【承】 鎮魂歌

時刻は24時ちょっと前。

自分の部屋に戻り明かりをつけると、ベットの枕元に誰かいるのに気づいた。

「誰?」


綺麗な顔立ちの少女が座り込んでいた。

いぶき愛衣めい。そういぶき先輩だ!


いぶき先輩は「何見てるの?変態」的な目で俺を見た。


・・・て言うか、ここ俺の部屋だし・・・


いぶき先輩の膝の上には、オルゴールと目覚ましのデジタルの時計が置いてあった。


千代吉ちよきち、明日は何の日か解るか?」

千代吉ちよきちって!500年ぶりに呼ばれたわ!今は陽翔はるとだし」

陽翔はるとって顔か!?めっちゃ武者武者してるじゃん、まったく現代の匂いがしない」

「それは理解してる」


現代の匂いがしていない古臭い俺に比べて、いぶき先輩は、古風な品の良さこそ残してはいるが、とっても現代的な顔出しをしていた。


古臭いと古風。同じ様な意味でも全く印象が異なるのだ。



「で、千代吉ちよきち、明日は何の日か解るか?」

「何の日だろう?誕生日じゃないし」


いぶき先輩は、目覚まし用のデジタル時計にちょっとだけ見た後、俺と視線を合わせた。綺麗な顔立ちの女子に見つめれれると、それがいぶき先輩だとしても、ドキドキした。


「さあ答えて」

「えー何も思い当たらない」

「もう忘れたか!お前の命日だろうが!」

「むしろ忘れたいわ!」

「ちょっと待ってろ」

いぶき先輩が持っているデジタルの時計が、00:00をお知らせすると。

「命日、おめでとう!」

パーンと夜中にクラッカーを鳴らした。


「先輩、夜中夜中!そして命日おめでとうって、おかしいでしょう!」

「それじゃあプレゼントのオルゴールだ。受け取って欲しい」

「命日にプレゼント貰う風習って、異世界でもないと思うけど」

「【ヴェルディのレクイエム】のオルゴールだ」


いぶき先輩は、【ヴェルディのレクイエム】のオルゴールを鳴らした。

良い音色ではあるが、


「レクイエム・・・鎮魂歌。あの~俺、もう生まれ変わったので鎮魂されても困るんですけど、今、めっちゃ生きてる最中なので」


いぶき先輩は、バックから数珠を取り出した。

「安心してください。成仏もしました」

「はっ!」

「えっ!?いぶき先輩!マジ驚きですか!」

「良かった・・・成仏出来たんだ。千代吉ちよきちは、融通が利かないから、あの戦場で、今も自縛霊してるかも知れないと心配してた」

「いやいやいや、見れば解るでしょう。めっちゃ男子高校生じゃん」

「今時、そんな武者顔の高校生いない。それはそうともう1つある」

「もうひとつ?」


いぶき先輩は真剣な顔をして、風呂敷に包まれた箱を開けた。

「刀ですか?」

「村正だ」

懐かしい響きだ。

いぶき先輩は箱から刀を取り出し、鞘から抜いた。

確かに名刀村正の妖しい輝きだ。


村正は照明の光を受けキラリと輝いた。


「この刀こそ、千代吉ちよきち・・・お前の首を跳ねた刀だ」

「ひぃぃぃぃぃぃ」


俺は魂の底から震えた。


いぶき先輩は微笑むと、

「喜んでもらえて嬉しいよ、この刀は手に入れるの苦労したんだよ」


喜んでないし。



つづく






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る