、生存者が1名前後……それを初めて知った時は悔しい気持ちでいっぱいになった。


「王が居なくて争いが起こると言うのなら……下層の王に僕がなればいい」


 最下層と下層が繋がった今、転送魔法陣で最下層に飛べさえすれば下層に行ける。

 だが、転送魔法陣は10歳の時にしか発動しない。


「どうにかして発動させる方法があるはずだ」


 そういってセレナスは転送魔法陣の方へと向かった


・・・

・・


――そして現在……

――最下層(第四層) 開眼の祭壇 ロフル


 俺たちはこの異常事態について……状況の推察をすべくフーチェ達と話し合っていた。

 そして、想像したくないが……ある推測にたどり着いていた。


・・・


 第二章開始 排除装置の破壊と闘気の存在

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