最終話 自由の墓場で異団の傭兵団

 くらくらとする。

 意識が混濁に包まれている。

 黒い土煙がぶぁっと上がる。

 目の前に1人の美少女がいる。

 黒い褐色の肌をしており、まだ10歳そこそこ。

 だが現実はもっと背が高く。

 体はゴーレムのはず。


「なぁ、ダンツィ、行かないか差別のない世界へ」


「そうだな、ジンガダン」


 口が勝手に動く。

 ここはどこなのだ。

 ダンツィの消えている記憶なのか。


「あああああああ」


 場面は一瞬で切り替わり。ジンガダンの手は真っ赤に染まる。

 そこには無数のダークエルフ達の死骸が転がっていた。


 人間達が笑う。


「どうして、平和条約を」


 人間達が言う。異種族と平和など組めないと。


 人間とダークエルフの平和は反故にされる。

 ダンツィはそれを見て思った。


「殺さないと」


 ダンツィは何度も何度も多くの人達が死ぬのを見て助けられなかった。


「殺さないと」


「ダンツィ、顔大丈夫か」


 ジンガダンが心配してくれる。


「殺さないと、人間を殺さないと」


「ダンツィはいつも笑ってるなー」


「人間を皆殺しにしないと、殺さないと、この世界を、他の世界も人間を皆殺しにしないと」


「ダンツィ、正気か」


 また場面が切り替わる。


 霧に包まれている。


 多くの人間が死に絶える。

 この世界だけではなく他の世界の人間も。


「殺さないといけないんだあああああ」


 ダンツィは歩く、わくわくするように歩く、右手と左手に何かの首を持って。

 わくわくするダンツィは足で何かの何かを潰して歩く。


「魔王ダンツィ様のおなーりー」


 多くの異種族を揃えて。

 ダンツィはふんぞり返り、100万の人間を一瞬にして粉々にさせる。


「魔王ダンツィ様仕事終了なーりー」


 多くの異種族は頭を下げる。

 ダンツィの正体。

 それは。


「死にたくないなら平和を授けよう、さぁ皆で笑って楽しく、しないと殺すよ? 人間もだよ皆で笑って」


 息を荒げる声。

 ダンツィは恐怖で幸せを勝ち取った。

 きっと歴史書も記録書も全て、捏造。

 全ての真実。

 

 なぜ殺戮王がダンツィを求めたのか。

 ダンツィこそが危険そのもの。


 意識が闇に包まれる。


【どうして、お父さんは動かないの?】


 ダンツィは子供のドワーフに声を掛けられる。


「それは、死んでいるからだよ、人間に殺されて」


【どうして人間はお父さんを殺すの? 僕らは殺してないじゃないか】


「それは」


【相手がしたこと、こっちがして良いんじゃないの? お互い様でしょ】


 子供が尋ねる。

 それはダンツィそのもの。

 ダンツィの父親は人間におもちゃのように殺された。


「それはそれは」


「目を覚ませダンツィ」


「はぁはぁはぁ」


 目の前ではゴーレムの体で、至る所が千切れているダークエルフのジンガダンがいた。


「どうやら真実を見たようだね」


「ああ、あああ」


「それがダンツィの本当の記憶さ、自分自身の記憶まで改ざんしちまう。僕達はダンツィの意思を引き継いで人間殺しをしていた訳だ。真実を知った所で、さて、ダンツィ、本来の役目に戻らなくていい」


「はい?」


「こんだけ人間王国を砂にしたんだ。もう終わりさね」


「意味が分からないんだけど」


「お前はダンツィの記憶を引き継いでいる訳さ、ダンツィの力もな、さっきの戦いで使い方分かったろ」


「意味が」


「レベル∞にもなったし、お前等、異団の傭兵団がいれば大丈夫だろうし、僕はこの世界から退場するよ」


「ジンガダンお前」


「もう限界まで来てるのさ」


 ゴーレムの体が崩れ落ちる。

 ダークエルフの頭だけとなりオメガが抱える。


「君がいたから、ダンツィは全部狂わなかった」


「まぁ、差別は繰り返されるけど、お前等ならいけるだろ、じゃあな」


 ダークエルフのジンガダン、ここに消滅した。


 古代魔王オメガ、強制的な笑顔で平和を勝ち取った嘘の古代魔王ダンツィの意思を引き継ぎ。


 本当の意味で差別のない世界を作る。


 人間王国の本城とその地下だけを残し。

 沢山の生命が散り。

 多くの犠牲を出した戦いが幕を閉じた。


★★★自由の墓場★★★


10階層【平原】=魔法族レインボー

9階層【森】=エルフ族リナテイク

8階層【海】=リザードマン族ガニー、ゲニー

7階層【空】=ヴァンパイア族ヴァンロード伯爵

6階層【山】=トロール族グスタファー

5階層【迷宮】=アンデット族ボーン・スレイブ卿

4階層【洞窟】=人間族、剣の武帝ツイフォン

3階層【図書館】=グール族ブレイク

2階層【街】=コボルト族ペロンク

1階層【ダンジョンボスの間】=魔族魔王ルウガサー

0階層【墓場】=ダークドワーフ族オメガ。


「良いんですか、全てのダンジョンポイントを消費して、各階層の設備を強化して」


 その声は父さんが残したチャクターだった。

 消えかけていたのになぜかまだ生きている。


「ああ、良いんだ。人間王国を設立しなおす前に、このダンジョンを仮住まいとすればね、皆も楽しそうじゃないか」


 ダークドワーフのオメガがひっそりと呟く。


 この墓場には多くの人間と異種族と異世界異種族の死体が葬られている。

 ちゃんと埋葬されるようにと最後の力で皇帝陛下が言ったそうだ。


「本当の意味での悪とは何なんでしょうかね、多種族より他の人より優れていたい。それが強すぎると」


「だが、ダンツィは無理やりにでも平和にしてしまった。皆笑えば良いんだからと」


「くるってますねー」


「だが歴史には平和で素晴らしく強い魔王だったと残されているそうだよ」


「恐ろしいです」


「さて、チャクター俺は色々と仕事がある」


「面会ですよ」


「さて、誰か、ああ、君か」


 そこには勇者イルカスがいた。


「君と会うのは久しぶりだね、殺した時はすまなかった」


「いやいいんだ。俺も殺しすぎた。俺は異世界を渡って、本当の正義を見つけるよ。俺のようなモルモットにされるような子達を助ける」


「それがいい」


「最後に皇帝陛下からの遺言だ」


「まだありましたか」


「最後の34人目がどこかで生まれたから見つけて保護してくれと」


「はぁ、皇帝陛下が転生したという事か」


「だろうな、オメガなら見つけられるだろう」


「まったく」


「じゃあな、行くぞ俺は」


「死なないでくださいよ」


 勇者イルカスは空間を斬るといなくなった。


「さて、皇帝陛下でも探しますか」


 巨大な塔、地下深くに根好き。無人島にそびえる。

 そこにはレベル8000のモンスターばかり。レベル10000を超える異団の傭兵団が構えて守る鉄壁の自由の墓場。


 その塔から1人散歩するようにオメガが出発する。

 誰もその背中を追いかけない。


 ただ眼の前で赤ん坊姿で仁王立ちしているバカを見て。


「こちらが見つける前にどうやって来たんですか」


「いや、おいらはせっかちなんだよ、空を飛んできた」


「赤ん坊が空を飛ぶのかよ」


「現に飛べたぞ、さて、自由の墓場で1人の人間として話そう」


「まったく、次はどんな問題が」


「違う、ミルクの問題だ」


 オメガその場に倒れて、ため息をついた。


 空を満開、オレンジ色の太陽が支配して、輝いている。

 倒れたオメガの体を見下す者たち。


【団長何してんですか、仕事ですよー】


 異団の傭兵団に引きずられ、自由の墓場に戻される。

 その背中に乗る赤ん坊。


 その光景を見てくすりと笑う翼の生えたエルフの王子と姫。

 2人は空に羽ばたき。新しい大地を探しにいったのだろうか。


 とてもある意味平和だった。


===完結===



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チート級変り者傭兵団〜幸運製造で武具レベル9999、オレタチ無敵〜 MIZAWA @MIZAWA

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