第22話 #ディア5(一人称パート)

「お待たせしました。どうも、こちらに近づいてきている船があるようでしてね」


 来たか! ガラガラの言葉にわらわは内心ほくそ笑む。近衛の戦艦ならば、海賊共の持つ船など鎧袖一触。瞬く間に蹴散らしてくれることじゃろう。


「ほう? 他の船が来ないように圧力をかけていたのではなかったのか?」

「そのはずだったのですが。まあ、小型船が一隻だけのようですからどうということはありません。大方、賞金稼ぎか、警邏隊のはねっ返りといったところでしょう」

「そうか」


 小型船ならば近衛ロイヤルナイツではない。近衛ロイヤルナイツは小型艦一隻で行動することは無いからな。必ずデュランバン級戦艦を中心に艦隊を組む。ガラガラの言う通り、賞金稼ぎか警邏艇か。もしかすると庭番ガーデンガードの持つ特殊艇かもしれんが、どちらにせよ小型の船では例え戦闘艦であっても海賊船5隻を相手にするのは厳しい。


 演算炉を持たない小型艦や中型艦の戦闘力は、大型艦からのエンチャントウェーブを受けなければ海賊船と大して変わらないからの。


「姫殿下には、我が海賊団の精鋭が見事獲物をしとめる様をご覧いただきましょう」


 近衛で無い事に落胆するわらわに、意気揚々と語るガラガラ。相変わらず仰々しい奴じゃ。


「姫ではない。帝姉じゃ」

「失礼。殿


 どうやら改める気は無いらしい。間違いを認められんとはまったく大人げない奴じゃ。


「姫殿下に我が海賊団が誇る船を紹介しましょう。ヤゴン号、ケラン号、マシモ号。そしてメドカ号です」


 ガラガラがモニターに映る海賊船を指し示す。四角い船体の上部に巨大な砲を背負った3隻がとそれよりやや小柄の船。


「ヤゴン号、ケラン号、マシモ号はガブリン級の主砲より大口径の収束光電子砲を装備しています。また、メドカ号は火力は低いですが、高性能な量子電探機が積んでありまして索敵能力に優れます。これら4隻を持ってすれば警邏艇は勿論、戦闘艦だろうと敵ではありません」


 海賊など火力こそ正義の脳筋かと思っておったが、索敵用の船まで持つとはな。量子電探機は貴族が流通を管理しておるから、サイサリアス侯爵が与えたのじゃろう。


「とはいえ、その余裕も相手が1隻だからじゃろ?」

「当然です。こちらが1隻でも失う恐れがあれば戦いませんよ。一発だって食らいたくありませんね。船が壊れようが部下が死にかけようが、ドッグにしても医者にしても、裏の連中はどいつもこいつもこちらの足元見て吹っ掛けてきますし……はあ、どこかに海賊でも入れる保険とかないものですかね?」


 そんもんあってたまるか!


 などと、心の中で盛大に突っ込みをいれておると、やがて宇宙の闇の中から一隻の船が姿を現す。


「あれは……」


 その船影には見覚えがある。愚弟の戴冠式を引っ掻き回してくれたあのモノクロームの船じゃ。何故ここに?


「おや? これは随分洒落た船ですね。見たところ武装も無い。オーダーメイドのクルーザーでしょうか?」


 ガラガラも髭を撫でながらモノクロームの船を注視する。もし貴族の船だった場合、下手に沈めては厄介な問題になりかねないと考えているのだろう。


「お頭。向うから汎用通信波で何か言ってきているようです。どうしますか?」

「聞きましょう。この船のスピーカーに繋ぐように言ってください」


 手下が無線機でどこかにガラガラ指示を伝えている。どうやら砂の踊り子号の艦橋のようじゃ。


 それからすぐ、船内放送用のスピーカーが鳴り響いた。 




『てめぇら! おいは※※※※組のもんじゃ! シマを荒らす※※※※共! 泣いて詫びれば許してやるけぇ! ※※※※な※※※※め! ※※※※されたくなかったら大人しく武器を捨てて投降せい!』




 幼い少女の声に聞こえるが、どこの辺境部族の方言じゃ? 言ってることがまるで分からんぞ?


 辛うじて伝わったのは、海賊への警告ということくらいじゃ。だが、海賊共の方はどうやら意味が通じているらしい。皆顔を赤くして拳をわなわなと震わせている。どうやら相当屈辱的な事を言われたようじゃ。


 なんてことじゃ。よもや語学力でわらわが海賊に遅れをとるとは思わなんだ。


「ぶっ殺せ!」


 ガラガラの号令の下、外の海賊船が一斉に砲撃を開始する。民間船を破壊するには十分な火力であろう。だが、帝国艦隊の砲撃を搔い潜ったモノクロームの船を傷つけるには到底至らない。回避するまでもない様子で、海賊船から放たれた光電子砲の光は船体に届くことなく壁に弾かれるように霧散する。


 船全体を覆える障壁まで備えておる。やはり凄い船じゃ。


「頭! 全く効いていません!」

「ああ。こいつはまずいかもですね」


 曲がりなりにも裏社会を生き抜いてきた海賊の感じゃろうか? 何かを感じ取ったガラガラが呟いた瞬間、モノクロームの船から放たれた幾条もの光が4隻の海賊船を消し飛ばした。


「そんな馬鹿な!? 吾輩の船が!? 仲間達が!?」


 船と仲間を失い、悲鳴を上げるかのようにガラガラが叫ぶ。


「なんという火力じゃ」


 小型船とは思えぬ火力に、わらわも驚きを隠せない。


 光電子砲ではない。粒子砲か? あのサイズの船に? いや、転移できるだけの出力があれば可能か。っていうかどこから撃った? 曲がったぞ!?


 あの時、帝国の一大行事である皇帝の戴冠式を台無しにしておきながら、あの船は帝国艦に対して全く攻撃をしかけなかった。その気になれば帝国中枢を破壊することも出来たというのに。


 それでいて、海賊に対しては容赦なくその力を振るった。


 やはり、あの船は帝国に敵対するつもりは無いのじゃろう。


「お頭! お頭ぁ~!」


 血相を変えた海賊が走って来る。元々悪い顔色がさらに悪くなって、まるで生きる屍のようじゃ。


「大変です! 仲間が急に、次々倒れて!」

「何? ガスですか!?」

「いえ、それが乗客には変化が無く、それで、武器を奪われて反撃されまして、もう残ってるのは俺達だけです!」

「何ですって!? くそっ! どうなっているのです!?」


 どうやら、何らかの方法で海賊だけが無力化されているらしい。手段はわからんが、あの船の仕業なのは間違いないじゃろう。


 わらわは緩む口元を隠すことなくガラガラに向き直る。


「乗客達が逆襲してくるぞ? 彼の船に従い、泣いて許しを請うか? それとも乗客達に命乞いをするか、どうするガラガラ?」


 海賊の船は、砂の踊り子号に食らいついてる一隻を残して全滅。残っている手下も、この場にいる4人だけだという。


 モノクロームの船を相手に戦いを挑むかのか?


 ここで怒り狂った乗客に嬲り殺しにされるのか?


 気の向くままに暴力を振るい、乗客達を苦しめていた海賊共が一転。狩られる立場になって右往左往している。


 知っておるぞ。こういう時はこう言うのじゃ!


「ざまぁなのじゃ!」

「こ、この小娘が言わせておけば! 吾輩は海賊男爵! 命乞いなどするものですか!」


 狂ったように怒鳴り散らすガラガラ。海賊には海賊の矜持があるらしい。


「ずらかりますよ! ダガメ号に援護させなさい!」

「それが……ダガメ号の方も現在交戦中ですぜ!」

「何ですって!?」


 ダガメ号とは小奴らが乗って来た、砂の踊り子号に取りついている海賊船のことじゃろう。


 ガラガラがモニターを切り替えると、見たことの無い白い戦翼機から攻撃を受けて火を噴いている。


「どうやら貴様の船に勝ち目はなさそうじゃな」


 白い戦翼機がモノクロームの船の仲間なのは間違いない。凄まじい運動性で海賊船を翻弄し、海賊船に備えられた砲のみを的確に潰している。機体の性能も凄いが、それを自在に操る騎士の腕も大したものじゃ。


 船外服を身に着けて、甲板から銃を撃つ猛者もいたが、白い戦翼機は銃撃を躱し逆にそいつを撃ち殺す。


「ドルーズ!?」

「ドルーズのおやっさんが……」

「最強の戦士が……」


 よう知らんが名のある海賊だったらしい。まあ、蛮勇と言うに相応しい最後はある意味海賊らしいとも言えるじゃろう。


「おのれ! おのれ! おのれ!」


 目の前で仲間を殺された事に逆上し、モニターに向けてを銃を連射するガラガラ。


「お悔やみ申し上げる」


 心にもない事を言うわらわに怒りの目を向けるガラガラ。モニターを破壊した銃をまっすぐわらわの眉間に付きつけた。


「まだです! まだ終わるものですか! あなたには地獄の果てまで付き合って頂きますよ? 姫殿下」

「帝姉じゃ」

「だまらっしゃい!」


 ガラガラが指を鳴らすと、手下が背後からわらわとセーナに袋をかぶせてきた。


 うにゃぁ! 何をするー!

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