第13話 俺達の45!

 光線銃とは、レーザーやビームといったエネルギーを投射し、対象を破壊、殺傷する携帯火器のことである。


 地球では21世紀後期に開発され、従来型の実弾を発射する銃器より、軽く、強力で命中率も高く、メンテナンスも容易(精密機器なのでユーザーができるのは発射口の掃除くらい。あとは全部メーカー任せ)と、その利便性と、引き金の軽さから、22世紀には従来の実弾を使用する銃器を駆逐するにまでシェアを広げた。対戦車用から害虫駆除用まで、22~23世紀はまさに光線銃の全盛期だったと言える。


 そんな、光線銃にも欠点が無かったわけではない。大きな問題点としては……


 塵や煙幕など、大気中の微粒子による、減衰と発火の恐れ。


 使用されている大容量バッテリーパックの危険性。


 EMP兵器に対するの脆弱さ。


 弱すぎると効果が無く、強すぎれば貫通してしまう威力調整の難しさ……などが上げられる。


 特に現状の光線銃の性能に不満を持っていたのが、当時の宇宙軍海兵隊だった。彼等が銃器を使用するのは、不審船の臨検や海賊船の取り締まりといった、宇宙船の船内だ。狭くデリケートな宇宙船の中で光線銃は非常に使いにくかったのである。


 特に彼等は大容量バッテリーパックの形態を嫌がった。


 例えば、必要な出力のレーザーやビームを100発以上撃つとなると、相当な電力が必要である。光線銃に使われるバッテリーパックは、一般的な電気自動車を1日中走らせることが出来るくらいの電力を内包している。それはもう一種の爆弾であり、もし、宇宙船の中で爆発したり、誘爆を起こしたりすれば、船が内側から吹っ飛びかねない。


 また、対象を貫いて、船や一般人に被害を与えてしまい訴えられることも頻発した。


 23世紀終盤、現場からの再三にわたる要求を受けて、宇宙軍は競合する2社に新たな銃の開発を依頼する。


 安全でストッピングパワーのある光線銃を作れ。


 要望書に書かれた一文に開発者は一様に表情を張り付かせた。


 試行錯誤の末、一方のメーカーはプラズマインパクトガンという強力な電磁衝撃銃を開発し提出した。


 そして、もう一方のメーカーは、研究用に再生産した45口径弾に発光処理を施した、光る45口径弾をやけくそのように提出した。


 その“やけくそ”が銃器の歴史を塗り替えることになる。


 当初はプラズマインパクトガンの採用で決まりと思われた。だが、プラズマインパクトガンは粉塵やEMP対策といった、光線銃が抱えていた問題は抱えたままだった事。また、銃本体が大型だった事。エネルギー消費が激しく、バッテリーパックが大型化しており、安全対策としてバッテリーパック周辺をガチガチに固めた結果、背負い式にならざるを得ず、光線銃の長所であった取り回しの良さを失っていた事から、トライアルに参加した兵士達からの評価は芳しくなかった。


「車両に積むなら悪くない。だが、俺達のベルトにお前はいらない」


 と、散々な結果に終わった。


 それに対して兵士達は、僅か200グラムの鉛弾と数グラムの炸薬で必要な威力を叩きだす45口径弾の効率の良さに着目した。


「人を殺すのにメガワット級バッテリーパックはいらない。200グラムの鉛を音速で飛ばせるほんの僅かな火薬で十分だ。45は俺達にそれを教えてくれた」


 それは光線銃に慣れた人々にとって目から鱗の大発見だった。


 こうして実に200年の時を経て海兵隊のベルトに実弾式の拳銃が帰ってきた。


 この実弾式への回帰は『45ショック』と呼ばれ、宇宙軍創立以来の珍事として語り継がれる事になる。しかし、軍事に詳しい者は、実弾兵器への回帰は決して笑い話ではなく、いずれ必ず起こりえたと語っている。何故なら、実弾兵器の反動や威力といった弱点が克服されるだけの技術が、この時代既に出来上がっていたからだ。


 20世紀初頭に開発された45ACP弾は23世紀の技術で45ケースレス弾として生まれ変わった。通常弾だけでなく、非殺傷弾、弾頭先端がプラズマ化して対象を撃ち抜くプラズマ徹甲弾、発射後ブースターで目標を追尾するジャイロジェット誘導弾など多くの種類の弾丸が開発され、トライアルで使われた光る45口径弾も曳光弾として訓練や催事などで使用されている。


 その後過去に使用されていた弾丸が見直され、惑星軍は40口径を、警察では38口径の拳銃が新たに採用された。『45ショック』は、宇宙軍のみならず、各軍で実弾式銃器への回帰を促すきっかけとなったのである。

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