第16話 龍舞山を登ってみよう!

 龍舞山は龍舞村のすぐ近くにある山。

 何でも龍が棲んでいるそうで、それ故にでしょうか? 自然豊かで、魔力の濃度も標高が上がるにつれて濃くなります。


「はぁはぁ」

「大丈夫ですか、アクアス様?」


 シュナさんが心配をしてくれます。

 私は頑張って作り笑顔を浮かべると、シュナさんに元気な姿を演出します。


「はい、大丈夫ですよ」


 全然大丈夫でも何でもなかった。

 正直な話をするととっても辛いです。苦しいです。体力的ではなく、酸素的にでもなく、空気の一部がおかしいです。


 それもそのはずでした。この辺りには魔素が充満しています。

 魔力の元素である魔素は濃ければ濃い程人体にも影響があります。


 モンスターに比べるもの何年はちっぽけです。

 人族系の亜人達にも多少だと問題はありませんが、最悪命を落とす場合もあるので注意が必要でした。


 それでも私に比べると余裕そうです。

 現にシュナさんが私の目の前を切り分けながら、山を突き進んでくれています。


「気を付けてくださいねアクアス様。この辺りは危険なモンスターも出没します」

「そうなんですか?」

「はい。ですので私から離れない……」


 ガサゴソ!


 急に草むらが揺れました。

 私とシュナさんの丁度間のようで、私が一歩前に足を踏み出すと、草むらの中から何か飛び出します。


「ガルガァァァァァァァァァァ!」

「きゃぁ!」


 狼なのか虎なのかその中間のようなモンスターが牙を剥き出しにして襲って来ます。

 私は悲鳴を上げてしまい、目を閉じました。

 

 食べられる。そう思ってしまった。

 体が震えましたが、すぐにその心配もないことを察します。

 だって今私にはシュナさんが付いていたからです。


 シュン、スパッ!


「私の主人に手を出さないでいただけますか?」


 シュナさんの目が赤々と輝きました。

 襲って来たモンスターを瞬殺すると、短剣を懐に納めました。


「シュナさん!」

「大丈夫ですかアクアス様! お怪我はされていませんか? 怪我をされているようでしたら、すぐにでも私が……」

「大丈夫ですよ、シュナさん。焦らないでください。私はシュナさんのおかげで、この通り怪我もしていませんから」


 私は元気な姿をシュナさんに見せました。

 顔色は少し悪いので心配しましたが、シュナさんはホッと胸を撫で下ろし、しゃがみます。

 私に謝罪するようです。


「申し訳ございません。私が付いていながらこの失態」

「失態でも何でもありませんよ。シュナさんは私を守ってくれたんです。それだけで感謝しているんですよ」

「アクアス様……ありがとうございます」


 シュナさんは嬉しそうに口角を上げました。

 表情筋が動いてくれるだけで、私は嬉しかったです。


「それでは行きま……」


 ガサガサ!


 草むらが揺れ動き、またしてもモンスターが飛び出します。

 今度は怪鳥のような姿をした猛禽類でした。


「キャッ!」

「邪魔です」


 シュナさんは飛び上がり様に、モンスターを瞬殺してしまいました。

 赤く爛々と光る瞳孔に視線を奪われる私でしたが、何だか危うく感じます。


「全く。私の主人を前に、襲おうと画策するのが間違いですよ」

「シュナさん」

「大丈夫ですか、アクアス様。この辺りはモンスターが多いことが現時点で明らかになったので、早急に下山を図った方が良いかと思いますが、いかがなさいますか?」


 シュナさんは早急に下山を検討し始めていました。

 ここまで来たのにそれはあまりにもです。

 私はそう思ったので、シュナさんには悪いですが、もう少し先に行きます。


「いいえ、もう少し進んでみましょう。ここまで来たのですから、何かあるかもしれません」

「かしこまりました」


 シュナさんは丁寧にお辞儀をしました。

 何でしょうか?

 私はシュナさんの圧倒的なまでの実力に保護されています。


(シュナさんは確かに優秀な方です。ですが、それでも人族の器に収まる程度ですものね。無理はしないでいただきたいです)


 それでもシュナさんはとっても強い。

 もちろん単なる強さを振り翳しているわけではなく、私を守るために一生懸命だったからこそ、カッコいいと思うのでした。

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