第20話  消えたエリサ

 ティランが、露天商の主人と話し合っていて、母のカタリナのアクセサリーは、アルテア王国の卸商から手に入れた物だと判明した。

 そのことをしっかり確認してティランが後ろを振り返った時、エリサの姿は何処にも無かった。


「あれ……?エリサ?奥方、エリサを見てませんか?」


 風の奥方は、当然のように彼女の優先順位のティランから目を放してはいない。後ろにいたようだが、<そう言えば、先ほど風の騎士がうるさく呼びかけていましたわ>とあっけらかんと頭上で説明してくれた。


 奥方の使命は、身体の弱いティランの命を守ることなのだ。

 他の魔法使いの契約内容とは違っていたのである。


 ティランは、ディナーレの街を回ってエリサを捜した。

 風の奥方は、止めたが振り切って、走り回って捜した。


 息が上がって、胸がぜーぜー鳴り始めているティランに、風の奥方は答えを教えた。


 <エリサ様は、ヴィスティン王国の近衛の騎士に連れて行かれましたわ>


「ど……どうしてですか?」


 <ラウール王子が、あなた様と銀の森を出たことを知ったためですわ>


 ラウール王子とは、ティランと同じ年のヴィスティンの第一王子の名前だ。


「ちょっと待ってください!!何故、こんなに早くヴィスティンに知られてるんですか!?」


 <ヴィスティンの王家には、国の政治に口を挟んで、神殿を追放された魔法使いのフェザーがいますわ。フェザーは、上級の魔法使いで風の使い手です。噂を集めることくらい朝飯前です。風の騎士より経験豊かな精霊も持っていますし……>


 奥方は、溜息をついてティランの身体を浮かせると、先ほどエリサを座らせていたベンチまで行って、彼を横たわらせた。


 <時期に、人が来ますわ。ここでお待ちください>


「でも!!エリサは!!」


 <彼女は、ティラン様とは違います。きっと力づくで出て来るでしょうね>


 ……と奥方と話していたら、王宮のあちこちから水が噴き出し、火の手が上がり地震が起きて、強風が吹いた。





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