第14話 救出

――六輪になってから3か月後、洗礼の試練当日


 フーチェ達と別れてからこの3ヶ月、祭壇周りの整備を徹底的に行った。

 救出できた子供達は神輪の祭壇の中に入ってもらう。

 祭壇の扉までの道には念の為に木材を張り巡らせ、小さい子供しか通れないようにした。


 食糧(スライムボールと水)も多めに用意している。


 失敗を活かし出来る限りの事はしたつもりだ。

 そう思った瞬間、去年の出来事が頭をよぎったが、すぐに振り払った。


「さて……もうすぐか。助ける事だけに集中だ」


 マグが別れ際に教えてくれた、同じ村なら大体同じ場所あたりに転送されてくるという情報を元に、

 俺は自身が出現した場所付近の木の上で待機している。

 イレギュラーが発生しその条件に当てはまらない場合もあるらしいが……。

 それが起こらない事を祈るばかりだ。

 

――ゴォーン……ゴォーン……

――Activate system to sort


 始まりの鐘が鳴った。

 そしてその時に流れる英語も今回はしっかりと聞き取れた。


 ソートシステム……洗礼の試練の事を指しているのか?

 

 俺は……この洗礼の試練は自然現象ではない。

 今回でそれは確信に変わりつつあった。


「一輪、サーチ」


 その鐘が鳴りやむと同時にサーチを唱えた。

 近場に3つの点が増えている。


 そして、まずは一番近い場所へと走った。


「ハナ!!」


 そう言いながらその点の元へ向かったが、違う女の子だった。


「え? 誰? 助けて……!」


 女の子は涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔で俺に助けを求めた。

 しかし……すぐに連れて行く事は出来ない。

 俺はヒーローでも何でもない。まずは妹を救う。それが第一なのだ。


「君、この隙間でしっかりと隠れていてくれ。後で必ず迎えに行く。いいね?」


 女の子は戸惑いながらも頷いた。

 俺はいい子だと頭を軽く撫で、もう一つの点へと向かった。


「ハナか!!」


 俺は次の点に到着すると同時に声を上げた。


「え……? お兄ちゃん!?」


 そう答える女の子が妹のハナだとすぐに分かった。

 当たり前だが記憶にある姿より、大きくなっていた。


「よかった……間に合った」


 そう呟く俺にハナは飛び付いてきた。


「お兄ちゃん! 生きてたんだね……! なんで今まで……!」


 泣きそうになるハナの頭を撫で、そのまま抱き上げた。


「え? ハナ10歳だよ? 抱っこは恥ずかしい……」


 ハナは照れくさそうに言った。


「状況は後で説明する。とにかくこのまま運ばせてくれ!」


 そういってハナを抱きかかえながら全力疾走し、最初に見つけた女の子の元へと向かった。


 そして、隠れていた隙間の所へ行き、

「助けに戻ってきたぞ! さぁ一緒に行こう」

 と手を差し伸べた。


 流石に二人は抱きかかえられないので、そのまま二人と共に祭壇まで走って戻ってきた。


「お兄ちゃん、ここは……」

「ここは比較的に安全な場所だ。この穴から奥の扉まで入るんだ。そこで待っててくれ」


 そういって二人を祭壇においてまた外へと向かった。


「一輪、サーチ」


 すぐにサーチを起動するも、最初に見た点は既に消失していた。


 とはいえ、まだ残っている点がある。

 妹を救って目標は達成したが、どうせなら一人でも多く救いたい。


 そう思いながら最短距離で一番近い点へと向かう。


 途中で硬いデッドマンティスにも遭遇したが、全て蹴りで破壊しながら進んでいった。


「人がいる近くに、確実に1匹は魔物がいるな」


 その現象に作為的な何かを感じつつも、少年を見つける事が出来た。


「この隙間に隠れておいてくれ。すぐに迎えに行く」


 そういって周囲に居た子供達計4人を救出、祭壇へと連れて行った。


「ハナ! この子達も中に入れてあげてくれ!」


 ハナにそう伝え、俺はまた救出に向かう。


 もうすでに点は2つしかない……

 少し遠い場所だが全速力で現場に向かい、二人とも救う事が出来た。


 そしてその子達も祭壇へ無事に送り届け、合計8人を救う事に成功した。


「1輪、サーチ」


 サーチで確認するも既に残っている点は存在しなかった。

 それでも念のために周囲を探索したが、

 写っているのは遭遇しなかったデッドマンティスマシンやスライムボールだけ……

 

「硬いカマキリ……デッドマンティスマシンて言うのか……」


 そこで初めてちゃんと硬いカマキリの名前を目にした。


・・・


「もうこれで全員だな……」


 俺はひとしきり探索した後、祭壇へと戻っていった。


「お兄ちゃん!!!」


 祭壇から一人顔を出していたハナが飛び出してきた。


「ハナ! 中に入っておけと……」


 そういう俺の言葉を無視し、ハナは俺は強く抱きしめる。


「お兄ちゃん……生きてるなんて思いもしなかった!! 何で帰ってこなかったの!?」


 そういうハナをなだめながら、


「もちろん、ハナを助けるために残ったんだ」


 と優しく言った。


「こんな理不尽な死は間違ってる。俺は手に届く範囲だけでも助けて行きたい。来年ここへ転送されるサンクも助ける」


 ハナはそれを聞いた後、不安そうに質問をしてきた。


「サンクを助けた後は……?」


 俺はその回答をしないまま、


「とりあえず話は後だ。他の子達にも状況を説明しないと」


 といって妹の手を引きその場を移動した。


・・・

・・


 一旦皆を集合させ、名前や出身村を聞いた。


 どうやらハナを含む5人は俺と同じ村で

 残りの3人は別の村出身の子だった。

 3人は他の子達より少し遠い場所で助けた子達という事を考えると、

 マグの言っていた、同じ村は同じような場所に転送されるという事に、間違いは無さそうだ。


「知っていると思うけど、この場所で二輪まで覚えないと帰る事が出来ない。それまでここでの生活を頑張ろう」


 と、俺は元気づけるように言った。


 まずは皆の荷物を確認した。

 皆はそれぞれの荷物の中にナイフや剣、簡単な食事や服などを持ってきていた。

 ハナも同じような荷物で、中には母の作った煎餅も入っていた。


「お兄ちゃん、煎餅食べたいの?」


 煎餅を見て少し静止していた俺にハナは言った。


「食べたい……!」


 俺のそのつぶやきに対して、ハナは煎餅を分けてくれた。


――パリッ


「美味い……!」


 思わず涙が出そうになった。

 スライムボールとデッドマンティスの肉にはすっかり慣れていたが、

 やはりこの煎餅は別格……!


 そんな感じで1日目は終了。

 この日から9人での共同生活が始まった。

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