第12話 調べるにしても何から?

「ううっ……」


 少女は薄っすらと目を開きました。

 まだ寝ぼけているようで、虚ろな様子です。


「あっ、気が付きましたね。良かったです」


 そんな中、私は普通に声を掛けました。

 優しく穏便に、相手のことを思いやるようにして笑みを浮かべます。


「あ、アクアス様? わ、私は……ううっ!」


 少女は苦しそうな表情を浮かべます。

 青紫色をした装束は脱がせ、別のものを着せたのですが、青紫色の痣は何故か消えてきませんでした。


「動かないでください。要、安静です」

「は、はい。それよりもアクアス様が如何してこちらに?」

「袖振り舞を見学させていただいていたんです。それがこんなことに……」


 私がそう答えると、少女はハッとなる。

 何が起きたのか全て思い出し、申し訳ない気持ちになってしまいました。


「それでは私は、舞の最中に倒れてしまって……情けないです」

「情けない?」


 私は首を捻りました。

 何故か少女の表情は曇り始め、目が潤んでいます。

 苦しそうに汗がダラダラ流れる中、私の服の袖を掴んだまま離してくれません。


「情けないです、アクアス様。せっかくアクアス様が見に来てくださったのに……私は」

怜那れいなさんでしたよね」

「えっ、は、はい」


 私は少女の、怜那さんの名前を呼びました。

 驚いた様子で私の顔をじっと見つめる怜那さんに、私は言いつけます。

 厳しく、はっきりと突きつけました。


「情けなくなどありませんよ! 命あっての舞です。こんなところで、情けないなんて思わないでください!」


 私の言っていることは間違っていないはずです。

 怜那さんも目の奥から涙が込み上げてきて、ギュッと私に抱きつきます。


「アクアス様。私、死んでしまうんでしょうか?」

「死なせませんよ。これは呪いではなく、青紫色の花弁がもたらした何らかの病魔です。病魔なら、私の作る聖水が効くはずですから」


 実際、私が普段から持ち歩いている聖水を飲んで貰ったところ、少しだけ症状が軽くなりました。


 なのでこれは病魔で確定。

 ですが具体的な症状と原因は究明できても、そこから聖水を作るまでには時間が掛かってしまうのです。


 私は急いで何かに手を付けないと。

 そう焦る気持ちに急かされそうになりましたが、ここは冷静になります。


「怜那さん。起きたばかりで苦しいかもしれませんが、少し質問してもよろしいですか?」

「は、はい。何でしょうか?」


 ここで少しでも多くの情報を集めておきたい。

 怜那さん。少しだけ頑張ってください。

 私はそう念じながら、怜那さんに質問します。


「まず、苦しくなったのはいつですか?」

「舞を披露していた最中です」

「では、どのくらいの時間が経ってからですか?」

「舞は激しいものではないですが、拍数が上がってからなので、十分程です」

「その時、何か変わったことは?」

「変わったことですか? ……すみません、アクアス様。あまり覚えていなくて」


 それもそうです。

 真剣に舞に取り組んでいたのなら、尚更分からないはずです。

 私も目を奪われてしまったので納得なので、責めるつもりはありません。


「そうですか……分かりました。ありがとうございます、怜那さん」


 これはかなり難しい話になりました。

 とりあえず状況証拠は幾つか得られましたが、さて何から手を付けたら良いのか分かりません。


 困ってしまった私に、怜那さんは少し心配しています。

 病魔に冒されている方に、これ以上の心労を掛けるわけにはいきません。


「大丈夫ですよ、怜那さん。私が助けてあげます。約束です」


 私は怜那さんの頭を軽く撫でました。

 汗がまだ少し出ていて苦しそうですが、私も頑張らないと駄目ですと、奮い立てました。

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