第17話 巨鳥獣バーズグォリ

「ほいっ。死んで来いっ」


新宿都庁ビルの最上階についたら、ドンと押されて、僕は一人で屋上に放り出された。


バーズグォリが目の前にいた。ヤツは給水塔の上に巣を作っていて、そこから奇声を放って僕に羽根を広げて突っ込んで来たっ。


巨大なごわごわとした体毛を持った鳥の化け物バーズグォリ。その額には氷の青い結晶が嵌っていて、目は血走っていて、人間の3倍ほどもある鋭い爪で僕に迫る。


「ギョオオオオオオオオオっ」


ひい。怖い。


最新型の自動カメラが僕とバーズグォリを追う中、屋上に8メートルの鳥の巨獣と僕ひとり。


僕は心臓をドキドキさせながら、まろぶように屋上を逃げた。


しまった。緊張で本が出る。僕は極度に緊張すると本がたまにバグで出てしまうときがあるんだ。


とくにやばい場面だと日常でありえないのに本が出てしまう。


ポン


https://kakuyomu.jp/works/16817330656602728261


僕はガリガリ走ってなんとか本を出したことの隙をやり過ごした。


玉石さんの言葉を思い出す。


「・・・今回は私はついて行けない・・・。ただ、強いモンスを倒すなら・・・とにかく、攻撃を受けないこと・・・。体力を温存しながら・・・チャンスを持つこと」




バーズグォリは飛びながら、氷のブレスを放って逃げる僕の進路を塞ごうとする。


ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオ


夏場の世界が氷ついて、ひんやりとした空気が辺りを漂う。


氷の欠片がビシリと弾けて、僕の頬に傷が入る。


バキバキと氷になった20メートルほどの屋上を走り回りながら、僕はチャンスをうかがう。


それは巨大な鳥と人間との平面の屋上で繰り広げられる命を賭けた追いかけっこ。


音声通信でコメントが僕の耳に届く。


> 市すべし。品川勇者ぞぬす。ハハハ。


ブーイングの嵐の中、ルルナの言葉が聞こえた。


> がんばって隆起っ。生き残ったらおべんとだからね(ルルナ)


僕はルルナのおべんとだけを心の希望に、逃げながら図書館検索をした。




僕の図書館検索は図書館の検索に関しては万能だ。


だったらこの状況をどうにかする手立てもあるかも知れないっ。


ゴオオオオオオオオオオオッ


空を飛びながらときに僕に襲い掛かって来て、氷のブレスを吐くバーズグォリ。


ひぃい。空飛んでたら剣も届かないっ。


ええい。無手対空攻撃手段検索。検索。


図書館検索。


そこに出てきたのは、アメリカ国防省の秘密ページだった。


アメリカ大統領のラストスイッチ。


空に巨獣が現れたとき、衛星軌道から太陽光を使って、雷を電子レンジのように発生させて倒す究極兵器。


パトリオットレンジ!!!


これだ!!!



僕はスマホから衛星通信を使って、アメリカ大統領のラストスイッチをハッキングして、宇宙衛星NSDの攻撃照準を、バーズグォリに合わせた。


アメリカ大統領はいつでも空の敵を倒すためにラストスイッチを使えるようにしているのだ。


鳥の巨獣はバッサバッサと飛びながら、そのとき、僕を喰うために僕に突っ込んで来て、そこから僕を口に咥えた。


ヤツははるか上空に飛び立ち、上空で僕を丸のみにしようとしていた。


ピンチだが、チャンスだ!


冷や汗を掻きながら、僕は詠唱してラストトリガーを弾いた。


「パトリオットレンジ発動っ!!!!」


ゴオオオオオオオオオオオオ


衛星軌道上のNSD攻撃衛星がものすごい光を放って、そこからトールハンマーのような光が放たれた。青空が白い稲光に染まった。


バリバリバリ


巨鳥がレンジに巻き込まれ、ぐちゃぐちゃにはじけ飛ぶ。口に咥えられていた僕は空に放り出され、そのまま50メートルの中空から下に落ちていく。


ああ。僕はこのまま死ぬんだ・・・。母さん。ルルナ。


そう思って目をつむってはるか上空から新宿のアスファルトに叩きつけられて死のうとしたとき、やわらかい感触がトンと僕を抱きとめた。


「・・・大丈夫・・・。あなたは死なせない・・・私が守るから・・・」


玉石さんだ。上空から堕ちて落下する僕を玉石さんがビルの外にいて、走り込んでやわらかく受け止めてくれたんだ。


そして、僕は、バーズグォリを倒したんだ。


ルルナが走って僕に抱き着いてきた。ルルナの大きな垂れ目に涙が光ってる。


「隆起ぃ。よかったぁ。隆起が無事なら私、なんだっていいんだからッ。無事でほんとによかったぁ。うわあああん」


「伊藤さん。私はあなたを信じていました。大好きです。愛しています。あなたはこれで勇者ですよ。誰からも尊敬されるようになるはずです」


乙姫セリカにも微笑まれながら、僕は勝利の感触を味わった。ああ・・・勝った。


よかったあ。

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