つながる弦

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つながる弦

『今日も、新幹線をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は、かささぎ号――』

 彼女のもとへと向かう新幹線の車内。昨日の定期演奏会の疲れがまだ抜けてないのに、このあとのことを考えるとそわそわして、全く眠れない。

 俺と彼女は別々の交響楽団に所属していて、本拠地も離れているので、なかなか会えない。今回は、互いに7月6日に定期演奏会を終え、とても大切な用事のために会うことになった。というか、この時期には毎年必ず会うようにしている。

 ただ、今年はいつもと違う。

「……よし」

 こぶしを握りしめ、決意を再確認するようにつぶやいた。




 幼少期に「アリとキリギリス」を読んで、結末なんか気にせずにキリギリスのように楽に生きたいと思い、始めさせてもらったヴァイオリン。しばらくは近所の音楽教室に通っていたが、先生の勧めで地元の少年音楽団に入ることになった。

 そこで出会ったのが香織だ。彼女の担当楽器はハープ。偶然にも家がすぐ近所で、同じ小学校の同級生だった。そこからは家族ぐるみで仲良くなり、よく一緒に食事したり、出かけたりするようになったのだ。

 その後、中学・高校を通して同じ学校、同じ楽団で時間を共にしてきた。


「おつー」

「おっつー、彦馬。では練習へ行くぞい」

「はーい」

 高校3年の6月末。その日の授業が終了。荷物をまとめて生徒玄関へ向かうと、香織が待っていた。

「ねえ聞いて! 弟がさ、マジでギリッギリまで宿題やんないの! もうバカまっしぐらだよ〜」

「いや、ギリギリでも出してるんでしょ? 香織なんか小学校の時結構期限過ぎて出してたじゃん。よっぽど弟くんの方が良いよ」

「ぐっ……あっ、いやだって私は練習があったから!」

「言い訳無用。音楽もそれ以外も両立させてこそのプロだよ」

「すみませんでした!」

「よろしい」

この雰囲気、周りから見れば付き合ってるように見えるかもしれない。しかし、俺たちは幼馴染の同級生として、そういうのではないのだ。

「彦馬はエライなあ〜。ヴァイオリン上手いし、練習ではみんなを引っ張って、勉強もできて」

「音楽と練習に関しては香織もだけどね。ところで来週の合宿も見据えた上で、7月の期末考査の準備は進んでますか?」

「いやいやいや、まだ半月くらいあるし、大丈夫っしょ」

「試験直前に泣きを見てる香織が鮮明に想像できるわ」

「うっさいわ!」

 でもこういう他愛も無い会話ができる時間が、俺にとって一番の癒しだった。今日の練習後も、明日も明後日も、これからもずっとこういうふうにできればな。




 7月はじめ。音楽団のメンバーで、毎年恒例の合宿に来ていた。この合宿は1泊2日の練習三昧。何せ楽団としては、最重要イベントであるコンクールが1か月後に迫っているのだから、熱が入るのだ。そして、高校3年生の俺や香織たちにとっては最後のコンクールだからより想いは強い。

「おーし。今日の午後の練習はここまでー。おつかれさん。このあとは旅館に行って夕食だから、片付けた人から必要な荷物もってバスに乗ってくれ」

「はいっ!」

 初日の計6時間にわたる練習が終わり、どっと疲れが襲ってくる。ひとつ伸びをして、ヴァイオリンをケースにしまっていると、隣の席の女子が話しかけてきた。

「あ、彦馬。そういやさ今、かおりんとこと彦馬の家族、出かけてんだって?」

「ん? あぁそうそう。キャンプにね」

「へぇ~。一緒行けなくて残念だね。でもまあ、本当に家族でなかいいね~。幼馴染の家族ぐるみで仲良しの同級生、少女漫画みたいでロマンティック~」

「そういうんじゃないから、やめて」

 こういう冷やかしがよくある。実際香織とは仲はいいが、毎度どう反応すべきなのかが分からない。正直苦手である。

 はぁ……

「おっつ! ため息なんてついちゃって、どうしたの?」

「あ。香織。おつかれ。いや、キャンプの事聞かれて」

「あーね。いやあ、やっぱさあ、あたしらを置いてキャンプ行くとか、あの親たちどうかしてるよ~」

「まあそうだな」

「今頃、何してんのかな~ あたしも行きたかったな」

「俺はそうでもない。虫、嫌だし」

「あぁ! 出た、虫嫌い! 今度キャンプ行くときは、彦馬が虫に怯えるのと、川でのカナヅチを拝んでやる!」

「やめろ」

 と言いつつ、いつかは行っても良いかもしれないと密かに思った。












 旅館。夕食中。

 呼び出し。香織も。

 ロビーへ。

 団長が口を開く――――











「改めまして、この度はご愁傷様でした」

「最後までありがとうございました」

「いえいえ、では」

 葬儀を終え、最後の弔問客を見送る。残されたのは俺と親戚数名。

そこには俺の母も父もいない。だって、その2人の葬儀だったから。もう……いない。


【崖から転落か 4人死亡】

「3日午後4時30分ごろ、○○県○○市○○町の山道で「車が道から落ちている」と警察に通報があった。県警察によると、山道を登っていた車が道を外れて崖下に転落したとみられ、車に乗っていた40代の男女4人の死亡が確認された。また、同乗していた10代の男子は全身を打つ重傷を負ったが、命に別状はなかった。車は――」


 事故の翌日の新聞。社会面にそれなりの大きさで載っていた。読むほど心が苦しくなる。何故だか罪悪感に苛まれる。

昨日、香織のご両親の葬儀が執り行われて俺も参列し、今日の葬儀には香織も出席してくれた。しかし、運転していたのが自分の父ということもあって、香織になんと声をかけていいのかが未だに分からない。結局、この2日間、というか事故後はほとんど話すことができていない。

香織と自分の間に、手を伸ばしても届かない大きな川が流れている、そんな気分だ。

「彦馬、ちょっといいか?」

 家に戻り、自分の部屋で座ってぼおっと考えていると、叔父に呼ばれた。

「はい」

 叔父が、正面に座る。

「まあ、葬儀も終わったばっかだし、まだこういう話は早いかもしれないけども。彦馬は進路とかどう考えてる? もう高3の夏だから、お母さんとかお父さんとも話してたんじゃないのか?」

「あ、えっと、はい……。今、音楽団に入ってるんですけど、いずれは音楽の道に進みたくて。それで音大に進みたいなとは、話してました」

「音大かあ。なるほど、分かった。ひとまず、彦馬はまだ学生だし、僕が保護者代わりになろうと思ってる。彦馬には彦馬の道を進んでほしいから、音大を目指すっていう夢も応援する。もちろん経済面の事とか、あと僕がちょっと遠いところに住んでいるから、彦馬がどこに住むかとかのこともあるけど、そこは追々考えていくことにしよう。いい?」

「……」

「彦馬?」

「あっ、はい。よろしくお願いします」

「わかった。じゃあそういうことで。じいばあ達にもそれで話し通しとくね」

 叔父が立ち上がり、離れようとする。すると、何かを思い出したように、振り返った。

「あぁ、あと。今回の事だけど。彦馬が気に病むことはない。あの女の子とはずっと仲良くしてきて、今も高校と楽団が同じなんだろ? だったらこれからも仲良くしていきな」

 そういうと、部屋から出ていった。

 音大。もちろん、音楽をしたいからそこに行きたいと考えていたはずだ。なのに。叔父に聞かれたとき、一瞬本当に音大に行きたいのかと思ってしまった。なぜだかほんのちょっと、ヴァイオリンを続ける意味というか、自信が無くなってしまった気がする。そんなことを考えていると、香織のことが頭に浮かんだ。

そもそもそのような話をすることができるのか。香織のご家族を取り返しのつかない形にしてしまったのは、俺の家族。叔父はああ言ってくれたけども、そんな簡単な話ではない気がする。

 香織……。話してくれるかな。


ピロリン♪


メールの着信音。

『今忙しい? 2人で話ししたいんけど天川公園来れないかな?』

なんともタイミングが良いのか悪いのか。うん、行かねば。了解の返信を送り、公園へ向かう。何と言えば良いのか。どう謝れば良いのか。どう接すれば……。目の前の川は大きく渦巻いていた。


考えが纏まらないまま到着した。見渡すと、ブランコに一人座っている少女。鼻歌まじりで、ゆうらゆうらとゆれている。

「お待たせ」

「ぜーんぜん。さ、座って座って」

 毅然としている香織。俺がみていた限り、涙を見せたのは最初だけで、それ以降は葬儀も含めて見ていない。とても両親を失くしたとは思えない振る舞いだ。

 隣のブランコに腰をかけようと。いや、その前に。

「香織、あの……。今回の事は本当にご――」

「ストーーーップ!!! まず座る!」

「え……あ、うん」

「今、謝ろうとしたでしょ。ダメ。絶っっっ対謝らせないからね!」

「でも……」

「そもそも、彦馬は何も悪くないでしょ?」

 香織が全く口を挟ませてくれない。俺は開きかけた口を思わず閉じた。

「私、事故の後いろいろ考えたんだ。お父さんのこと。お母さんのこと。彦馬のお父さんとお母さんのこと。弟のこと。そして彦馬のこと。それで思ったの」

 一息つくと、ひと言ひとこと、今度はゆっくりと話し出した。

「彦馬のお父さんのことも責めるつもりはない。だっていっつもこういう時の運転は彦馬パパだったでしょ? うちの親だって、じゃあありがたくーっていつも乗せてもらってさ。彦馬パパの運転に頼ってばっかだったからさ。実際運転うまかったし」

 ね? と優しい目でこちらを見て、同意を求める。

「それに」

 遠くを眺めて、気持ち声を落として続ける。

「もし彦馬が謝って、私が認めたら、これまでのようにはいられなくなる気がするの」

「え……?」

「彦馬とはこれまで家族ぐるみで仲良くしてきて、もうほぼ家族同然だと思ってる。私はね。だからこそ、家族を亡くしたからこそ、彦馬までも失いたくない。ずっとそばにいたいし、そばにいてほしい。だから……」

 こちらに向き直って微笑む香織と目が合う。ただその目は強い意志、願い、決意で満ちていた。

「絶対に謝らないで。私のそばにいて」

 その瞬間、香織との間にあった大きな川に橋がかかったようだった。俺は、俺たちは、この橋を超えてずっと一緒にいたい。

 目を逸らさず、覚悟を持って誓う。


「分かった。香織のそばにいる」





「おーし、久しぶりに全員揃った事だし、本番までは時間もない! 早速合わせていくぞ!」

「はいっ」

 合宿を途中で引き上げて以来の久しぶりの練習。メンバーはもちろん事故のことを知っていて、その上でこれまで通り接してくれる人ばかりだったから、こちらとしてはありがたかった。香織はもちろんだけど、他のメンバーも長い時間を共にしてきた仲間だから、その空間にいるだけで温かく、居心地がいい。

 あれ以降、俺は学校の寮に、香織は市内の祖父母の家に住むことになった。お互い高校も変わらず、楽団も最後のコンクールまで続けることにした。

 ヴァイオリンを始めてからというもの、今回のように1週間以上弾かないことはなかった。練習は1日休んだら3日戻るとよく聞くから、いかなるものかと思ったが、長年の練習はそのくらいでは裏切らなかった。チューニング、弾き心地、音色。どれも変わりなく我ながら美しく、心が落ち着く。やはり俺にとって音楽というものは何物にも代えられない。音楽に包まれているときは、どんな嫌なことも、辛いことも忘れさせてくれる。それはこれまでの音楽との、ヴァイオリンとの長い付き合いももちろんあるだろう。ただ、決してそれだけではない。こうやってずっと一緒に和音を、リズムを奏で、喜びを、悲しみを音に乗せてきた仲間たちや香織がいて。そして音楽に全力で挑めるように支えてくれた、母と父がいて。そうしたみんなのおかげで今の自分がある。

 ハープの音が耳に入ってきた。綺麗で、透き通っていて、でもどこか儚げなその音。今回の曲に、そして今の俺に欠かすことのできない音色だ。

 これからできることは。あの時、叔父と話したときに音大に行くのを少し悩んだとき。あれは恐らく両親がいなくなって、これから音楽を続けていける自信がなかったからだろう。でも、これまで支えてきてもらえたからこそ、これからも続けていかなければならない。そして、音楽を通して香織に寄り添っていく。それがこれからやっていかなきゃいけないことなんだ。俺はそう思う。




 コンクール当日。朝早くから、楽器を運搬用のトラックに積んで、緊張の面持ちのメンバーはバスに乗って向かう。

「いよいよラストだね」

 隣に座る香織がしみじみと話す。

「あとは自分たちを信じて弾くだけだよ」

「そうだねぇ。まぁ、超絶うまいメンバーが揃った私達なら、金賞間違いなしだよ!」

「何その言い方。まあ、そう簡単にはいかないだろうけど、そうなってほしいな」

 緊張を隠すように大げさに喋る香織。しかしやはりすごい。まだひと月も経っていないというのに、あんなことがあったなんで思わせない程の明るさだ。そのおかげで俺もこれまで通りでいられる。こんななってもこうやって接してくれる彼女には感謝しかないし、そんな彼女のためにも。

「がんばろう」

「ん? 急にどうしたの」

「いや、なんでも。香織が期末試験で赤点なくて、補習なくて良かったなって」

「いちいちうるさいな~。まあでも、その全くその通りではある」


 予定通り無事に到着した私たちは開会式に参加。その後は早速他楽団の演奏が始まった。俺らの楽団は7番目。しばらくかかると思っていたが、着々と出番は近づいてくる。それに伴い、メンバーのそわそわが大きくなっていった。かくいう自分も例外ではないのだが。

3つ前の楽団の演奏が始まる前に舞台裏に回り準備を始める。泣けど笑えど、これがこのメンバーでの最後の演奏になる。悔いのない演奏にしよう。みんなで小さな声で円陣を組んで、ステージへと向かう。

全員で協力して楽器を並べてスタンバイ。俺も相棒を携えて席に座る。そうすると不思議なことに、さっきまでの緊張はどこかに消えて、覚悟が決まった。団長が入場し、一礼。みんなの緊張をほぐすように笑顔を作って見渡し、指揮棒を振り上げる。その瞬間、ホールの雰囲気が完成された。







 空気を整えるピアノ

 期待と寂しさを混ぜるヴァイオリン

 くじけないように支えるチェロ

 明るい未来を思わせるトランペット

 川に掛かる橋を魅せるチューバ

 橋を一歩ずつ歩んでゆくホルン

 背中を押して助けるスネア

 輝く一番星を奏でるハープ

 逢えた祝福の先にあるオベーション

 心に広がるミルキーウェイ








 結果は惜しくも2番目の銀賞。

「銀でも、とても素晴らしかった。これまでの中で間違いなく一番の演奏だった。おつかれ!」

 と楽団長。そう。もちろん結果にもこだわってはいたものの、何よりも良い演奏を目指していた。あと一歩だっただけに、余計悔しさは残るものの、俺としては納得できるものだった。

「はぁあ悔しいぃぃ!」

 薄ら瞳が潤んでいる香織。でも、その表情はどこか清々しいようにも見えた。

「おーーい。帰る前に全体写真撮ってかえるぞ」

 楽団は続くが、俺たちの楽団での活動は幕を閉じる。沢山の想いが詰まった楽団とそのメンバーたち。そこには感謝しかないし、思い出しかない。最後の記念撮影は最高の笑顔で。


パシャ




「なんでそばにいるって言ったのに。彦馬のバカ」

「ごめん……。って、俺が言うのおかしくねぇか?」

「てへっ! ごめん!」

その後、俺たちは音楽科がある公立の藝大を目指して、受験勉強と実習の練習を重ねた。だが、もともと2人で目指していた大学の偏差値に香織が僅かながら届かず。やむなく彼女は音楽を学べる私立大に行くことになったのだ。大学でも一緒だといいなとは思っていたが……。

「人生なかなか思うようにいかないな」

「うわ、18の子供が人生とか言ってるし。引くわ~」

「るせぇ。18はもう大人だよ。ほら着いた」

 今日は引っ越し前の2人でのお出かけだ。着いたのは香織が行きたがったイタリアンレストランだった。最初は高いのではないかと思ったが、思いのほかリーズナブルなメニューもあり、ありがたい。とりあえずピザ、サラダ、パスタを1つずつ注文して2人で分け合うことにした。

 みんなが生きていたときは、親たちも一緒にこうやって出掛けたものだ。受験で忙しかったのもあるが、それでもこうやって香織と出かけるのは久しぶり。一緒にご飯を食べて、他愛もない会話をして、笑って。たったそれだけなのに楽しくて。


 食事を済ませた後は、楽団にいたときにいつも練習していた公民館へ。何をしに来たのか。今日はこのためにヴァイオリンを持参するように言われていた。俺たちは今からここで、最後の「2人」での演奏をするのだ。シューベルトの『ソナチネ第一番ニ長調』。これのハープとヴァイオリン用に編曲されたものだ。これまでにも何度か合わせたことがあるので、練習は不要。

「香織。始めるよ」

「うん。いいよ、彦馬」

 音楽の会話とはまさにこのことを言うのだろう。お互いの音に聴き惚れながら、ときには揃えて、ときにはキャッチボールをして。誰かのための演奏ではなく、自分たち2人だけの演奏。離れ離れになるのを寂しむような、でもちゃんと心が通じていることを確認しあうような。そんな時間が二人の奏でる音に包まれて流れていった。


演奏を終えて、公民館近くに住む楽団長の家にお礼を言いに行った。これで今日の用事は終了。いつもの2人の分かれ道へと向かう。

「これからさ、勉強とか練習とかいろいろあって忙しいかもしれないけどさ、またきっと会おうね。もう一緒に演奏するのは難しいかもしれないけど、これまでと同じく気持ちは繋がってるから」

「そうだね。……ねぇ、香織」

「ん?」

 実は今日、香織と今後の大切な約束をひとつしようと、話そうと決めていた。

「あのさ、7月の話なんだけどさ。もし香織がよければ、会いたいな。それで、お互いのお父さんとお母さんのところに行ってさ。その時はもちろん弟くん連れてきてもいいし。それも今年に限らず、できる限り毎年」

「ほぉ……。うん! もちろん! 毎年7月に会おう。てか、7月に限らず、時間できたら会おうよ! キャンプに行って、虫に怯える彦馬も見たいし~」

「一言余計なんだよ。まあでも、うん。もちろん会える時に会おう」

 良かった。とっても大切な約束ができた。

 手をふり、俺たちはそれぞれの方向に向かって歩き始めた。さあ、帰ったら引っ越しの準備をせねば。




 そうして月日が経ち、大学でも日々練習と勉強を重ね無事に卒業。実力を認めてもらい、俺は今の交響楽団に推薦され無事に入団。香織も別の楽団に入った。もちろん約束の通り、毎年7月には時間を合わせて会い続けた。もちろんそこ以外でも連絡を取って練習や日頃の不満の話をしたり、時間を見つけてちょくちょく会いもした。


 もうすぐ目的地の地元に着く。今や駅周辺の景色も年ごとに新しくなっている。今日はいつもの通りまずはお墓参りをしてから、夕飯へ。香織の弟くんは都合が合わずに今年は別日に行くそうだ。

 ちなみに今日の夕食はイタリアン。そして今回実は、婚約指輪を準備してきている。命月にそんなことするかと思われるかもしれないが、むしろお互いの人生とよく向き合ったこのタイミングだからこそと考えた。

 新幹線が止まり、ホームに降りて、改札を出る。

 左手を見ると香織が、こちらを探していた。手を振ると気付いて笑顔をみせる。


「ただいま」


「おかえり」


 2人のこれからは、天の星たちにも負けない明るい未来が待っている。

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