生存扶助罪

グカルチ

第1話

 その朝、男は通常通り、自分の働いている小さな飲料メーカーに出社しようとしていた、スーツをきて、食パンをくちに、そして玄関をあけたとき、警察官5人ほどがそこにたっていた。

「○○さんですね」

「そうですが何か?」

「あなたを罪人を生かした罪、“罪人生存扶助罪”で逮捕します」

 警察官は3人がアンドロイド、一人が人間だった。アンドロイドたちが率先して、令状をてにもち、彼の目線の前に示した。

「え?息子が何を?息子はちゃんとした大手企業で働いている一般社員です、今年の春から社会人となり一人暮らしで……」

「家宅捜索もかねているので、失礼します」

 アンドロイド警官たちが、家の中に侵入する。彼らが家を捜査され、証拠物品を段ボールにいれる間に、男は質問を加えた。先ほど食事をとっていたキッチンまで隅から隅まで調査の手が入る。

「息子が何をしたんですか?」

「同僚を殺そうとしたのです」

「どんな凶器で?」

「いいえ、“殺そう”と一瞬考えただけです」

「そんな、ばかな、その段階で」

「今年から試行された法律ですよ、“量子コンピューターによる演算により犯罪を未然に防ぐ法律”です」

「そんな、彼がそんなことを考えるなんて」

「実際実行しかけるほど強い思念をもちました、あなたの息子は元犯罪者です」

 男は少し考えた、そうしてようやく思い出した。学生の頃、息子は確かに犯罪に手を染めたことがあった。

「でも、元の罪は万引きですよ、軽い者じゃないですか」

「この国の議会と民意が決定したのです、“犯罪者は量子コンピューターにより未来予測し、犯罪を起こすまえに逮捕する”という事を、これもその一環です、その法律に付随する法律が施行されたのです」

 男は後悔した。たしかにそうした新聞社のアンケートにも答えた。その法律ができるまえ、仕事が忙しいのもあり、あまり覚えていないが

「量子コンピューターを使い犯罪者は未然に量子コンピューターで未来予測し、犯罪を防ぐべきだ、逮捕するべきだ」

 と答えた。その時はまさか我が子が人殺しを犯すことなど想像もしていなかったのである。

「それで、どうして私にも手錠を?」

「あなたは、彼を生かしていました、彼が元犯罪者であり、事前に犯罪が予測できた可能性があるのに止めなかった、これまで生かしてきた、その罪ですよ」

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生存扶助罪 グカルチ @yumieimaru

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