閑話1 フーチェ達とハナ

――ハナ達が帰還してから数日後、最下層(第四層) フーチェ達


 フーチェは一人、開眼の祭壇前でそわそわとしていた。


「どうしたの? フーチェ」


 マグはその様子が気になって質問をした。


「え? いや、ロフルさんはまた一人になってしまったけど大丈夫かな……って思いまして」


 その答えにマグはため息をつきながら、

「またそれか。気になるなら行けば良い。マグとアミナは大丈夫」


 フーチェはそれに対して、迷惑かもしれないし……と煮え切らない言葉を並べた。


「じゃぁ次の洗礼の試練、手伝うというのはどう?」


 マグはフーチェに新たな提案を投げかけた。


「それはいい考えです。いや、ロフルさんが気になるとかではなくてですね?」


 フーチェは念を押すように言った。


「はいはい」


 マグはめんどくさそうに返事をした。


「私……前の時3人の子を救ったんです」


 そして、その時に助けた子供たちに本気で感謝された事に、フーチェは喜びを感じていた。

 純粋に感謝される事が、ここまで清々しい気持ちになるとは思いもしなかった。


「その時思いました。また助けられる命があるのなら助けたいと!」


 フーチェは力強く言い放った。


「じゃぁ来年はロフルの所で救出してくるといい。マグはこの場所でアミナと救出を試みよう」


 普段面倒くさがりのマグも、フーチェを見て子供たちを助けようという気になったようだ。


「本当ですか? 2か所で救助活動出来ればかなりの人数を救う事が出来ますね!」


 フーチェは手を合わせ喜びながら言った。


「この場所と言ったけど、別の区画で探すものいいかもしれない……とにかく、アミナ!」


 マグがそういうと、アミナが小屋から顔を出し、


「お姉ちゃん呼んだ―?」


 と叫んだ。


 マグはそれに対して、


「アミナ、今からまたしっかりと特訓するぞ。次の洗礼の試練子供たちを助ける」


 と答えた。


「わかった!」


 アミナは元気よく返事をした。


・・・


 そして3人は祭壇から少し離れた場所へと集まって来た。


「アミナはブラストを撃つよりバインドを撃つ方がいい」


 マグがそう言うのにはしっかりと理由があった。


 アミナもユニークリングを持つ者……名称は放電

 アミナの魔法には電気の特性が付与されるのだ。

 エンハンスもバチバチと音を立てており、放たれるバインドは雷を纏っている。

 出現する鎖にも帯電しているため、巻き付かれた魔物は大概そのまま感電させ倒すことが出来る。


 また、アミナの放電も鉄の魔物には非常に強い。

 デッドマンティスマシンの場合、エンハンスを纏ったアミナに触れると、そのままショートして破壊されてしまうのだ。


 マグとアミナは血のつながった姉妹という事もあり、似たような特性に目覚めたのだろう。


 3人はブラストやバインドの訓練をひとしきり行い、祭壇へと戻っていった。



・・・

・・




――下層(第三層)ロフルの居た村[サンヘイズ村] ハナ 帰還から半年後


 今日は珍しく雨の降る日だった。

 時刻は朝の6時、ロフルの家の裏手にある木々に囲まれた少し開けた場所、

 そこでハナが剣を振っていた。


「ご……せんっ!」


 ハナは剣を振り終わり、そのままスクワットを始めようとしていた。


「こんな雨の日だってのに精が出るな」


 すると、家の方面から籠を持ったハナとロフルの父、カルサコがやってきた。


「お父さん!」


 ハナはスクワットを中断し、カルサコの居る雨宿りが出来る木の下へとやってきた。

 この木には簡単な屋根を取り付け、椅子を設置している。


「天気関係なく毎日……疲れないか?」


 カルサコは籠からパンを出し心配そうに言う。


「大丈夫。最下層にいる時、毎日お兄ちゃんとやってて、身体に染みついちゃってる。やらない方が気持ち悪いの」


 ハナはパンを受けとりつつ話続け、その後パンをかじった。


「こんなふっくらなパンが食べられるようになるなんて……人口が増えて良い事ばかりだね」


 ハナはしみじみとしながら言った。


「いい事ばかりだな。このままずっとそうだといいんだが」


 カルサコのその言葉に、ハナはどういう事? と聞き返した。

 すると、家の方向から一人の男性が急いで走ってきた。


「隊長! 大変です。無法者共が大勢でやってきました……多分全員です!!」

「ち……言ってる傍から……!」


 カルサコはその言葉を聞き、すぐに走って村の方へと戻った。


「お父さん!」


 ハナはカルサコと共に村へと走った。


・・・

・・


「なぁいいだろ? 何人か回してくれよこちとら何年も帰還者0人なんだよ」


 ガラの悪い大男は村長に剣を突き付けながら言った。

 その後ろには30人ほどのガラの悪い男たちが武器を携えて待機している。


「それはダメじゃ……食料はやる! だが子供達はどうか……!」


 村長が大男に懇願している。

 そのタイミングでハナと守衛隊長であるカルサコが村へ到着した。


「カルサコ……!」


 村長はカルサコの元へ駆け寄った。


「村長の言った通りお前たちに渡せる子供たちなどいない。食料なら分けてやる。それでだめだと言うなら……」


 カルサコは剣を構えた。


「不本意だがお互い無事に済まない事態となるぞ……?」


 カルサコがそう言うと、大男は鼻で笑い、


「ふん、まぁ今日はそれで勘弁してやる! ありったけ持ってこい!」


 と言った。

 そして、カルサコも肩をなでおろした様子だったが、それを見たハナが


「なんでこんな奴らに食料を渡さないとダメなの? 渡す必要なんかないよ!」


 と大声で言った。


 すると、大男はハナの近くまで行き、睨みつけ、


「ああ? 何だお前!! ぶっ殺すぞ? それともお前がついてくるかぁ?」


 と大声で言った。


「やれるものならやってみろ! それと息が臭いから近づかないで」


 すると憤慨した大男は、持っていた剣をハナの頭頂部に向かって真っすぐに振り下ろした。

 その瞬間、ハナは魔法輪を起動し、


「三輪、エンハンス」


 と唱えた。

 そして、振り下ろされた剣はハナの頭に当たるとバリンと音を立てて砕けた。


「は……? え?」


 うろたえる大男にハナは腹部に掌底打ちした。


――パンッ!!


 大きな音が響き渡った。

 それと同時に大男は大量の血を全身から噴き出しながら吹き飛び、後ろで待機していた無法者にをボーリングのピンの様に吹き飛ばした。


(強くやりすぎちゃった……)


「ひぃ……」


 恐怖する無法者に対し、ハナは


「二度と来るな! 次来たらこれでは済まないから」


 と言った。

 その言葉で無法者たちは一斉に逃げ出していった。

 大男は仲間に引きずられていく……ハナは気が付かなかったが、既に事切れていた。

 その様子を、村の人達はただ黙ってみていた。


 そして……


「凄い! ハナ! 君は村を救ったんだよ!」


 司祭が喜び、それと同時に歓声が沸いた。


「あはは……大口叩いちゃったよ……」


 胴上げされるハナを見て、カルサコは

「ハナ……その力は一体……」

 と、あまりに圧倒的な力に疑問と少しの恐怖を頂いていた。


・・・

・・

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