第15話 帰還の日

――2週間後


 祭壇への帰り道、途中から子供たちのにぎやかな声が聞こえ始める。

 このにぎやかな雰囲気が何だが楽しい気分にさせてくれる。


「スライムボールとってきたよー」


 俺はそう言ってキューブに入れたスライムボールを取り出し広げた。


「あ、お帰りお兄ちゃん!」


 その様子をみて子供たち皆が群がってくる。

 子供達は本当に逞しい。

 2週間経った今ではすっかりこの環境に慣れて生活している。

 祭壇の周りで追いかけっこをしたり、かくれんぼをしたりして遊んでいる。

 遠くには行かない様にきつく言っている為、それはきっちりと皆守っている。

 

「ねぇ見て! 一輪を覚えたよ!!」

「おお、フィリアンド! 凄いな。一番乗りだ」


 そういって俺はフィリアンドの頭を撫でた。

 フィリアンドはハナの次にしっかりしている少年、この少年が一番最初に一輪を習得した。


「むう、ハナが一番だと思ったのに……」


 ハナは少し不貞腐れた表情をしている。


「あはは。大丈夫すぐに習得できるさ」


 その日を境に、皆次々と一輪を習得していった。


・・・


 そして……1ヵ月後には全員が二輪になっていた。


「さて、皆! 集まってくれ!」


 全員が二輪になった翌日の朝、俺は8人を集合させた。


「約1ヵ月……本当に皆頑張ったな! 昨日全員無事に二輪になれた!」


 そして皆でそれを称えあった。


「その魔法を使えば、すぐにでも村に帰る事が出来る。すぐに帰るか?」

 と聞くと、皆は帰る! と即答した。妹を除いて……。


「あれ、ハナ?」


 俺がそう言うと、ハナは少し考えさせてと言った。


「……じゃぁとりあえず、荷物をまとめて帰る準備をしよう」


 その声を聞いた7人は早速荷造りを始めた。


 そして、その間に俺は一人悩んでいるハナの元へと移動した。


「ハナ、どうしたんだ?」


 そう聞くと、ハナ少し大きめの声で


「ハナも残る。一緒に弟を助ける!」


 と言った。


「いや、ここは本当に危ない……俺が必ず助けるから帰るんだ」


 と諭すも、ハナの意思は固いようで聞き入れたくれなかった。


「ここで生き残るには絶対に三輪になる必要がある。魔物を狩らないと三輪にはなれない。ハナ、魔物と戦えるか?」


 俺は最後にこう質問した。だが、ハナは間髪入れずに、


「出来る! だからお願い!」


 と言い放った。


「……わかった」

 

 俺はハナの意思を尊重する事にした。

 どちらにしても絶対に俺が死なせやしない。


「フィリアンド、ちょっといいか」


 大半の子が荷物をまとめ終わっている中、フィリアンドを呼び出した。


「どうしたの?」


 そういうフィリアンドに俺は言伝を頼んだ。

 もちろん俺の両親への言伝だ。


 内容は、

 ロフルとハナは生きている。

 来年サンクを助けたら戻る。

 サンクに大き目の服と煎餅を持てるだけ持たせて!

 というものだ。

 

「まかせて!」


 フィリアンドは自信満々にそう言った。

 多分しっかりと伝えてくれるだろう。


・・・


「さぁ皆、準備できたかな?」


 俺の問いに皆は元気よく、はーいと答えた。


「よし、じゃぁ心が決まったら二輪の魔法を唱えるんだ。元気でな!」


 そう言うと、各々に二輪を唱え、帰還し始めた。

 俺との別れに涙をする子や最後に抱きついてきたりする子がいて、

 少し寂しい気持ちにもなった。


 卒業生を見送る先生の気持ちってこんななのかな……

 そんな事を思っている内に、ハナ以外は全員、帰還完了した。


「あっという間に二人になっちゃったね」


 ハナのその問いに、


「そうだな。本当なら一人になるはずだったんだけどな」


 と俺は答えた。


「4人も帰ってきて、村の人びっくりするだろうね」

「ああ、そうだな」


・・・

・・


――ロフルの居た村


 泉の近くで司祭と村長が話をしている。


「もう一か月を過ぎた……今年は誰かが帰ってくるかのう……」


 村長は子供達が転送された場所を眺めながら言った。


「かれこれ5年以上誰も帰ってきていない……信じて待つしかありませんな……」


 司祭は祈るようなポーズで同じく転送された場所を眺めている。


――シュゥゥゥ!


 すると、転送の場所が光始め、4人の子供達がその場に現れた。


「ただいま! あ、村長と司祭様だ!」


「ひゃぁぁあ!」


 子供たちのその声に村長は腰を抜かしていた。

 司祭も同じくらい驚いており、


「信じられません! これも神の祝福によるものでしょうか! さぁ4人とも! 帰還の儀式を行いますよ!」


 と興奮気味に言っていた。


「いやはや、わしが生きている間にこんな事が起こるとは……」


 村長はゆっくりと立ち上がりながら言った。


「久しぶりの帰還者……それも4人も! 村の未来にも光が差しましたね。さぁ村長も帰還の儀式へ立ち会ってください」


「ふぉっふぉ。久しぶりで何をするか忘れてしもうたな」


 そんな会話をしながら子供達と村長、司祭は教会へと赴いた。


・・・


――儀式終了後


 ロフルの家にノックの音が響いた。


 その音に母は扉に飛び出し、


「ハナなのかい?!」


 と声を上げた。


「すいません、向かいの家のフィリアンドです」


 そういうと母は少し落胆した様子を見せたが、


「今年の帰還者ね! 良く生きて帰ったわね! 村の未来も明るくなるわね」


 と喜びの表情を見せた。

 子供が帰ってくるという事は、村の皆にとって本当の喜ばしい事である。


「両親の所へ入ったのかい? 早く行ってあげなさい」


 母がそう言うと、フィリアンドは伝言があります。

 と言い、ロフルから聞いていた内容をそのまま伝えた。


「ああ……なんて素晴らしい伝言なの……ロフルとハナが生きているなんて……! フィリアンド、伝えてくれて本当にありがとう」


 母はそう言って涙を流しながらフィリアンドを抱きしめた。


「お礼を言うのは僕の方です。ロフル兄ちゃんがいなかったら僕は絶対に死んでいました」


 フィリアンドがそう言うと、家の奥からサンクが顔を出した。


「お母さん? 何で泣いてるの?」

「ああ、サンクごめんよ。うれし涙って奴なのよ」

「ふーん?」


「では、ロフル兄ちゃんのお母さん。僕は失礼いたします」

「ああ、本当にありがとうねフィリアンド」


 フィリアンドは会釈をし、帰っていった。


「サンク! 来年の洗礼の試練は大荷物になるわ! 今からしっかり体力をつけないとね!」


・・・

・・

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